月ミるなレポート⑥
月ミるなはフィクションだ。いつか作品は終わる。『月ミるな』の登場人物たちの挫折や葛藤。僕たちは『月ミるな』の中で昇華する。
この世界で月ミるなの影を追う。誰も摑むことが出来なかった世界線の謎。月ミるなの内面で知覚される世界と月ミるなから表出される世界を分離させなければたちまち世界に取り込まれる。
脳内の月ミるなが統合されて『月ミるな』の印象になる。『月ミるな』を知っているといっても、『月ミるな』の中で印象に残った場面を幾つかつなぎ合わせて「知っている」と思っているだけだ。
月ミるな自身も、作中の人物も、物語自体としても無意識である部分。記憶に残らない、引っ掛かってこない、物語から重要でない部分に鍵がある。
嘘の知識で誤魔化した僕を月ミるなは責めなかった。
ヒュールルルン。ヒュールルルン。ヒュールルルン。そこのけそこのけ三つ目がとおる。月ミるなとともり来たり、月ミるなとともに滅ぶべし。
月ミるなが開いた冥界の門から現れた生物はどれも異形をしていて、またたく間に世界中に生息域を拡大した。のちに、現れた生物は共通して、衰弱時に縮小して狭いところに隠れる本能を持つことがわかった。
古ぼけた写真に数名の白衣を着た研究者達が写っている。その中に月ミるなの姿もあった。研究者達はみんな、上半分が赤色で、下半分が白色で境目の部分に丸いボタンが付いている球体を持っていた。
筋肉についていくら考えても強くなれないので、月ミるなは腹筋をすることにした。
月ミるなの世界ランキングは現在3位。身体を鍛えた月ミるなはもはや敵なしだった。
月ミるなは宇宙の流れを変えるために破裂して微粒子になった。月ミるなは長い間毎夜地球を見てきた。幼い地球の傲慢を、無鉄砲な振る舞いを、柔らかい眼差しで。
地球が月ミるなに愛されていたと気づく頃にはもうそばに月ミるなはいなかった。
月ミるなにも遅れているという自覚はあるんですよ。ちゃんと。遅れているのは分かっているんです。月ミるなの車が高速を駆け抜ける。
月ミるなを抽出した鉱物を分光器にかける。スペクトル中に美しい紫の輝線を発見。これを月の涙と名付けた。
月ミるなは世界線の中で絶えず動きのいちばん激しい場所に自分の身を置く。時代を独占しようとするシステムを壊して、新しいものを編み出す。
月ミるなが編み出した新しいものもすぐに古くなって時代にしがみつく。すかさず月ミるなはまた壊していく。
月ミるなはその性質状、輝き続けることの難しさを知っている。僕らが感じる「新しさ」は一種の妄想であり、無限の衝動、妄想に向かって、絶えず新しさを古くしていく。
ゼンマイを巻かれた月ミるな。束の間の魂。ゼンマイが止まった月ミるなのことも忘れないでください。
現場監督月ミるな。人生の落とし穴を埋める。「安全🖤第一」と書かれた黄色のヘルメットをかぶって現場を指揮する。
ドンガラガッシャン!
軍団員の操縦するユンボが人生の落とし穴に落ちた。まいったなこりゃ。一本取られた。
月ミるなが泣いている。どうやら笑いのツボに入っているようだ。
月ミるなはもう何度も世界の滅亡を見てきた。とはいえ、滅んだのは人間の世界。エロイ・エロイ・ルナ・サバクタニ。
月ミるなのクローゼットには冬服がなかった。
月ミるなが川原で泣きじゃくっている。「輪廻しそこねた、輪廻しそこねた」。かける言葉が見つからなかった。
月ミるなは深夜に寝室を訪問する。寝相にはその人の無意識が現れる。他人のために用意した顔ではない。本当の顔。
いびきをかく大口があれば半分焼いたマシュマロを放り込み。苦しみに耐える涙目があればレースのハンカチで拭き取って涙が止むまで側にいた。
朝いつもより体の調子が良いと感じたらそれは月ミるなのおかげだ。
すりむく気分を隠して
ピンクの宇宙を見つけに
心のカーブまがって
行けば 行ける 行くよ