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New Zealandがくれた宝もの 10 Omori Stream オモリストリーム

 久しぶりに朝からよい天気。
先日のディナーのお礼と、明日からしばらくの間ウェリントンに行ってしまう、グラハムにあいさつに行った。
 お昼前だったがグラハムは、これから朝食だったようで、キッチンに解凍中の食パンが立てかけてあった。
パンに先日の残りのローストビーフをはさんで食べるのだそうだ。
ローストビーフサンド。
グラハムはなにやらぶ厚いミステリー小説を、昨晩おそくまで読んでしまったので、遅い朝食となったようだ。

 ツランギからウェリントンまでは、約500kmの道乗りだ。
国道1号線の一本道。三菱ミラージュワゴンを一人で運転して行くという。
「ドライブ、気をつけて。」と、グラハムにいうと
「大丈夫、ゆっくり走るから。」と言った。
グラハムがツランギに戻ってくる日は、私たちが帰国するためここを発つ1日前だ。
もう、グラハムとは一緒に釣りに行けないかもしれない。
「次にツランギに来るときは、ここに泊まって、一緒に釣りに行こう。」と、グラハムは言ってくれた。
「6月に来るといい。」
 別れ際、グラハムは「See you soon! またすぐに会おう。」と、言った。
私たちも、帰国する前に必ずもう一度会いたいと願った。

 今夜は天気もよさそうなので、グラハムに教えてもらったオモリストリームの流れ込み、リバーマウスでナイトフィッシングを初体験することにした。
まずは明るいうちに、ポイントの下見をしに行くことにした。
 レイクタウポの南側は、わりとなだらかな平地で各河川の流れ込みも道路から見つけやすい。
ツランギからタウポへ向かう、国道1号線はこの南側を通っている。
オモリストリームは反対の北側だ。
こちらは南側に比べ斜面がきつく、ほとんどの岸辺は山から急に湖に落ちているため、岸からの釣りのポイントは限られる。
ツランギからタウポの北側へ車を走らせると、すぐに道は山の上を走るようになった。

 30分程走ると、湖に降りる脇道にはいり丘を下っていくと、湖岸沿いに小さな集落があった。
一軒のマーケットとガソリンスタンドがあるだけで、あとは住宅ばかりだ。皆、湖を見下ろすように斜面に沿って建っている。
 さらに丘を下っていくと、豪華な造りの家ばかりになった。
どの家も窓にはカーテンが閉められ、ガレージも空でひっそりしている。通りには人影もない。
どうやら別荘地のようだ。
裏手にはすぐに湖がせまっており、小さなヨットハーバーがあった。
 ポイントを探しながら、岸際を歩いてみた。
湖面は深いブルー。釣り人の姿はなく、たまに犬と散歩する人に出会うぐらいだ。
オークランドやウェリントンから、週末や長期の休暇にしか人がやって来ない、ちょっとさみしげな場所だ。
夏真っ盛りになれば、きっともっと賑わうのだろう。
今はまだ、少し肌寒い風が吹いている。

 はて、それはそうと目指すオモリストリームのリバーマウスは、いったい何処だ?
こんなことならば、もっと詳しくグラハムに聞いてくるのだった。
地図で見る限り、この辺にあるはずなのだが。
ヨットハーバーから少しツランギ寄りは、もうすぐに山が迫っている。
こんなに開けたところではないのかな?
車で少し引き返してみることにした。

 先程の、マーケットがあった集落の手前に、脇道があり開けたスペースがあった。
奥にはベンチなども置かれている。
見ると、そこから小道がついていて湖のほうへ降りているではないか。
 トンガリロリバーに来てから、釣り場へはたいてい整備された道がついていることを、私たちは知った。
だから、きっとこの道がそうに違いない。私たちは車を止め、歩き出した。
 この小道も両脇に背の高い草が生い茂っているので、湖面や辺りの様子はわからない。
果たして、オモリストリームに続いているのだろうか?

 小道を下って行くと、民家の裏手に出た。
道はそれぞれの家の裏庭に沿って続いている。
庭の青々と茂る木には、黄緑色の実がなっていた。
レモンだ。
その木の大きな枝からは、ロープでブランコが吊されていた。
きっと、揺れるブランコからはレイクタウポがどこまでも望めるのだろう。
 なんだか羨ましい光景を見上げながら、小道を下っていくと民家も途切れ、なにやら辺りはさらに木々が茂り、うっそうとした感じになってきた。
両脇の木の枝から、つたやつるがたれて、アーチを造っている。
木々の根元は苔むして、草が茂りひんやりしている。
どこからか、「キキキーッ」と、野性のサルでも飛び出てきそうな、ちょっとしたジャングルのような雰囲気である。

 ニュージーランドには熊やへびなどの、人に危害を加える危険な動物はいないはず。
なので、不安がることはないのだが、いったいこの道は何処へ続いているのか、、、、。
「バサッバサッ」と、かたわらで音がした。
私たちは一瞬体を凍りつかせたが、見ると鳥だった。
すぐ手の届く1m程先の木の枝に、なんとまあ美しい小鳥が驚いて、尾羽をワッと広げているではないか。
それぞれの羽が真ん中で、縦に黒と白のツートンカラーに分かれ、まるで扇子のように見事な姿。
 私たちは声を上げ、しばらくその姿に見とれていた。

 さらに進んでいくと急に下りがきつくなり、一気に山の斜面を降りていった。
ようやく湖面に出た。
が、リバーマウスはない。
岸沿いにまだ道は続いている。
歩いていくと、小さな木の橋があった。
手すりまでついた、かわいらしい板張りの橋だ。
 2、3歩で渡ってしまう、と開けたビーチに出た。
パーキングスペースもあり、すぐ上には道路が走っている。
「ん?」3歩もどって、橋に建っている看板を見ると、「Omori Stream」と、ある。
 流れ込みは本当に小さなものだった。
木や草で覆われて、橋からも水が流れている様子など分からないのだ。
「ウーム。」こんなところで、本当に釣れるのだろうか?
ビーチには車が一台止っており、カヤックをもった人が歩いてきた。
カヤックが一艇、静かに湖面を滑り出していった。
 場所もわかったので、ひとまずロッジに帰って夜を待つことにした。
今度はすぐ上の道路をもどっていくと、5分で車を止めた場所についてしまった。
この道路もさっき車でさんざん走った、一本道だった。

 夜8時。待ち切れずに立ち込み開始。
昼間とうって変わっての曇り空。
月も隠れ、暗い夜だ。
ブラウントラウト狙いにはもってこい、のはずだ。
しかしこう暗いと、水の中に立ち込むにも不安なものがある。
ズボッと、深みにはまってしまわないだろうか?
 恐る、恐る、足元を確かめながらちょっとづつ、足を前に出す。
フライをキャストするが、すぐ足元をリバーマウスからの流れが横切っているので、フライもラインもどこに流されていってしまってるのか定かではない。
 シンイチが流れ込み付近で、20cmの綺麗なレインボウをキャッチした。
フライはミセスシンプソンだった。

 雨が降り出してきた。寒さがいっそう身にしみる。
ビーチの裏にはすぐ山がせまり、真っ暗闇だ。
街灯もない。
 小1時間ほどで、私たちのナイトフィッシング初体験は早くも終了した。

11. Otamangakau へつづく

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