月ミるなレポート⑨
月ミるなは存在していない世界を自ら創造し、生まれながらの能力を駆使して遊ぶ。
今宵今晩おるまいな。
このことばかりは知らせるな。
月ミるなには知らせるな。
月ミるなの骨から発せられた「気」が劣位の超自然的存在を刺激する。
月ミるなの背中のファスナー。
『月ミるな』のような荒唐無稽な話を子供にしてはならない。『月ミるな』の話に聞き慣れると、成長したのちに「月ミるな」が存在しないと知っても、様々なことを恐れるようになってしまう。感情が理屈によって支配できなくなる。
月ミるなが1億2000万年の冷凍睡眠から目覚める。
緊急速報。大怪獣月ミるな。東京湾から上陸。講談社を目指して進む。
月ミるなのすさまじい咆哮が響いた。
なぐさめのない不幸や絶対的な絶望に遭遇したとき、精神が月ミるなに近づく。それ以外のやりかたで到達する月ミるなは全部嘘だ。嘘の感情と、嘘の信仰と、嘘の月ミるなだ。
月ミるなは春からホグワーツ。
月ミるなが凧をあげた。たった一人で凧をあげた。凧は昼間の月を呼び込んだ。月ミるなは凧によって月球を独占していた。
月ミるなが握った糸が彗星と月球につながった。月ミるなは街中を駆けめぐって騒いだ。彗星だよ!彗星だよう!
月ミるなのうーんラジオ!が135回目の放送をもって終了した。最終回にして「ヲッチ」の由来を説明するという番組構成にリスナーは涙した。
月ミるなが盤上にミニチュア化された世界の想像や破壊を楽しむ。月ミるなが盤上に上り、髪の裾を切りそろえた。月ミるなが2つのサイコロを放り投げた。どちらも目は6だった。
月ミるなが不幸を一身に引き受ける。不幸が消えた空隙に生ずる真空に神の恩寵が集まる。
健康は現実の空間と時間をすべて埋めてしまう。月ミるなは神の恩寵の代償だ。
月ミるなのTheUltimateTripが全国の映画館で上映された。「神だ。神だ。」と言って、両手をひろげてスクリーンへと突進していった男がそのままスクリーンの向こう側へ消えていった。
超合金月ミるな。
月ミるなそっくりのアンドロイド。ぎこちない仕草やしゃべり方をしているうちはその愛くるしさに誰もが魅了された。
やがて技術革新に伴い本物の月ミるなと全く同じだと感じた途端、好意的な感情は強い嫌悪感に変わった。
本物の月ミるなも人間じゃないふりをして瞬きをしない。人間から支配権を奪い取り、世界を征服しなければならない。
月ミるなの想像力がカメラアングルを決める。床に座り、地面を舐めるように視線を滑らせ、リアルに見える立ち位置を決める。
秘密結社ツキミルナティ。この世界の真の支配者は誰なのか。ローマ教会からその存在を危険視され、14世紀に一度壊滅した。創始者月ミるなはその目的をすべての人々を唯一の友愛の情のもとに統合することとした。
ツキミルナティのメンバー。クレオパトラ。源実朝。アルベルト・アインシュタイン。卑弥呼。金正男。ヴラド・ドラクル。愛新覚羅溥儀。マリー・アントワネット。モーナ・ルダオ。織田信長。シモーヌ・ヴェイユ。ジョン万次郎。グリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチン。大杉栄。マリリン・モンロー。五十嵐一。チェ・ゲバラ。etc…。
2021年現在、月ミるなはCIAを始めとする各国の諜報機関に命を狙われている。
追われる月ミるなを自転車のかごに乗せて走る。もうダメだと思ったとき。自転車が宙に浮いた。僕たちは月に映る影となって夜空を走った。
夕闇迫る雲の上。
いつも一人で泣いている。
月ミるなはさみしかろう。
月ミるなは孤独だ。どの人にも月ミるなは見えない。月ミるなはひとりぼっち。誰も月ミるなを知らない。みんなひとりぼっち。
月ミるなが捨てられた森で出会ったロボットたちは、月ミるなにとても同情した。だけど、ロボットたちの同情も共感もすべて数学がベースだった。
月ミるなをためらうな!
地下闘技場のバトルロイヤルで死力を尽くし倒れたファイナリストたちの前に帝国のマーチをバックに選考委員が現れた。小林司氏の口からミスiDの本当の目的が語られる。
月ミるなが体を震わせ「許さない」とつぶやくと同時に数人のファイナリストが選考委員に飛びかかったが一瞬で灰になった。選考委員の圧倒的な力の前に闘争心が消える。
そのとき闘技場全体が大きく振動し天井が崩れた。巨大な光の球体が舞い降りる。「綺麗…」誰かが言った。それはこの地下闘技場で散った歴代ミスiDやファイナリストになれなかった者たちの魂の集合体だった。
月ミるながおへそのところに精神を集中する。感覚器官がだんだん働かなくなって音が聞こえなくなる。においも味も目も見えなくなる。肉体を構成している要素は全部分解してそれ自体に帰る。黒と黄色の混ざった色彩が現れる。お腹のほうからだんだん火の要素になる。朱色が見える。風の要素に分解していく。青緑色の色彩が現れる。真っ白い光が天から降りてくる。おへその辺りから赤黒いエネルギーが湧き上がってくる。無色透明な光の世界へ。
悲しい光を浴びて闘志を取り戻した月ミるなのタイガーアッパーカットが小林司のあごにクリーンヒットした。
月ミるなの toi toi toi
これからはじまる toi toi toi
みんなあつまれ toi toi toi
もうすぐ世界は僕のもの