好きな芸能人ってまだいますか?

世の中にはベタな質問というのが腐るほどある。
そしてそれらは会話を切り拓くための良いきっかけになるのだ。

そのうちの一つが
「好きな芸能人って誰ですか?」
だと思う。

しかしこの質問、年を重ねるごとに聞くことも答えることも減っていっている気がする。
少なくとも僕のなかではそうで、これが大人になったということなのかなぁと今までの人生に思いを馳せたりしている。

でもたしかに、妻帯者の人にこの話は振らないだろう。
大人が集まる飲み会でこの話題が上がったところを僕は見たことがない。
話すとすれば合コンなどだろうか。好みのタイプを探るうえでは効果的なジャブになるから。

そこで思ったのだが、『好きな芸能人』って、この質問がこの世にあるから決めている、みたいなところがありませんか?ということだ。
もちろん、そんなことないという人も多くいるはずだ。
そういう人たちは、その芸能人のグッズを買ったりイベントに行ったり出ている番組のほとんどを欠かさずに観るいわゆるガチ勢だと思うのだが、そうじゃない人も同じくらいいると思う。
そのガチ勢じゃない側の人たちは、いつか来る「好きな芸能人って誰ですか?」という質問に対してのアンサーとして数ある芸能人の中からその人を"選んでいる"ような気がしなくもないのだ。

かく言う僕もそちら側で、僕の好きな芸能人は柴咲コウさんだ。
まぁ僕は結局、好きが高じてガチ勢に回ったわけだが、最初はやはり例の質問用に事前準備していた答えであった。

柴咲コウさんを好きな芸能人と言い始めたのは中学生の頃だった。
当時はモー娘。の人気が一時に比べて落ち着き始めた時期だっただろうか。
それこそ「モー娘。の中で誰が好き?」というドベタ質問が飛び交っていたが、そのたびに「なっちかな。」という答えを用意していた時期も過ぎ去り始めていて、中学生の僕からしたらアイドルを好きな芸能人として取り上げないことで一つ大人になった気分になっていた。

最初はただ単純に顔がタイプなだけで、ドラマを欠かさずに観ていたわけでもないし、歌手活動をしていたなんて当時は全く知らなかった。完全にファッションとして柴咲コウを着こなしていただけだった。

でもそこはさすが中学生といった感じで、好き好き言っていたら本当に好きになっていったというか、どんどん興味が湧いてきたのだった。
調べていくうちに歌手活動をしていることを知り、検索すると数多の画像がヒットし、その美しさは僕の心にスタンドイン、ホームランといった感じだった。

そんなわけで僕は15歳の頃から10年間ほど、大がつくほどのファンになった。
ドラマも映画も全て観たし、アルバムも全部買った。写真集も買ったし、自由にお金が使えるようになったらライブにも行った。ファンサイトにもお金を払って入会していた。
大学3年の頃、編入生を歓迎するパーティーで、同級生には僕が柴咲コウさんの大ファンだということが知れ渡っていたからボケのつもりで「えー、柴咲コウの未来の旦那で~す笑」と自己紹介したら編入生に「ひぃっっっ!!!!」と言われるくらいにはガチ勢だった。

なのに、だ。
そこからさらに数年経った今はガチ勢ではない。
もちろん、今でも好きな芸能人は柴咲コウさんだし、共演したい芸能人は柴咲コウさんだ。
でもそこまでファンかと言われたら今現在ガチ勢の人からするとぬるすぎて追い焚きされてしまうこと必至だ。

じゃあなんでこうなったのだろうと考えてみた。
別に決定的なことがあったわけでもないし、でも確実にゆるやかに熱は冷めていて、じゃあ何なんだろうと考えてみて行き着いたのが、「好きな芸能人って誰ですか?」と聞かれなくなったからだ、という答えだった。

柴咲コウさんを好きと言う機会が減ったから、僕が初めにかかった『自己暗示』が解けてしまったのかもしれないのだ。
もちろん、何度でも言うが、今でも好きだ。
でもこの"好き"はもうあの"好き"ではないのだ。

愛は口にしなければいけないとはよく言ったもので、これはまさにそれを怠ったから招いてしまった結末なのかもしれない。
特に芸能人となると関わり合いがないのだから、"好き"を保つには口にすること、もしくはライブに行くなどの行動を起こすことが必要だ。
僕は芸人になってからお金がなくなりライブも行けなくなったし、前述したように質問されなくなったから彼女への愛が心の奥にしまいこまれてしまったのだろう。

でもその程度で忘れてしまったのだから、僕のなかではやはり「好きな芸能人って誰ですか?」という質問のために用意していただけに過ぎなかったのかもしれない。つまり、この十余年、本質的に『好き』と思っていないのかもしれない。
元の状態に戻ったと言えばそれはそうなのだが、なんだか少し寂しくなってしまった。

付け加えておきたいのが、あの質問があるから好きな芸能人を決めている側の人が良い悪いということはなくて、ましてや好きの度合いでファンの優劣も決まらない。
ただ、このことに気づいて、柴咲コウさんへの愛情の浅さを期せずして知ってしまってなんだか僕が少し悲しくなっただけの話である。

それでも売れたときの目標の一つには変わりはない。
僕は柴咲コウさんと共演をして、楽屋前で写真を撮り、10th anniversaryのライブでやったinterferenceのバンドアレンジがカッコよかったですと伝えたいのだ。
なんか分からないけどずっとフジテレビの番組で共演するイメージを描いている。
それまではとりあえず頑張ろうと思う。

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