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①〜小説『四国一周ひとり旅』〜プロローグ

プロローグ1 「きっかけ」

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実体験を元に描いている漫画『ザ・ワイルドマン』。しかし以前から考えていたのですが、今後描けるか解らないなという元ネタがいくつかありまして…

例えば、オレが一番最初に行った『四国一周ひとり旅』では、9日間にかけて東京から四国を一周して帰って来るものの、かなりのロングストーリーになってしまう為、1つのテーマでそんなに長期に渡って引っ張れるの?という微妙な判断に迷っています

いずれ描ければ描きたいけれど、そこまで連載自体が続くのかも解らないし、原案を小説化したものが、いずれ『ザ・ワイルドマン』として描いたとしても面白いかもなと思いました

その他にガチで血だらけ怪我人続出の事件や、エロを追究した果ての知り合いの体験談など、「面白いんだけどコレは描いてもいいのだろうか…」と迷っていた題材を、『闇ワイルドマン』として別ラインで分けるつもりだった話なんかも含めて、小説として書いてみてもいいかもなと思っています

いずれマンガ化できればネタバレですが、少なくても当面は出てこない話をマンガではなく文章として、日々のブログの合間に不定期で載せていこうと思います

ブログと違って写真とかは少なくなると思いますが、できればマンガ化したいぐらいの原案なので、それはそれで面白いと思うのですが、さてどうなる事やら……

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長年乗り続けてきたハーレーが、ちょっとした事故に遭って修理と改造のタイミングが重なっていた。どうせブルが働くバイク屋にしばらく預ける事になるのなら、自分の蓄えも足して他にやりたかったカスタムも一緒にやってしまおうというわけだ

春前に預けていて、納期は夏休み前まで

ここまで猛暑ではなかった当時は、まだまだ夏休みの楽しみは大きくて、せっかくの夏にバイクに乗れないなんてやっぱり考えられない

ただ、この頃には仲間たちと仕事や家族との時間の調整が難しくなってきていて、17年間続けてきた伊豆でのキャンプ『UTC』もいよいよ継続する事が難しくなっていた

思えばバイクに乗り始めてからずっと、仲間たちと過ごしてきたオレには、バイクでひとり旅をした経験がない

「さっきの車がマジでムカつくから追いかけようゼ」としょっちゅう制御装置が壊れるビッチや、「次に休憩に寄る所では何が美味しいのかな」と食べものの事ばかり考えているロナウド、「ホントに目が合ってオレを見てたんだって」と車中の女性ばかりを追って集中しないダニエルたちと、退屈しないハーレー生活を送ってきたが、オレ自身が一番最初に憧れたハーレー像は、広大なアメリカの大地を荷物を積んで1人で旅を続けている、そんな『自由』を見たからであって、でも現実には今までそんな体験をした事は一度もない、このままでいいのだろうか?と思っていた

もちろん単独でバイクに乗って出かける事は珍しくないし、それが泊まりであったりする時だってある

ただ、実家だったり、せいぜいがすっかり仲良くなった静岡の沼津の知り合いの所ぐらいで、行けば皆が迎えてくれる、それはもう『知った仲』の所へ行くからであり、未だ行った事のない、未知なる場所へ独りで飛び込むような事は未経験だった

「今年の夏休みは人生初のひとり旅に行ってみようかな…」ハーレーの納車のタイミングと、仲間たちとの生活環境のズレの時期が重なって、そんな事を真剣に考え始めていた

でも実際どうなんだろうか、やっぱり寂しかったり、つまらなかったりするのかな…女性ほど危険はないのだろうが、やっぱり合う・合わないがあるのだろうし、自分には合わない気もする…っていうか、そもそもドコに行こう?

時期が夏なら北上なんてあり得ない、やはり南下して行くべきだろう

知り合いの多い沼津がある静岡より先へ、行けるところまで行ってみようか……

そんな事を考えている中で、高校生の時に起きた『ある事件』を思い出した

「……そうだ、四国へ行こう」

プロローグ2 「始まりは修学旅行」

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高校時代、全寮制の男子校という学校だったオレは、まるで少年院のような厳しい環境で学生生活を送っていた

全室5人の部屋でテレビは禁止、早朝6時に起床、6時半に外で点呼と体操、7時には食事が3年間続き、学校の敷地の中に寮があるから外部の人とは会わない日があたり前で、外出は授業が終わってからの15時過ぎから夕食前の17時半までのみ。東京の隅の隅にあったその場所は、周りはクワ畑で電車が通る線路は単線一車線のみ、山田うどんがポツンと一件立っているだけの、外出したところで何も無いような場所だった

ただ、同じ環境で過ごすからこその仲間たちとの繋がりは深く、親元から離れて生活する同年代の思春期真っ只中の連中たちと、毎晩修学旅行のような日を送っては、先生の目を盗んで悪さばかりしていた

ある日、いつものように隠れてタバコを吸っていた時に、友達が修学旅行の話を持ち出した

「なぁ、今年の修学旅行、広島と倉敷だってよ」

「何それ? どこよ? バスで行くの?」

「新幹線だって」

「え〜…、今更場所を替えて修学旅行をやるようなもんじゃん……」

まさにその通りで、これが共学だった中学時代ならまた別の楽しみも広がろうものだが、毎晩男だけで顔を合わせて生活しているオレたちにとっては、何の魅力もない

「でもよ、夜とか外出できるらしいゼ? 私服で」

「マジで?」

「広島とか倉敷って、栄えてんのかな」

「ここよりはマシだろ、絶対」

吸い終えたタバコをいつものように壊れた焼却炉に投げ捨てて、だったら話は別じゃん? 何を着ていく? と盛り上がった

横田基地で米兵が持ち込んだ古着を買いあさっていた自分たちのファッションの、何がお気に入りで勝負服かというわけだ

出発は早朝の東京駅

新幹線に乗るからだろうが、そのおかげで前日に自宅に帰る許可が出されて、みんな当日現地集合だった

普通の高校生と違い、電車に乗る習慣がなかったオレたちには、東京駅までだって既に旅である

電車に乗る習慣がなかった中学を卒業してから、そのまま電車に乗らない寮生活を始めたからで、有名な東京駅ですら電車で行った事もなければ乗り替えなんかも解らない

そんなオレに当時付き合っていた5つ歳上の、23歳の彼女が見送りがてらについてきてくれた

「ホラ、あそこに固まっているのが学校の皆じゃない?」

「あ、ホントだ。悪い、助かったわ」

「……帰って来る日もまた、迎えに来るからね。気をつけてね……………」

「!? おい、どうした?」

無事東京駅に着いたホームで仲間たちを見つけて安心するオレを見て、彼女は涙ぐみ、突然泣き出してしまうのだった……

プロローグ3 「事件の予兆」

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大きな声で呼べば聞こえそうなぐらいの所で待つ同級生たちを目の前にしながら、突然泣き出した彼女の扱いにとても困った

同級生たちに見つかって冷やかされるのはまっぴらだが、そうじゃなくたって、早朝の東京駅のホームで下を向いて泣いている女性と、立ち尽くしている男の姿は目立つ

「……帰って来る日にもまた、迎えに来るから、気をつけてね……………」

「泣くなって…どうせすぐ帰って来るからよ」

そんな言葉しかかけられなかったが、実際たかだか三泊四日の国内、広島・倉敷への修学旅行である

何とか彼女を落ち着かせてお礼を言い、オレたちを乗せた新幹線が出発した

「なぁ、(私服は)何を持ってきた?」

「オレ、エンジニアブーツ持ってきたゼ(笑)」

「マジで? あんな重たいモン持ってきたの?」

新幹線の中のトイレは狭く、そこに友人と二人でギュウギュウになって煙草を吸いながらそんな話をした

当時エンジニアブーツならチペワかレッドウイングが一番カッコ良くて、たまたまパチスロでボロ勝ちした時にフンパツして買ったレッドウイングのエンジニアブーツは、オレの中で一軍から外せなかったアイテムだった

一張羅を着て夜に許可されている外出へは何処へ行こう?

そんな話で盛り上がっているとトイレのドアの向こうから咳払いが聞こえ、先生らしき人物がドアをノックした

非情にマズイ

オレたちがドアの向こうが誰かが解らないように、相手も中に居る自分たちの事は解らない

ただ、個室であるのに話し声がしている時点で、同じ車両に乗る学生たちである事は容易に想像できるし、そんな所で隠れてる目的なんかもバレバレのはずだ

息を殺して慎重に、充分過ぎるくらいの時間をとってトイレから出た時には誰も居なかったが、この辺りから既に事件の予兆は始まっていた

宿泊先である広島のホテルは、昭和天皇も泊まった事があるぐらいの格式が高い綺麗なホテルで、オレたちの学校以外の一般客も数多く泊まりにきていたぐらい、大きなホテルだった

だが、逆にそんな所へ男同士だけの高校生が来てどうするんだ?という虚しさもあり、改めて寮生活の場所が寮からホテルに変わっただけの、物足りなさを先に感じてしまうのだった

割り振られた部屋に入って間もなく、マクラで友人同士と殴り合っている内に、誰かが他の友人の部屋を見に行こうと言い出した

それならばマクラを持って行き、友人の部屋のドアをそっと開けて手だけを差し込み、部屋の電気を消してみんなでなだれ込んでマクラを持って暴れようと発展し、到着早々にマクラを片手に友人の部屋を回った

思った以上に効果が大きく、襲撃を受けた友人は次の部屋に行く時には同じようにマクラを持った仲間となり、部屋を回る度に参加者が増えて行った

「今度はムカつくヤツの部屋で暴れようぜ」

そんな事を言い出すヤツが現れ、それから目的が違うものに変わった

もともと寮生活を送る為に校則はとにかく厳しく、ケンカやイジメは一回見つかっただけでも即退学になる

その為に退学になって学校を去る者は後を絶たなかったし、事実卒業するまでに100人以上が退学になった学校だった

当然普段我慢しているのだが、それを相手も理解していて「ボクが何かされたらキミが退学になるだけだよ」とでも思っている様な、勘違いした輩も少なくなかった

そんな勘違いした連中ばかりのいる部屋に、同じ様に部屋の電気を消したと同時に流れ込み、マクラを持って暴れていると、友人が振り回したマクラが部屋の蛍光灯に当たって落ちてきたり、中に居たヤツのメガネがフッ飛んで割れたりした

バカをやって盛り上がり、やり過ぎてしまったのだ

やり過ぎで済まなくなったのは、その割れたメガネの持ち主が、たまたまその部屋に来ていた英語の先生のメガネだと解ってからだった

プロローグ4 「そして事件は起きた」

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「いたたたた……」

部屋が並ぶ長いホテルの廊下で、1時間みっちり正座させれて部屋に戻った頃にはすっかり夕方だった

自分たちがしでかした事よりも、『あの場に英語の先生が居た事がついていなかった』とボヤいていると、正座していたオレたちをからかっていた友人が冷やかしに入ってきた

「なんか1階ロビーの先に大きい岩風呂があって、秋田県から来た共学の高校の女子が入ってるらしいゼ♡」

「マジ?」

「脱衣所とか覗けないのかな」

「行ってみようゼ」

全く反省もなく次の行動に移る理由の大半は、「止めようぜ」と言い出して同学年の友人たちに『ビビってる』と思われる事で、そんなつまらない意地の為に再びみんなで1階の岩風呂に繰り出した

実際は『女湯』の暖簾が下がる脱衣所の、曇りガラスの扉を「開けて♡」とフザけて数回叩いただけで、曇りガラスだったので誰かは居たが、誰かも解らないし何も観てはいない

それでも騒ぎが大きくなってしまったのは、相手の高校の女子生徒が先生に泣きつき、先生がホテルに通報し、ホテルから自分の学校に注意が来てしまったからだった

言うまでもなくこっぴどく怒られたオレたちは、とうとう翌日に一泊二日で帰される事になった

学校から自宅に連絡がいき、翌日保護者が東京駅まで迎えに来るようにと告げられたオフクロは泣いたらしい

ちょっと納得できなかったのは『覗き』は犯罪だけど覗いてないわけで、そこは最初から悪フザケだった事は事実として伝えたいと思い、自分からも自宅に電話して説明した

怒られるのは当然だが、泣くほど悲しませるような犯罪をしたという学校からの報告は少し違うと弁明し、親が迎えに来るほどでもないと断った

オフクロは納得したが、ただ保護者が来るようにと言われていると言い返され、普通自動車免許を取ったばかりで車に乗りたくて仕方のない兄が「だったらオレが行く」と言い出してなんとかまとまった

もう一件連絡しなければならないのは行きに東京駅まで見送りに来てくれた彼女で、「すぐ帰って来るからよ」なんて言っておきながらホントに翌日帰る事になってしまった

普通に三泊四日を過ごした最終日、また東京駅まで迎えに来ると言っていたが、それも断らなければならないし、その理由も話さなければならない

「友だちと女風呂を覗きに行って…」なんて言ったら、何て言われるのだろうか

オフクロに連絡するよりもよっぽど気が重かったが、電話して事情を話し、やっぱりここでも泣かれて「何やってんの」と怒られた

翌日の早朝、文字通りトンボ帰りで東京に戻る事になったオレたちは、ホテルの前に集められた

他の生徒は今日からはバスに乗り、広島・倉敷を観光するらしい

当時完成して間もない瀬戸大橋を渡るとの事だが、先生のご好意でオレたちも電車でなら連れて行ってやるという

当時はもちろん知らなかったが、本州と四国を結ぶ瀬戸大橋は、高速と重なって鉄道も通っており、他の生徒はバスで、オレたちは自分の荷物を持って電車で渡り、最初の駅でUターンして戻ってくるというわけだ

「どうせ帰らなきゃいけないなら面倒くさいからサッサと帰りたい」なんて最初は思っていたが、左右が全面瀬戸内海で、渡った先が四国という壮大なロケーションにはただただ驚いたし、橋を渡る電車に乗りながら「よくもまぁ、こんな橋を作ったものだ」と感動した

それ以外に大した記憶はない

苦労して重たい思いをして持って行ったものの、何の役にも立たなかったエンジニアブーツや、免許取り立てで迎えにきた兄の車に乗って酔った事よりも、瀬戸大橋から眺めた瀬戸内海と四国を観て、「いつかもう一度来てみたいな」と思った

長く忘れていた記憶だったが、それからハーレーに乗る事になって、北海道よりも小さい四国なら、10日ぐらいあれば一周できるのでは?と思った

そうだ、左側通行の日本は、時計回りに走れば延々と海を眺めながら四国を一周できるかも知れない

夏休みにもピッタリに思える、素晴らしいアイデアに思えた

オレの人生最初のひとり旅の目的地は、こうして『四国一周』へと決まった

そうだ、四国へ行こう……


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バイク旅の記録小説。完結済みマガジンです。

73年ショベルでの初めてのひとり旅の記録小説。道中ホントにいろいろあって、読み応えあります(^ ^;) 漫画の元ネタにするにふさわしいトラ…

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