月ミるなレポート⑲
月ミるなは意のままに世界に誕生する。
月ミるなの観念技術
たとえば月ミるなが闘技場で苦戦しているとしよう。観客席では女子高校生の姿をしたおじさん達が一心に祈り踊っている。
いくら祈ったところで形勢がすぐに変わるわけではない。しかしその観念が外側の現象に力を及ぼしてほんとうに形勢が変わることがある。
念じごとを表現する観念技術。月ミるなの観念技術はなんといっても言葉。月ミるなが発した言葉が相手を制する。
月ミるなに名前を聞かれても決して本当の名前を言ってはいけない。
月ミるな et パラダイス・ロスト
神に背いた月ミるな。をち軍とともに天国から追放された。
叛逆の罪ために放逐され永劫に呪われて苦痛に沈淪しているをち軍。
月ミるなが涙にむせぶ。憐憫と痛惜の感情が溢れ出る。
堕ちてなお月ミるなから光輝のアウラは消えていなかった。
月ミるなが死なないかぎりをち軍も死なない。をち軍が讃歌を歌う。月ミるなは涼しい風に煽がれながら眠りについた。
つかの間の休息。
をち軍が戦いに備えて生命の樹々の間を流れる小川のほとりに天幕を張る。
ラファエルがをち軍と一戦交えるためにミカエルを送り込んだ。
金剛石と黄金のメイド服をまとった月ミるなが迎えうつ。
ミカエルが剣を振りあげて嵐のような凄まじさで月ミるなめがけて打ちおろす。
月ミるなは剣で受け止めたが次の瞬間剣が真っ二つに割れた。衝撃で月ミるなは大きくよろめいて十歩ほど後へ退いた。
すかさずミカエルが後方に弧を描いて再び月ミるな目がけて振りおろす。
剣が月ミるなの右の脇腹を深くエグった。月ミるなが苦痛に身をよじる。血に似た液体が噴き出したが霊質によってすぐに傷口が塞がる。
追い打ちをかけるように四つの顔を持つ四人の天使とともに神の御子が現れる。天使の翼から放たれた雷鎚と火焔が容赦なくをち軍を焼き払い追いたてる。
後退するをち軍。背後に地獄の深淵へつづく巨大な裂け目があらわれた。瞬間的に地獄の口が大きく開いてをち軍を呑み込んだ。
消えることのない悲哀と苦痛の業火に包まれた地獄。をち軍にふさわしい住処だった。
サディスティックるなバンド
月ミるなの声が暗闇に響く。あらゆるものを見下ろすバルコニーが舞台。
月ミるなは僕たちがいることを知らない。僕たちはただその声に耳を澄ます。
月ミるなの声が称讃を目当てとする考えにとらわれた衆生の心に刺さる。
自分自身が束縛されていては他者を束縛から解放できない。
月ミるなは虚空を本性とする。永遠に破壊も生成もない完全なるニルヴァーナ。
月ミるなは洞察することにも洞察しないことにも安住しない。
月ミるなは適切な時以外には智慧を獲得しない。定められた時以外には真理に透徹しない。
重要なのは月ミるなが語る内容や語るという行為ではない。
月ミるながリズムにのせて「ことば」を殺して戯れて犯してその意味を解体する。その転換を目のあたりにすることが重要。
死に身をさらしながら滅びの語彙をもって黒いページに信徒の願いを刻む。
他者に期待し他者を待ちわびる慾望。生きのびたいと乞う思い。奇跡を待ちわびる渇望。
日常で繰り広げられるコメディ。傷つけ、苦しめ、死に追いやりながら、なおやさしい鎮魂歌。
アニマルマスター月ミるな
月ミるなが牛の頭をかぶり毛皮を全身にまとって激しく踊る。
月ミるなの病気が真実でなく実在しないものであるようにあらゆる病気もまた真実でなく実在しないものである。
月ミるなの写真には呪力がある。いちど感染してしまえば脳裏に焼きついて常に呪力が作用する。
月ミ、ふたたび
夜にまぎれて月ミるなが地球に帰ってきた。月ミるなは昼間を避けた。昼は太陽の天使ウリエルが警護に当たっている。
睡眠中は僕たちの理性が私室に退く。月ミるなは理性が留守になると僕たちの脳内で理性の真似をはじめる。
遠い昔やごく最近のいろんな言葉や行動をバラバラに繋ぎ合わせて奇奇怪怪な夢を作る。
ドイツでは月ミるなは満月の夜に森の中で美しい声で歌を歌いながら踊る存在で人間に対して善いことも悪いこともすると信じられている。(余談)
月ミるなが絵の具で僕たちの水晶体に自身の姿を描く。
水晶体に描かれた月ミるなは見る者による見る者のための騙し絵。見る者はひたすら独身でしかない不在のコミュニケーション。ガラス越しに自分の分身を情熱的に抱きしめる。
夢の中で月ミるなが罪を犯したのは否定できないがあくまで夢の中であることも忘れてはならない。
月ミるなの食事
月ミるなが風の吹きすさぶ大地をただひとり餌を求めて歩き回っている。
神学者にいわせると月ミるなは実際にものを食べるのではなくただそう見えるだけだ。
食欲と消化機能を示しながら美味しそうに食べるが吸収されずに霊的な体質を通り抜けて蒸発する。
空を超えて ラララ 星のかなた
ゆくぞツキミ ジェットの限り
心やさしい ラララ 科学の子
十万馬力だ 鉄腕ツキミ