New Zealandがくれた宝もの 11 Otamangakau オタマンガカウ
私だけが、なかなか川で魚の姿が見れないので、ここはひとつ、友人が去年9ポンド80cmもの巨大レインボウを釣り上げたという実績のある、レイクオタマンガカウへ行ってみることにした。
ガイドブックにも、大物が釣れる穴場として紹介されている。
「これだ!これだ!」
私たちは、半分もう釣った気になって、コーフンしながら車を走らせた。
レイクオタマンガカウはツランギよりウェリントン側、つまり西側に位置する山上湖である。
周囲はなだらかな山に囲まれている。
ツランギから道は、すぐ山道になった。
前を走っているバスは急斜面のため、今にも止ってしまいそうだ。
眼下には青々としたレイクタウポがどこまでも広がり、手前にはトンガリロリバーのリバーマウスが見える。
山を登っていくと、辺りはまだ春の新緑には早く、道端の草は黄色い花をいっぱいにつけていた。
山の木々は全体に黄色っぽく、どちらかというと日本の紅葉を思わせる風景だ。
急に視界が開け、草原の向こうにレイクロトアイラが見えてきた。
ここは、ニュージーランドの先住民族、マオリの居住区域なので、釣りの許可をとるのは難しいらしい。
湖畔にポツポツと建物が見られるだけだ。
レイクロトアイラを過ぎ更に行くと、どこまでもつづく草原地帯といった感じだ。
行き交う車もない。
「ここで車が故障でもしたら、、、。」ふと不安がよぎった。
脇道にはいっていくと、ようやくレイクオタマンガカウが見えてきた。
荒涼とした、どちらかというと殺風景な景色のなかにその湖はあった。
周囲5kmほどの小さな湖だ。道はボートランプまで舗装されており、そこから先はガタゴト道だ。
このボートランプからカヌーを漕ぎだしたり、マイボートを降ろしたりするのである。
ボートランプは風が強かった。
一人立ち込んでキャスティングをしていたが、寒い。
風裏になる場所を探すことにした。
湖沿いの砂利道を砂ぼこりを立てながら走っていくと、湖畔に降りられそうな脇道があった。
見ると、道はデコボコでとても普通のセダンでは入って行けそうもない。
4WD車でもちょっと勇気がいるだろう。
とりあえず道端に車を止め、歩いて様子を見に行くことにした。
降りていくと少し広いスペースがあり、ニッサンの4WD車紺色のテラノが一台止っていた。
見ると、車のリアハッチを開け荷台に腰掛けながら、釣りをしているオジさんがいた。
オジさんは風に吹かれるまま、インジケーターを遥かかなた沖合いまで流していた。
オタマンガカウは水深が浅く、フラットで藻が至るところに群生している。
トラウトたちはその藻の間を回遊したり、藻の影に潜んでいたりするのだ。
「Catch a fish?」オジさんに声をかけてみた。
「2days no fish.」
え?2日間もやってノーフィッシュ?
車内を見ると、シュラフやら、コンパクトストーブやらビールの缶が散乱していた。
「やっぱり、クリスマスにならないと魚の活性がよくならない。まだちょっと時期が早いな。」とオジさんはつづけた。
「ガーン。」ここもダメか。
いきなり出鼻をくじかれてしまった。
それにしても、クリスマスを迎える12月まではあと2か月もあるというのに、釣れないと分かっていながら、2日も粘ってしまうとは。
思わぬところで釣り師の悲しい性を見てしまった。
世界広しといえども、釣り師のココロは皆同じなのだった。
オジさんは、飲み干したビールの缶をくちゃっと手でつぶすと、車の前にまわり大きなビニール袋の中に捨てた。
中にはすでに、30本あまりの空缶が入っていた。
きのうから飲みっぱなしのようだった。
いきなり気勢をそがれてしまった私たちだが、せっかくここまで来たんだし、ちょっとやってみることにした。
テラノが止っている開けたスペースの下は、1mほど落ちていてそこから湖面になる。
浅いのでなんとか立ち込めそうだ。
ロングキャストをして、ストリーマーで引いてくる。
が、すぐ目の前まで藻がどっと生えていて、フライが引っかかってしまう。
オジさんのようにインジケーターをつけて、魚が回遊してくるのを気長に待つか、もしくはボートで出て、藻の間を狙ってキャストするしかない。
フライをいくつか藻にひっかけて無くしてしまったので、あきらめてティータイムにした。
テラノの脇の草むらの上に座り、湖を眺めながらチョコチップクッキーに、ポットに淹れてきたお茶をいただく。
ここは風裏なので、ぽかぽかと陽がさして気持ちがいい。
二人でぼーっとしていると、後ろからオジさんが話しかけてきた。
「Are you Japanease?」
「Yes.」
「This is a Japanease car.」オジさんは自慢げにいった。
それは私たちもよく知っている。まだ日本でも新車が走っている、最近のモデルだ。
なんでも、そのテラノについている説明書きを読んでくれ、ということだった。
このオジサン、赤ら顔でヨレヨレのカッコウなのに、実は不動産業でも営んでいる社長だったりするのだろうか?
車内のサンバイザーの裏側に、日本語の注意書きが載っていた。
ラジエーターがどうの、ブレーキオイルがどうした、と書かれている。
オジさんはこの内容を説明してくれ、というのだが、釣りのことならいざ知らず、私たちは自動車のことに関しては全く素人。
申し訳ないが分からない。
「I'm sorry, I don't know.」と、いうとオジさんは
「OK, OK.」と、いってまた釣りの体制にもどっていった。
今日は日曜日、ウィークエンドの2日間をびっちり釣りで過ごすために、オークランドあたりからやって来たのだろうか?
それとも、釣れるまで帰らない気なのだろうか?
魚は釣りたいけれど、このテラノの釣り師ほど私たちにはじっくり待つゆとりはない。
残された時間は限られているのだ。