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tari textile BOOK 前編 第1章 課題①

課題①

経緯たてよこ共に購入の手紡ぎ糸を使用。この糸をこぶなぐさと栗の皮で染める。緯糸はどちらか1色のみで、経縞になる。経糸250本、半反。

 

 

 今でもよく覚えている。大阪船場にあるテキスタイル製造卸の会社で企画営業として働き、3年目の研修旅行の日。北陸産地へ向かうバスの車内で、隣に座る、芸大で織物を専攻していた後輩と、世界各地の織物や手織物の製作過程などについて楽しく話していた。私自身は学校で専門的に織物の技術を学んだ経験はなかったが、そういった世界各地の織物など生地全般に興味と関心があった(だからこそこの会社での仕事がなんとか勤まっていた)。彼女ももちろん織物が好きで、大学時代から実際に作品づくりをしており、その話にも私は興味津々。後輩に作品づくりの様子などについて教えてもらいながら、2人でマニアックな話に盛りあがっていた。

 そしてその時、唐突に「いや待てよ、私も自分で布を作ったらいいのでは!」とひらめいたのだ。それまで、布を作るということは芸術家やその道一筋の職人の仕事で、自分とは別の世界のことのように思っていた。それもあってこの時は、少々大げさだが、世界を揺るがす大発見につながるかもしれない自らのひらめきにぞくぞくしている研究者、のような気持ちだった。「もしかしたら私も布を作れるかもしれない…」

 稲妻に打たれたように、という喩えはよく聞くが、稲妻ではなく、宇宙空間に高速で漂う1粒の素粒子が、たまたま私の身体の中を通り抜けた瞬間だったのかもしれない。身体的にはそのくらいの微妙な変化だったが、とにかくその時は自分の中の何かのギアがカチリと入り、それ以後世界の様子が(私の様子が?)ゆっくりと変化していった。

 

 その会社では、主にポリエステル素材の服地を扱っていた。糸の種類や織り組織、布の名前を覚えるところから始まり、染色やプリント、後加工といった生地の製造工程を実際に現場に足を運びながら理解し、風合いや強度など生地の特性が製品にどう影響するかを考慮しながらお客さんに提案するところまで、1から、実践的に生地のことを学んでいった。そのように生地の知識を身につけながら、社内外の生産部隊と協力し、お客さんの喜ぶ生地を作り、売る、ということに夢中で取り組んだ。特に、巷で売れ行きが良さそうな生地、自分がかわいいと思う生地を企画し、お客さんに提案することがとても楽しく、得意でもあった。

 しかし企画営業とういう職種は、在職期間が長くなるにつれてもちろんノルマもどんどん大きくなり、私にとても重くのしかかってきた。営業としては一番大切な、とにかく数字を積み上げる、という仕事が私にとってものすごく難しく、本当にどうしていいのかがわからず、その部分で自分の限界を感じていた。

 そんな時、別世界の話だと思っていた「自分の手で布をつくる」という突然のひらめきが、リアリティを伴って身体の中でゆっくりと、確実に存在感を大きくしていった。

 

 

 こぶな草の黄色が中心の経糸に、栗の茶色を緯糸に交織することでどんな見え方になるか試した。ネイティブアメリカンや新世界の先住民族をイメージした経縞を考えた。

 生まれて初めて自分の手で織った布。とはいっても糸はまだ経緯とも購入糸だ。さあ、これからいよいよ始まる。どんな布を作ることができるだろう。楽しみしかない。

作品NO.1

 →経糸:こぶな草(みょうばん)、栗(石灰)、藍3号

 緯糸:栗(石灰)


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