「tari shirt展 ~タリ族の衣文化~」 展示補助資料 #1 「肉まん帽子」期
「肉まん帽子」期
とある冬の朝。洗面所の前にあるカゴの上から、灰色のフェルト地、丸い形の帽子を取り出し、満足げにかぶる少女がいた。その帽子の縁には一周、同じ素材の2センチほどのチューブ型のつばが付いている。年の離れた姉二人には、その少女の見た目がまん丸だということもあり「肉まん帽子」と呼ばれている。どうやらその帽子はもともと姉のものだったようだが、二人ともあまりかぶらずしだいに忘れ去られ、長い間カゴの上に置かれていた。
少女の名はタリ。歳は6歳か7歳。ようやくかねてより憧れていたその帽子をかぶることができる頭の大きさになり、姉から譲ってもらったのだ。家族に肉まん帽子とからかわれてもなんのその、嬉しくて毎日かぶっている。家の中では朝学校に行く前に、休みの日にはちょっとしたお出かけに、相棒のようにかぶっていた。
これがタリ族の衣文化の原風景かもしれない。お気に入りの衣服を(この場合は帽子だが)お供のように、しかも簡単に飽きることなく何年も身に着ける。
本人は至って幸せなのだが、家族から見ると肉まんのような帽子をなぜか嬉しそうにかぶり、他の可愛らしい衣服や小物にあまり興味がなく、謎のこだわりに見えていたようだ。
小学校時代は、夏休みの帰省の前やちょっとした時に母親と近所のイトーヨーカドーに行き服を買ってもらうことが楽しみで、選ぶときは真剣そのものだった。
どうもこの頃からカジュアルな服が好きだったようだ。母親にフリルやレースが付いたいわゆる女の子らしい服を勧められても、しっくり来ない。結局、ボーダーのニットワンピースやロゴTシャツ、フード付きパーカーなどを買ってもらい、お気に入りとなり何度も、破れたり伸びたりして着られなくなるまで何年も着ていた。
姉のおさがりの服もたくさんあったが、その中でも厳選したアイテムで自分の好きな上下の組み合わせを作り、これまた繰り返し着ていた。
当時はそれが当然であるように服を選び着ていたけれど、今思えば、古いものでも新しいものでも、謎ではあるが何らかのこだわりを持って選んだお気に入りの衣服を毎日の生活で繰り返し身に着けることは、タリにとってとても重要な事だったのかもしれない。チャーリーブラウンのブランケットのように、心の安定に繋がっていた。
このことは、現在にも繋がっているタリ族の衣文化の萌芽であった。