あゝ、人生は直通運転さ

陳腐なことを言ってみる。

人生は、良いことも悪いことも結局全て繋がっていて、そのどれもは捨てることのできない大事なものなのだ。

うん、陳腐だ。
使い回された文句である。

だが、僕という人間はこんな陳腐なことを思うし、それを思って感慨に耽ったりもする。
今のこの生き方に幸せを感じているからだろう。

そう、僕はお金こそないが、夢こそまだ叶っていないが、なんだかんだ幸せに暮らしている。
お父さん、お母さん。修平は東京で幸せに暮らしているのだ。

人間は生きているとあらゆる選択を迫られる。
今日のお昼はトンカツを食べに行くかコンビニで軽く済ませるか、このような小さな分岐もあれば、どの大学に進学するかどちらの会社に就職するか、といった人生を大きく分ける分岐点もある。
僕は思う。この大きな選択というのは本当に繋がっているよなぁと。陳腐なり。
それはまるで電車の直通運転ようである。どこにも降りず、進むままにどんどん違う路線へと繋がっていく。

そこで僕はこれまでを遡ってみた。
そうすると僕の始発駅が自ずと分かるはずだからだ。

今はお笑い芸人という路線の上り方面へ走っている。
今日だけ、一旦逆方向へ、始発駅へと行ってみようじゃないか。
下り電車、発車いたします。


お笑い芸人という路線にはどうやって乗り入れたのだったろうか。

それは、僕が大学お笑いの大会にお笑い未経験のくせに勝手にエントリーするという厚顔無恥極まりない選択をしたからだった。
その大会で、スベりこそしたがお笑いの楽しさを知って、もっとやりたい!とライブに出始めたのだった。
この選択をしなければ一生をただのお笑い好きで終わらせていたに違いない。

そして、勝手に大学お笑いの大会にエントリーするという選択は、通っていた大学のみんなと僕の馬が合わなかったという悲しい過去がなければあり得なかった。
遊ばなすぎて勉強ばかりしていたら大学3年の夏にはほとんどの単位を取り終え、急に暇になってしまったからこのような選択に至ったわけだ。

では、このつまらなかったキャンパスライフの発端はというと、宇都宮大学に進学するという選択をしたからだ。
他の大学に行っていたらもしかしたら充実したキャンパスライフを送った末、今頃は会社勤めをしていたかもしれない。

そんな宇都宮大学への進学を後押ししたのは高校3年のときの担任の横田先生だった。
この人は本当にいい加減な人で、英語教師なのだが、英語の例文を先生がダラダラ読むだけの授業に居眠りする生徒が続出、挙げ句の果てに本人も例文を読みながら一瞬寝落ちするという伝説の授業を展開した男だ。
このいい加減さのおかげで、センター試験に失敗してD判定だった僕を第一志望の宇都宮大学の方角へ「当たって砕けろ!」と言って背中を押したのだ。
たぶんまもとな先生ならランクを下げて他の大学を薦めてきただろうから、宇都宮大学には入らなかったかもしれない。

この横田先生に出会うことは青森県立八戸西高校に入学するという選択がなければ起こり得なかった。
僕が西高に進学した理由は野球が強かったから。それだけだった。

となると、僕が野球を始めるという選択をしなければ西高に進学することはあり得なかったということだ。
ちなみに僕の家と西高は車で45分、八戸市の端と端くらいの位置関係なので本当にあり得なかっただろう。

そして次が始発駅。
いやはやもう始発駅かと思うかもしれないが小さな駅には停車せずだいぶ端折って向かっている。

さて、僕が野球を始めるという選択に至った原初。

それは小学2年の頃。父親がテレビで巨人戦を観ていて、「かぁー!もったいない!!」と叫んだ。
僕は「なにが?」と聞いた。
父は言った。「仁志が盗塁に失敗したんだよ。」
僕はそこで初めて父が熱狂しているこのスポーツが野球であることを教わったのだった。
翌日、僕は初めて父と家の前でキャッチボールをしたー。

そうか、僕の始発駅は『元巨人・仁志の盗塁失敗』だったのか。
仁志が盗塁に失敗し、父が声をあげなければ僕はテレビに注意を向けなかったかもしれない。
もしそうなっていたら、僕は野球をやらなかったかもしれないのだ。

つまり、僕は仁志の盗塁失敗があったから野球を始めたし、野球をやっていたから八戸西高校に進学したし、八戸西高校で横田先生に出会ったから宇都宮大学に進学したし、宇都宮大学が楽しくなかったから大学お笑いの大会にエントリーしたし、それが思いの外充実したものだったからライブに出始め、お笑い芸人になることを決意したのである。

こうして見るとどれか一つでも欠けたら今の僕はいないように思うが、それは僕の思い上がりなのだろうか。
いや、そうじゃないだろう。
だから、僕はその土台となっているのが元巨人・仁志の盗塁失敗であるということを忘れないでおきたい。
今度から「芸人になったきっかけは?」という質問には「元巨人・仁志の盗塁失敗です。」と答えていこう。

陳腐だが、やはり人生はそのときそのときの選択が繋がり繋がって進んでいくものなのだろう。
その自分の原点をこの機会に見つけられてよかった。

元巨人・仁志の盗塁失敗駅発のこの電車はどこへ向かうのだろう。
終点はまだ誰にも分からない。
だが、あっちに見える、明るいほうへ向かっているのだけはたしかだ。

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