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Movement Direction(ムーブメントダイレクション)とは?➀~役作り編~

ロンドンで舞台芸術分野で活動、リサーチをしている長野あみです。
私の専門分野、ムーブメントダイレクションとは何なのか、今回からより深く掘り下げて行こうと思います!
以前の自己紹介の記事でご紹介した通り、ムーブメントダイレクションの主な役割は

  • キャラクターの動きの演出
    (Character Embodiment)

  • アンサンブルの動きの演出
    (Ensemble Work)

  • 振り付け
    (Choreography)

  • ウォームアップ指導
    (Physical Warm Up)

などの、動きの観点から演出すること、つまり、
何(what)をするかだけでなく、どのように(how)するかに着目して、俳優を導く仕事です。

キャラクターの動きを作る

今回の記事では、ムーブメントダイレクションの重要な仕事の一つ、キャラクターの動きの演出について書いていきたいと思います。


こちら英語にはなりますが、私の学校の講師であるVanessa Ewanがムーブメントダイレクションを行っている動画になります。この動画とともに、演出方法を詳しく解説していきます。

動画内容

この動画ではヘンリック・イプセンの「人形の家」のノーラ役の動きを演出しています。
動画内コンテンツ:

  • ポートレート、絵画から役を作る

  • 動きのクオリティから、役の動きや仕草を知る

  • 動物の動きから、役に”なる”

  • 民族舞踊/ダンスから、役の動きを探る

  • 衣装から、役の動きを掴む

以下、これらの項目を詳しく解説していきます。

ポートレート、絵画から役を作る

絵画からは当時の歴史的背景、美の様式、階級などたくさんの情報が得られます。Vanessaは俳優に「これらの絵の中でどれがあなたに話しかけますか?」と問い、自発的に選ぶように促しています。その絵の通りに姿勢を真似してみることで、キャラクターの心情、見解などに対する洞察を得られることが期待されます。指先、背筋には神経が通っているので、役の心理状態がよりわかります。絵から柔らかさや固さを感じてみましょう。また、視線、首の角度からはその人の見解が得られます。

動きのクオリティから、役の動きや仕草を知る

この動画では、ラバンエフォートというイギリスでとても有名な演技アプローチが紹介されていますが、これは書き始めると1つの記事に収まらないので、また別の機会に詳しくご紹介します。
動きのエレメント:直線的か曲線的か、重いか軽いか、突発的か持続的かなどを組み合わせ、抽象的な動きから役の癖や傾向を探り、具体的な仕草や態度などを探ります。
ノーラ役の女優さんはfloating(浮かんでいるような)とflicking(はじくような)クオリティを選んでいますね。そこから、ペンを持った手の仕草や首の動かし方などキャラクターの日常動作を得ています。

動物の動きから、役に”なる”

動物の動きには、普段人間が行わない動作も含まれています。Vanessaはこれが俳優にとって、役に”なる”(transformation)ためのヒントになると仰っています。
動画内でノーラ役の俳優さんは、馬を選びました!彼女は「脚本には小さい動物や小鳥が出てくるけど、なぜか馬の待っている時の静けさや、動いた時のダイナミックさからノーラの要素を感じる」と語っていますね。
馬の動きを実際にやってみることによって、足の動きのリズムからノーラの抱えている不安に対する洞察を得たようです。
そして、その発見した動きを取り入れて、日常生活の動きに戻して、どのように応用できるか探ります。

民族舞踊から、役の動きを探る

動画では、「人形の家」に言及されているイタリアの民族舞踊タランテラをやってみています。
これは振り付けを目的にしているというより、ノーラ役についての研究、
なぜタランテラが劇中に出てくるのかなどの比喩的な意味合いを探るのが主な目的です。
速いリズムでの回転や、後ろに歩く振り付けに慣れ親しんだ身体は、どのようなものか。男性がパペットのように女性を操って踊らせるという特徴も押さえます。Vanessaはこの動きによって、後ろの見えない世界に飛び込む勇気が体験できると言及しています。

衣装から、役の動きを掴む

衣装は様々な役作りのヒントを俳優に与えてくれます。
コルセットなど物理的に動きに制限を与えるものから、
スカートの重さ、生地感など、体のどこに衣装は影響を与えるか、
どのような動きがやりにくい、またサポートを受けるかを細かく見ることによって、キャラクターの姿勢や仕草を発見することができます。
しかし、大抵の現場では、衣装が先に渡されることは稀です。
また汚れたりする可能性から、衣装さんから出し渋られることもしばしば…
ヒール靴などの動きにかなり影響を与えるものは、ムーブメントダイレクターが衣装部と交渉して、練習する時間をもらったりします。

まとめ

今回の動画では複数のムーブメントダイレクションの方法が紹介されているのですが、実際の現場では時間が限られている場合が多いので、脚本や役に適したものを選んだり、組み合わせたり、またそれぞれのムーブメントダイレクターによって、その方法ややり方も様々です。

この動画のように、特定の俳優と一対一で役作りを行う時もあれば、キャスト全員を交えて関係性を探るということもあります。

役作りは俳優によって自主的に進められる部分もありますが、
ムーブメントダイレクターがそのプロセスに入ることによって、
より客観的に、よりクリエイティブに役作りが行えます。

またリハーサル期間における早い段階でこのようなセッションを行い、俳優が役の身体を探り体感することによって、リハーサルが進むにつれ、キャラクターについてより多くの発見をできるようになります。

私が思うこの動画での一番のポイントは、ムーブメントダイレクターは、とても俳優の自主性を大事にしていることです!
俳優の自主性の尊重については、また別の記事でお話ししたいと思います。

以上になります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
また次回の記事でお会いしましょう!

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