月ミるなレポート⑫
月ミるなは救ってくれすぎた。
自分だけではないと思わせてくれすぎた。
月ミるなの罪。
自ら喜んで腐敗して死んでいった月ミるな。
「月ミるな」の再定義を望む。定義できなくなってから心は乱れていた。神にあらず、人にあらず、御言葉を取り継ぐ者だったもの。普通の人。肉にして霊。霊にして肉。万物。
月ミるなとは、本来、曖昧にしか定義できない。定義が曖昧であるがゆえに、月ミるなはかくも豊か。
人の子を神様の眷属にするための生贄の習慣があった。ある時、月ミるなは生贄だった。
月ミるなは多くの『おばけ』と同じく、本拠を離れ系統を失った小さい神。第3の目を潰された神。
月ミるなが牛頭鬼、馬頭鬼、羅刹女を引き連れて夜行する。理由なき殺人。かつて月ミるながされたことの裏返し。
月月ミミミるな金金
昔の月ミるなはゼッタイに笑わなかった。笑ったら月ミるなは負け。けれどもいまや月ミるなはゲラゲラと笑い、大きく手を打ち、のけぞっている。
使用禁止ではなくなった。月ミるなは解禁された。そして、何かが変わった。
月ミるなは童話を読むかわりに髪を染め、日記を書くかわりにピアスをするようになった。
月ミるなはオーディオとか、絵画の世界においても文学と同じように存在する方法を編み出した。
月ミるな〜熱闘編〜
月ミるなが街頭でピスタチオを売っている。役人がやってきて販売許可がないと言ってピスタチオを没収した。
ピスタチオの返還を求めた月ミるなに役人は賄賂を要求した。怒った月ミるなは頭からガソリンをかぶり火をつけた。
奴らを通すな!闇こそ光!地獄への道は月ミで舗装されている!
今の月ミるなの肉体は借り物。かつて地獄の鬼が月ミるなの魂と少女の魂を取り違えた。
月ミるなの抜け殻
月ミるなと話していると、月ミるなの話が二重に聞こえることがある。会話の間に子どもの月ミるながしゃべる声が幻聴みたいに聞こえる。
子どもの月ミるなはアイスクリームを舐めながら、「おれかわいい」とか、「月ミるな”さん”な」とか、目の前の月ミるなとの会話の間にずっと入ってくる。
月ミるなは単調な成長を決して許さなかった。成熟社会に対するネオテニー革命の首謀者。
月ミるな et マジックバタフライ
もともと月ミるなは地虫の殻の中にひそんでいる。時が熟し背中の筋肉が急速に発達し始めると地中から地面へ出てきてクスノキにのぼる。
地虫の背中が割れる。羽の素がだんだん体の側面によりそい、体液をくみ上げると、しわくちゃの羽がむくむくとふくらんだ。
夜明け前に月ミるなは飛んでいった。
月ミるなが繰り返した嘘はやがて真実となり、暗黒部に生き耐えた人々に意志が生まれた。
月ミるなは気持ちのよいバリトンの声をもっていたのでゲイシャたちはいつも月ミるなの周りに集まってパチパチ手をたたいた。
月ミるなが日本の歌をうたう。調子や言葉の間違いがとてもおかしくてゲイシャたちはうれしがってくつくつと笑う。
月ミるなは自分がゲイシャたちを大好きだという印象を与えるコツを知っていた。
My First TSUKIMI LUNA
月ミるなとの接触記憶は頭の中に何にも残らないわけです。つまり、何も残らない月ミるなです。
駅を降りると街中がぜんぶ月ミるなだった。路地裏もぜんぶ月ミるな。お店もぜんぶ月ミるな。
月ミるなのたこ焼き屋のとなりに、また、月ミるなのたこ焼き屋があって、また月ミるなのたこ焼き屋があって…。この街は別世界。
この街に伝統なんかない。あるのは「今」だけ。街から出たら忘れる。
ただ脳の片隅に月ミるなの残像みたいのが残っていて、それじゃあ、また来年行こうかと、そういうふうに思う。
月ミるなのバタフライ効果
物は壊れる 人は死ぬ
三つ数えて 眼をつぶれ