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【歌詞】「虹」 かける

<歌詞>


晴れ渡る空 通り雨知らせる電子音
走り終えた鼓動がいつもより早い
なんだ?この胸騒ぎ
晴れた先にはそびえたつ雲
ふとボールがきれいな弧を描く
あぁ、そうだ
探しに行かなきゃと思いがあせる

開け放った窓
雨の匂いが通り抜ける
風で朝キメた前髪が崩される
なんだ?このざわめきは
乱暴にめくれたページ
ちらっと「に」と「じ」が輝いた
あぁ、そうか
四角い空に大きな弧を描いてみる

この感じはなんだろう?
この感情の名前がわからない
この風はなんだろう?
この風の行方が見つからない
意味はなに? 目的はなに?
そんなことはいいからさ
意識が遠のく前に…次の呼吸をしなきゃ

 
さぁ!雲が裂けて光が差す前に行こう!
その感情のそれでいい
その気持ちのままかけるんだ
さぁ!その風に身を任せて突き進もう!
とにかく、いいからさぁ!全力前進 未知創造
鮮やかな虹を見つけに行こう!探そうよ!

 
空が急に重くなる
あっという間にいつもの土砂降りか
雨は自由に道をつくるけど
雨が止んだら消えてしまう
でも私はどうだろう?
この気持ちは消えそうもない
もうこれ以上待てないや
今から行くから待っててね

 暴れ舞う風が問う
雨の後に何があるか知ってるかい?
ああ僕だって気付いてる
ただ踏み出せないだけなんだ
裂けたページをもう一度眺めてみる
やっぱりそうだよな
そうか自由に虹をかければいんだ
そうだ、風に思いを乗せてみよう

 どれだけの人が雨の後に虹を探すのだろう?
僕や私だけじゃないはずだ
本当はみんな気付いている
ただ分からないことが怖いだけなんだ
そりゃ、そうだろうと雨が歌う
それでもやるしかない、と風が奏でる
その胸の中にかかる虹を信じるんだ
その強い思いは確かだから

やったもん勝ちだ、さぁ、行こう
その気持ちのままやってみればいい
全力でまっすぐ 突き進もう!
その勢いで誰も見たことない
自分だけの虹を描こうよ!

 
いいから、そんなに考えるなよ
色とか形とか結果なんて…そんなの関係ない!
いいから虹に向かって駆けようよ
思いをそのまま言葉で伝えるんだ
そう自分だけの虹を描けばいいんだ

思いはきっと届く!
風に乗ったノートの切れ端が羽ばたく
そこには虹の中で鮮やかに染まる二人が寄り添っている


以下、歌詞の設定・背景



歌詞連動_ショートストーリー

<わたし(スポーツ女子)>

夏から秋へと少しずつ進んでいるんだろうけど、屋外でスポーツをするにはまだまだ過酷な気温が続いている。真夏日が減って少し過ごしやすい日が増えたと朝の天気予報でも聞いたけど、天気が不安定でこの頃は帰り際にやってくるゲリラ豪雨にも気をつけてと言っていたっけ。それはそれで困る。

市街地から少し離れたちょっと小高い丘の上にある高校のグラウンドでは、熱中症対策で制限されていた屋外の部活動が解除され、みんな青春を浴びるように思い思いに汗を流している。
今日のグラウンドは金曜日だからサッカー部と陸上部が優先的に広く使う事が許されていて、それぞれが邪魔しないようにキレイにふたつに分かれて使っている。

そんなことはどうでもいいんだけど、ガチ体育会系部活動特有のあの掛け声、なんだかわからないし、なにあれ、鼓舞しているのか?それとも、ヤジなのか?もやはあれは誰にかけている呪文なんだ?いったい何の言語なんだよ…
そんなの真剣に考察する必要ないんだけど、とにかくなんだか頭がおかしくなりそうだ。

 ねぇねぇ、アレ見て!なんかいつものゲリラ来そうじゃない?もしかして呼んだでしょ?
スタート地点に戻りながら冗談を言っていると、右腕のスマートウォッチの電子音が遠慮せずに割り込んでくる。はいはい、いつもの雨雲レーダーの通知でしょ。
って今日は何色かな?ヤバ!赤いのがこっち向かってるって!あと15分後に降り始めるらしいよ。
じゃあ、今日はこれで最後の一本だね。
ところでさぁ、最近なんでこんなにゲリラ豪雨が多いんだろう?
えっ、あれでしょ?何だっけ?何とか現象とかってウィキペで見たよ。

でさぁ、雨が降った後って、なーんかアレ期待しない?あぁ、別にその…本気でそんなこと思ってる訳じゃないけど、なんていうのかな…その、なんか見つけると思いが届くような、願いが叶いそうな。そういえば最後に見たのって、いつだったっけな?
あれ?何考えてるんだろ、私は?なんかすっごい恥ずかしい事言いそうになってる…やば、熱中症かも…
その時、今まで全然気にしてなかったのに、急に向かいのサッカー部のイミフな掛け声とともにボールが飛び交っているのが横目に入る。
そのうちの一つが灰色の空にキレイな弧を描いた。
急にドキっとして、鼓動が早まった気がした。

えっ?まだ2、3本しか走ってないし、まだまだウォームアップなのに。
いや、そんな感じとは違うことぐらいさすがに私だってわかる。じゃこれはなんだ?
あっ、ゴメン!なんかちょっと今日は体調が悪いみたい。やっぱり次の一本やめるわ。それにほら、ゲリラ豪雨がマジでヤバそうだし、すぐに止めて撤収した方がいいと思うんだ。
ホントゴメン、先にあっちでクールダウンのストレッチしてゆっくりしてるね。たぶんちょっと休めば大丈夫だと思うから、ゴメン、片付けお願い。明日か明後日か今度一緒に帰ったときいつものあれ、おごるからさぁ…

一呼吸で一気にまくし立てて、最後の「さぁ」が相手に届く前に汗だけ残して校舎の影に溶けてしまった。

 <ぼく(ふつうの男子>

放課後のガラガラの教室にポツンと一人で何かノートに書き込んでいる。教室は昼間のざわつきがキレイに片付いていたが、蒸し暑さだけは体にまとわりつくように残っていた。
机につっぷしてぼんやりと外を眺めながら、さっきまでのエアコンの余韻で過ごすのは無理だなと、窓を勢いよく全開にする。と同時に埃っぽい湿った匂いを乗せた風が勢いよく吹き込んできた。当然、優しくもない風はアレンジのかなり効いた髪型へと変えられ辟易する。
風はそのまま机に放置したノートのページをいたずらにめくる。
床に落ちる前に伸ばした手の先で二文字だけ輝いているのに気づく。「に」と「じ」だけが意思を持って飛び込んでくる。
それはすぐに鼻の奥にツンと刺激を与え、外の景色がさっきまで眺めていた雰囲気とは違う感覚にさせる。

あの風は何か叫んでいたような、何か訴えていたように感じたけど、あれは何だったんだろう?
ところで僕はここで何をしているんだ?
いったい何なんだ、この感情は?名前を付けるとしたら何て言えばいいんだろう。
いや、そんな分析や説明を考えてる場合ではない感じがする。
どれくらいの時間考えていたんだろう…いや、何も変わってないし、秒針はまだそこにある。
それよりもなんだか息苦しいな、あーそっか呼吸を忘れていた。危ない、危ない。

これ以上考えてもしょうがない、身体の力を抜いてあの風に身を任せるのがいいみたいだ。
そして、僕は無意識に自然とこうするのが今は一番いいみたいだ。
空に向かってバイバイするように腕を伸ばして大きな弧をいてみた。

<雨と風>

いいねぇ、まさにこれが青春ってやつだね!
でも、それだけじゃまだまだ足りないでしょ!
せっかく気づいたその感情、そのままじゃもったいないよ。
何も考えずに思いのまま飛び出しちゃえばいいんだ。
何も怖がらずに言葉にすればいいんだよ。
だってさ、雨の後には…知ってるだろ?
いいから、先の事なんて考えないで見つけてみなよ!
自分だけの虹をかければいいんだよ!

〈そして…〉

ゲリラ豪雨特有の風もかなり強かったが、彼女は普段の脚でそれくらいじゃ押し負けない。
いや、豪雨とか強風とか彼女を止めることなんて誰にもできそうにない。今の彼女が持つ信念と強い意志に勝るものなんてあるわけがない。
ただ、今さっきまで走り込みをしていた彼女の服装でこの豪雨の中を走れば、周囲の男子共はそれに目を奪われてしまうのは仕方がない。
だけどそれでも、彼女はそんな露わな自分の姿を知ってるのか、それもまたホントの自分らしさだと思うことにした。そうすることで彼女は全力で前に突き進める。
そう、あの瞬間から待つことなんてみじんも思っていなくて、今から行けば間に合うと信じてそれを走る力にしていた。

突風に惑わされた彼は大きめに腕を振りかざした後、しばらく風と会話していたようだ。
なんとなくだけど、それはこう聞こえた。
「雨の後に何があるか知ってるかい?」
いや、何か違う。聞こえたんじゃなくて、自分の中で歌のように響いたんだ。
そう、そんなことは自分が一番わかってる。
ただ、ちょっとこれまで感じたことないような感情に戸惑っていただけなんだ。
そんなことはいいか僕は何をしたらいい?
手の下にあるノートにもう一度意識を戻して、深呼吸をした。
すぐに白紙のページを開いて、おもむろに破り割いた。そこに蛍光ペンで何も考えずに思いを描いてみた。
一本の弧を描くと、そこから先は急に気分がとても楽になって、同時になんだか恥ずかしいけどこれまで感じたことない心地のよい感情に変わっていのがはっきりと分かった。

それでこそ、青春だね!
それでいいんだ、今の君たちにはその強い感情を正直に受け止めて未知創造の先へ突き進めばいい。
理解できなくてもいい、だって論理や計算で解けるようなものではないから。いや答えは一つではないし、そもそも答えがあるなんて概念を考えることじゃないから。
とにかく、今はその感情のままやればいい。
ただ、ただそれでいい。
そうすれば、どんなことが起きても(結果になっても)この先大丈夫だから…自分を信じて。

〈… End〉

豪雨と風は天気予報の通りすぐに通り過ぎた。
「雨の後には…」
空にはまだ分厚い雲があったが、徐々に雲が避けていく。
陽光はずっとその奥で待っていた。
「今からやるから待ってて」

彼は破ったノートの1ページを折りたたんで、手に持ったまま何気に窓枠に手をかけて空を眺めていた。
風の勢いはだいぶ弱まっていたが「今だ」と、ちょっといたずらに奏でた。
彼の手から奪った1ページはフワリと浮き上がり、窓の外へと舞い飛んだ。
それを見ていた彼は心なしか晴れ渡る気持ちでスッキリしていた。
空を見上げた時、陽光が差し込んできて何かが起きるのだと、そんな期待がこみ上げた。

その頃、校舎の屋上にびしょ濡れの状態で彼女は空を眺めていた。
勢いよく校外に飛び出たして走りながらどこに行けばよいのか考えていたとき、豪雨の中ではずっと歌が聞こえていた。その歌に導かれるように自分の呼吸だけを重ねていくと、気がついたときには見覚えのある高い場所にいた。そこはまぎれもなくいつもの学校のいつもの屋上で、言葉にならない何かに期待を抱いていた。

風のいたずらで彼女の視界にあの1ページが舞い込んで、思い切ってつかみ取った。
ちょっとクシャッとなった1ページを広げると、そこには虹の下で幾重にも重なった色で2人が染められていた。

空には二段に重なる虹がかかっていた。
遠くのその虹の下には寄り添っている2人の幻影がぼんやりと見えた気がした。

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