万年筆推しの文具屋店員
私は万年筆が好きだ!
…失礼。つい想いが先走ってしまいました。
私は万年筆が好きが高じて、某文房具屋でバイトをしていた。
何かしら新商品が来るのを楽しみにしているが、いかんせん入荷が遅い。あと毎日そういう環境にいるせいか、情報が遅い。
何なら以前、三菱鉛筆さんから「ジェットストリーム」というボールペンの新色「くすみカラー」(2020年の流行色らしい)が入荷したとき。
お客様から問い合わせがあって、初めてメーカーに確認したら「什器(※商品を綺麗に見せて売るための、いわば飾り棚みたいなもの)ごと明日届くように送りました」と言われたぐらいだった。
※念のため補足しておくと、"うちの店の場合は"大体こういう新商品が、ある日突然メーカーさんから直で送られてきて並べることが多い。
そのため、うちの店ではしょっちゅう商品の什器の場所が入れ替わる。
うちでは三菱鉛筆さんの「ジェットストリーム」は売れ筋中の売れ筋だ。毎日何本も売るし、お客様からよく聞かれる商品だ。
そんな売れ筋のボールペンの情報でさえもままならない勤め先は、それと比べれば死に(かけ)筋な万年筆にめっぽう疎い。
定番で置いてある商品もいくつかあるのだが、万年筆界に革命をもたらしたとさえ言われるPILOTの「カクノ」さえ置いてはくれなかった。
(発売当初の2,3年は置いていたが、後に返品されたらしい)
万年筆好きが高じてバイトしている身としては、万年筆をもっと色んな人に知ってほしい。もっと使ってほしい。
常々そう思っている。
整理整頓を超えた売り場の改造は、勝手にやると上に怒られるので出来なかった。
…のは、2021年9月までの話。
詳細は省くが、なんとうちの店の万年筆のラインナップを一新することになった。そしてラインナップを決めるのは社員、から委託され私になった。
もちろん上の人らに何度かチェックしてもらうのは言うまでもないが、草案だけは考えても良い権利を手に入れたのだ。
社員さんとしては「どうせ何選んでも死に(かけ)筋の万年筆はほぼ動かないからな」と思われているのかもしれないが。
それはそれとして、私は張り切ってメーカーのカタログを開くのだった。
勤め始めて早数ヶ月。大体の客層やニーズが分かってきた。そんな私が選ぶ、うちの店に置きたい万年筆のラインナップ。
・カスタム74
言うまでもなく売れる。オーソドックスな見た目と種類豊富なペン先は、どんなニーズにも合致する。私としては万年筆といえば相場は一万円代より高いか安いかなので、お客様にも説明しやすい。
・センチュリー#3776
こちらも売れる。お値段や見た目も先述のカスタム74シリーズと大差ないため、お客様に「何が違うの?」とよく聞かれるが、万年筆に関してはメーカーが違えば書き味もインクも異なる。ちなみに2022年3月時点で、長期欠品中なのか全く入荷してこなかった。何故。
・プレジール
千円代という低価格帯でありながら安っぽさを感じない見た目と、カラバリ豊富で若い人にも手に取ってほしくて置いた。私も愛用してるのでお客様に説明しやすい。
・四季織シリーズ
セーラー万年筆社からピックアップ。見た目が綺麗で惹かれる方が結構多い。しかし意外と置いてる店に出会えないのは、私の探し方が悪いのか何なのか。
・cocoon
うちの店では定番商品だし、パイロット社の営業さんにも「人気ですよ」と言われた。
値段も3,300円で、人が筆記具に出せる金額ギリギリだと踏んでいる。
個人的には手に馴染まなかったが、贈り物として購入される方が多いので置くことにした。
・キャップレス万年筆
同じくパイロット社から。これは以前から置いてあったので、引き続き置くことにした。珍しいノック式の万年筆で、お客様が興味を持って万年筆を見てくださる足がかりになる。
…こんなところだろう。
ちなみにこれは全部通って、今では立派にショーケースの中でホコリを被っている。
何故か。手入れをしていた私が退職したからである。
職場のお局様たちとソリが合わず、いびられまくったので腹が立って辞めた。ついでに退職の際に、別の社員からお局様たちの良くない話を聞いた。お局様たちは、早急に聞いたこともない大バチを食らって欲しいところである。
余談だが、つい先日念願の万年筆専門店に行った。すごくフランクに試し書きさせてもらった。
店主からは「万年筆は書いてみないと分からないから」という、初心にして真理のお言葉を頂いた。
力及ばず、売ることができなかった万年筆やインクたちは今頃どうしているだろうか…何ならPILOTカスタムシリーズ発売30周年記念エディションもあったのに今頃どうなっているのやら…お飾りになってるのだろうか…悲しいことだ………
まあ、退職理由が退職理由だけに、お局様たちが全員いなくならない限り復職は絶対ありえないのだが。
まぁそれはそれとして万年筆を使うのは楽しいので、まずは万年筆に興味を持って眺めてみてほしいと思う次第だ。
終わり。