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種の近交退化と、地方の衰退
外山滋比古さん著『思考の整理学』を読んでいると、「インブリーディング」という言葉が登場した。
本の要旨は遺伝学、生物学とはほとんど関係ないのだが、興味を惹かれたのでこの言葉を少し深掘ってみた。
「近親交配」や「内系交配」とも言われるが、親縁係数が0でない個体同士を掛け合わせることを指す言葉だ。
例えば、ニワトリでも同じ親から生まれたもの同士を交配させ続けていると、だんだんと劣性になってきて、卵も産まなければ、体も小さくて弱々しいものになってしまう。人間も生物学のルールに則って繁殖していくので、日本でも戦後制定された民法によって三親等内の婚姻は禁止されている。
当然、生物学的にはよろしくない現象にあたる。
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早速話が飛ぶが、僕は中学校や高校の同窓会があまり好きではない。
同窓会が開かれると、誰と誰が付き合ってたとか、ケンカが一番強かったのは誰だとかいう具合に当時の思い出話で盛り上がることになる。だいたいそういう話で終始し、「縁もたけなわ…」と会はお開きになる。その翌年もその次の年も同じことを繰り返す。同窓会というものは多分そういうものでそれが定型なのであろう。
正直それに馴染めなかったので、クラブでノリきれず端っこにちょこんと座って楽しそうにフロアの真ん中で踊る人たちを羨ましそうに観察する内気な男子大学生のように、端から同窓会を観察していると、同じように馴染めない人が一定いることが見てとれた。
そこには共通点があって、みんな早くにそのコミュニティから軸足を移した人たちだった。昔話に花を咲かせることができるのは、メインキャストとして楽しんでいた人たちで、端役を与えられ、その時その場で持ち上がっていたことに乗り切れなかった人は、当たり前の話だが、そんな昔話で盛り上がれるはずはない。
しかし、当時乗り切れていなかったからといって今もそうであるかというとそんなことはなく、超大手企業でバリバリ仕事をしていたり、企業して早くに成功した者もいたりする。当時には当時の、今のコミュニティには今のルールがある。
そして、楽しそうに昔話をする人たちを観察するとそこにも共通点がある。メインキャストだった人たちは、進学、就職、結婚とライフステージを変化させても、ほとんど当時のコミュニティの近くから拠点を移していないのだ。そのコミュニティが快適な人たちは、そこから抜け出す理由を見つけ出せないから、当然その状態を保存する力が働き、そのまま時間が経過する。その結果、コミュニティは画一的なものになる。
地方が画一的で硬直してしまう根本は、ここにあるような気がする。
さらに、東京への一極集中の流れが地方の画一性に拍車をかけることになる。
たとえば、地方Aのコミュニティがあまり快適でない人(Aさん)がいたとする。Aさんがより快適な場所を求めてコミュニティの軸足を移すときに考えられる選択肢として、東京が強い引力を持ちすぎているのがまずい。こういうときに地方B、C、Dという具合に選択肢が分散していれば、各地方にもある程度新しい人が入り込むことになり、地方の画一性を和らげる力が働く。のだが、ほとんどの地方はそうはなっていない。出て行ったらそれっきり。新しくコミュニティに人が入ってくることは非常に稀だ。
そんなわけで、東京への一極集中化によって東京が強すぎる多様性を持ち、地方の画一化が激しくなるというアンバランスな構造になってしまっているのではないかと思っている。
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「インブリーディング」の話に戻すが、
一般的に近親交配を防ぐために、個体群を大きくすることの重要性が語られることが多い。
その個体群がある程度以上小さくなると、必然的に近親交配が起こりやすくなり、個体の生存、あるいは子孫を残すのに不利な遺伝子が顕在化する。
出典:Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%91%E8%A6%AA%E4%BA%A4%E9%85%8D#%E4%BA%BA%E9%96%93%E3%81%AE%E8%BF%91%E8%A6%AA%E4%BA%A4%E9%85%8D)
個体について言えば、一般的な交配(血縁関係の遠い個体との交配)では、劣性遺伝子を両親とも偶然に持っていることは確立的に少なく、さらに、親の一方から生存に不利な少数派の遺伝子を受け継いでも、もう一方の親からそれを打ち消す優性の遺伝子を受け継ぐ可能性が高いため、結果としてその形質が子供に現れる可能性は低くなる。
しかし近親交配の場合には、両親が同じ劣性遺伝子を持つ可能性が高いため、その劣性遺伝子が子に伝わって発現する可能性が高まる。端的に言えば先天性の病気や障害が起きやすくなるのである。
つまり、近親交配を繰り返した場合には劣性遺伝子という形で隠蔽されている、障害をもたらしたり致死性のある遺伝子が顕在化しやすく、内臓疾患や骨格異常などの先天性異常が発生しやすくなる。これを「近交退化」というらしい。
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同窓会の話から地方の画一化による弊害について語った時点でお察しの通り、遺伝学的な観点における「インブリーディング」について少し学ぶと、これが非常に街の衰退のメカニズムに似ていると思った。
地方から若者が出ることで人口が減り、個体群が小さくなっていく。さらに、そこにいる人たちも(親縁係数的な意味ではないにしても)画一化が進むことで、生存に最適ではない仕組みや風習が惰性で残り続けたり、改悪が進んだりする。
生物学的な種の保存のために、個体群をある程度の数量を保つこと、各個体群の種の多様性を担保することが非常に重要であるが、街を健康的な状態に保つためにもこれと同じことが言えるだろう。
ここで論じたからといって大局になんら影響を及ぼさないことは分かってはいるが、東京への一極集中の流れから身を移すことのできるコミュニティの選択肢を増やすために、土着性を加味したビジネスプロデュースができる人材が各地に散らばっていく流れが必要ではないだろうか。
各地で魅力的なビジネスがで生まれれば個別のスキルを持った人が、自分に適した土着性に惹かれて移り住むことができる。そうすると街全体に多様性が出て健康的な状態が保たれる。
そういう意味で、起業家や、ビジネスプロデューサーへの社会的な期待はかなり大きいように感じている。新型コロナウイルスの影響で働き方に多様性が出て、距離が仕事をするのにそれほど大きな問題ではなくなってきた。地方はこれを追い風に変えて優秀なビジネスプロデューサーをどんどん招致し、新しく育て、魅力ある仕事とコンテンツを街に生み出すことで個体群の数量(人口)を増やし、多様な個体が集まるコミュニティに仕上げていくことが求められるのではないだろうか。