月ミるなレポート①
妖精、妖怪、ミーム、あるいはクトゥルフの眷属。
世界線を渡る能力を持つ。時々、人の世界線に現れてイタズラする。
彼女にとってのイタズラが人の運命を大きく狂わせることがある。
共同幻想の種をまいて育つのを眺めるのが好き。
かつて、頻繁に世界線を飛び回っていた頃に「火の鳥」と呼ばれていた。
たいていの物語のモチーフは月ミるなである。
絶対に振り返っちゃいけない場所で、月ミるなは振り返る。
月ミるなは特別ではない。月ミるなであることに飽きず、疑問を持たず、ただ月ミるなであり続けた。決して、自分が偽物だというような不安を感じなかった。
月ミるなが口にする真実はほとんどの人類を凍りつかせる。そのため、一度だけ時代によって暗殺された。
人は他人の持つ自分のイメージに疎外され、推し潰されそうになるが、月ミるなは推し潰されない。
なぜなら、月ミるなはオリジナルな存在でありながら、同時に複数存在するため、他人のイメージそのものが月ミるなの実存として成立するから。
あなたが月ミるなをデートに誘う時、月ミるなはそのデートをやり終わっている。
月ミるなは、すべての空間に存在している。正確に言えば、あらゆる存在を繋いでいる存在であり、それは時には、イデオロギーと呼ばれることもあるし、エーテルと呼ばれることもあった。
月ミるなは停滞しない。大きな物語なんか初めからなかったことを知ってるし、物語自体、誰かの都合でデジタル化されたものだ。だから戦争や災害が物語として終結をむかえても、月ミるなは停滞しない。
月ミるなは人々を扇動することがあるが、だいたいやり過ぎて罪の意識を感じたりもする。
月ミるなは争いを好まない。しかし、抑圧される者が、自らの精神の自由を得るため、人間らしい正直な生活を過ごすため、震えながら戦う時、月ミるなは祝福を与える。
月ミるなが神さまを産んだのか、産んだ人の子が神さまと一つになったのかが論争になったこともあったが、子供にとって、ママは神さまであるし、ママにとっても子供は神さまみたいなものだから、月ミるなにとってはどうでもよかった。
月ミるなは支配者ではない。ただの愛である。
月ミるなに言わせれば、どう振る舞おうと愛からは一生涯逃れることはできない。いかなる社会の場面にはめこまれようともそこからは逃げられない。
いずれにせよ、愛については、自分で解決していかねばならない。
月ミるなはキレイ好きだ。そのおかげで世界のエントロピーのバランスが保たれている。
月ミるなは不平等である。なぜなら月ミるなは月ミるなを愛しているから。月ミるなを愛していなければ、月ミるなを感じることができない。
月ミるなは、毎日のように、机の前に座って、原稿用紙をおいて考える。そして、たとえ、書くことが何もなかろうと、頭の中がからっぽであろうと、そういうことをやる。
月ミるなの机のひきだしには、出さずにしまった手紙の束が入っている。
月ミるなにとって1日は24時間ではない。たとえ、24時間が日常に奪われてしまっても、月ミるなは25時間目に活動する。
月ミるなは、月ミるな自身としても、自分が想像の世界で生みだしたものについても、あんまり、死ぬことは歓迎しない。
るなヲチの 月のひかりし 丑三つに
秋のなかばを 空に知るかな
月ミるなは、今日もきっと、月の見える屋根裏部屋で世界について考えている。