Cry Baby(トガシ) セルフライナーノーツ#2 -アルバム全体編-
さて、全曲解説です!このアルバム、本当に様々なことをやりました…笑。
まずは全体を通してのアレンジでどんなことをやっていたのか、そして各楽曲の解説に移れればと思います。アレンジに関しては専門用語も出てきますが、見えない部分でどんなことを行なっていたのか伝えたい!と思い書いてます。なるべくわかりやすく伝えられればと思うので、よろしくお願いします!(むずかったら読み飛ばして、全曲解説に行っちゃってください笑)
(0)前段:アレンジの全工程
アレンジですが、まず最初に、トガシさんからそれぞれの曲のdemo1,2に収録されている音源のGarageBandのデータをもらうことからスタートしました。
そして以下の手順を踏んで、アレンジを行っていきました。
①それぞれのトラック=楽器のEQやコンプの差し替え
→基本的にそれぞれの楽器は、録ったものをそのまま使うのではなく、その音を加工して、全ての楽器が合わさっても潰し合うことなく綺麗に聞こえるように調整しています。「EQ」や「コンプ」というのは、その加工のためにほぼどの楽器でも使うものですね。要はそれぞれの楽器の音、をより聞こえやすく綺麗にする作業と思っていただけると幸いです。(ちなみに同時期発売のdemo3はこの作業のみ行いました)
②楽器、アレンジの追加
→ここで全体を見て、追加したい楽器、アレンジの作成、録音を行っていきます。
主に楽器には、ボーカルやコーラス、ギター、ベースなどの生楽器と、ピアノやドラムなどの打ち込み楽器の2種類があります。前者は録音した後でフレーズの変更などができないので一発勝負ですが、後者は録音した後もフレーズが変更できたり音がなるタイミングを微調整できたりします。また演奏しなくてもフレーズさえ考えられれば、その楽器の音を自動的にソフトが演奏してくれるので、ドラムなどはフレーズを考えて、その演奏をソフトに代行してもらってる形です。(もっとも、そのフレーズを考えるのが大変なわけですがw。)
今回追加アレンジする楽器の中で、1番使用頻度が高かったのはピアノですが、それ以外にもシンセサイザー、ストリングス、アコーディオンなど様々な楽器の音を使いました。
また重ねるだけでなく、ベースやドラムは元々原曲にあった音を差し替えたりもしています。特にベースは、元々原曲にあったフレーズをアレンジし直し、かつ自分で弾かなくてはいけなかったので、一番大変な作業でした…笑。元々ベーシストではないので、心底ベースが上手くなりたいと思った瞬間でした笑。
③全体の最終ミックス
→全てのアレンジが完了したら、最後にそれぞれの楽器の音のバランスを整えるミックスという作業を行います。ここでもう一度全体を見て、新たに楽器を追加したり、アレンジをもう一捻りすることもありました。ここまで来ると完成間近なので、より細かい点が気になることも多く、それぞれの曲で何度もやり直した作業でした。
全体のバランスを整えたら、マキシマイザーというソフトで全体の音量の底上げをして、音源化したら完成です。
こんなふうに様々な工程を踏んで、それぞれの曲を完成させました!…思ったより、結構色んなことやってません笑?一つの作品を完成させる裏側にも、こうした一つ一つの過程があることを知っていただけたら嬉しいです。
ではここからそれぞれの曲について話をしていければなと思います。
(1)メリーゴーランド
アルバムのオープニング曲です。トガシさんのdemo2のオープニングでもあったこの曲。冒頭で印象的なギターのアルペジオが繰り返される展開が聴いた当時から好きな曲でした。
アレンジでの肝はなんといってもピアノですね。前述したギターのアルペジオの隙間に、高音域のピアノが鳴っていたら気持ちいいだろうな…という発想から着手しました。ちなみに冒頭のスライドギターは、最終ミックス前に思いついて急遽重ねたものです。
ある街の情景が視点や場面を変えて描かれる歌詞。その様はディストピアなのか、はたまたユートピアなのか…。その全てを俯瞰的に描いた歌だな、と感じています。
(2)四つ葉のクローバー
トガシさんの曲の中でも個人的にかなり好きな曲です。と同時にトガシさんのラブソングの中では比較的、不安や葛藤に満ちた歌でもあると思います。
アレンジは、1曲目からの繋がりを意識して、まずピアノを加えることから始めました。冒頭のピアノはフレーズができたときに「なんかゼルダの伝説っぽいかも…?」と思い、一人でテンション上がった想い出があります笑。その後より迫力を出すために、リードギターを加えバンドっぽい仕上がりにしました。また曲順に関して、このあとブラックレインに続いていく流れは、demo1の同じ流れを意識しています。
愛するあの人は本当は何を考えているんだろうか。それを確かめたいけれど、自分の想いとは違うとわかってしまうくらいなら、いっそ聞かないでおきたい、四つ葉のクローバーも土に埋めて返してしまいたい。そんな気持ちを自分はこの歌から感じています。
(3)ブラックレイン
トガシさんの曲は、ギターのアルペジオがアレンジの中心になってるものが多いと思うのですが、その中でもこの曲はかなり印象的に残るアルペジオではないでしょうか。オリエンタルなフレーズとパーカッションに乗せて描かれる景色は、平和を願う祈りか、それとも。
アレンジではその躍動感や、夜の祭り感をより一層出すためドラムを追加。単なる4つ打ちではなく、よりパーカッシブで、聴いてるだけでアガるようなドラムを目指しました。
またそれ以外にも、自分の思うオリエンタル感、ジプシー感を出すために、アコーディオンを咥えたり、後半ではピッコロというフルートを小さくしたような楽器も登場します。ちなみに冒頭ギターの裏で鳴るノイズは、前述したアレンジができた後に「少し汚しを入れたいな」と思って重ねたものです。
原爆投下の後に降ったとされる「黒い雨」のことではなく、様々なことに言及されている曲だと感じます。ある正義もその反対の正義も、一人一人の中に散り積もった不満や苛立ちが、もっともらしい理由・捌け口を見つけて、誰かを攻撃したいがためなんじゃないのか。そして自分もそのシステムの中の一人なんだ。そんなメッセージを感じるのです。
(4)××モンです。
タイトルは言わずもがな、某有名ゲームのアレです笑。ここから2曲、ラウドかつシュールな曲が続きます。この要素はdemo1,2を聴く中で印象に残ったトガシさんの強い一側面だったので、アルバムの中で絶対入れたかった要素でした。
アレンジは、なるべく原曲の要素を活かし、追加要素もリードギターとコーラスのみに留めています。このアルバム、ドラム音源も差し替えている曲が多いですが、この曲と「リメンバミー」「バカバカしい」の3曲は、元のいなたい感じが良かったのでそのままにしています。
歌詞に関しては「意味のなさが意味」な曲かもしれません。間奏やアウトロが、語感に気持ちよくツボになる曲です。
(5)リメンバミー
これも某ピクサー映画からつけたであろうと思われるタイトル。しかしサビの後に明かされるのは「予告編を見ただけ」という…笑。最高ですw。
けれどそれがメインではなく、トガシさんの死生観が無意識に出てる曲でもあると思います。
アレンジの肝は、トガシさんの元バンドメンバーのお兄さん、カシマさんの弾くリードギターですね。めっちゃかっこいい!demo2の段階ではこのアレンジはなく、SoundCloudに上げた音源からこのバージョンになったのですが、これが最高だったので、こちらのバージョンから発展させました。アレンジもほぼ原曲のままで、アルバムの中で唯一ギターを追加で重ねてない曲かも…?やったのはコーラスの追加とベースの差し替えくらいですね。
ちなみにイントロとアウトロのシャウトっぽい声素材は、実際に自分であんな感じのシャウトをして、それを加工して作っています。これも自分なりのシュールというか、意味のなさの表れの一つです。
(6)アソウサン
トガシさんの中でも、頭抜けてシリアスな曲。タイトルもストレートですが、全体のライナーノーツで書いた「今の世界をそのままよしとしない現状認識」というトガシさんの側面が、このアルバムの中で最も強く出てる曲であると思います。
ライブ音源の弾き語りアレンジしか知らない曲だったので、それをベースにしてアレンジを一から組み立てていきました。シリアスさをしっかり出すために、重めのピアノを全体を通して入れつつ、リードギターもいくつか足して、バンド感や激情感が出るように仕上げました。アウトロのキメのドラムフレーズはミックスダウン直前まで悩んでましたね。
この曲で歌われてるのは、社会的な同調圧力が、大人たちだけでなく近くにいる大切な人や自分自身からも、無意識にかけられる怖さなんじゃないかと思います。監視社会というか、「自分の行動が周りとずれていないか」を監視する目が、周りだけでなく自分の中にも生まれてしまう怖さ。「身体中を蝕むもの それはきっと僕自身だよ」という歌詞は、まさにそのことを表していると感じます。
(7)窓のない宇宙船
このアルバムの中で、最も死の匂いがする曲、と言ったら大袈裟でしょうか。初めて聴いたのはライブの弾き語りバージョンなのですが、その時からその匂いに強く心を惹かれる曲でした。
アレンジは、原曲の繊細さを壊さずに、どう世界観を広げるか、に苦心した覚えがあります。結果的に、この曲だけピアノ音源を他の曲と変えて、より繊細な音色のものを選びました。ギターの追加も最小限にとどめ、針の穴を通すように、ピアノのアレンジを考えました。後半、曲が壮大になっていくにつれて、徐々に音数と躍動感が増していくところは、自分でも気に入っています。
濃密に漂う死の匂い・無常感の中で、最終的に祈りに向かっていく曲でもあります。限られた世界の中で、それでも自由を願い、人の優しさを信じたいと思う、そんな無防備な状態を肯定する曲だと思います。
(8)Cry Baby
もう説明不要の名曲。そしてアルバムの中で最初にアレンジを手がけた曲でもあります。(経緯や個人的な思い出は全体のライナノーツに書いたのでぜひ。)
「窓のない宇宙船」が、トガシさんの持つ「厳しい現状認識」と「慈悲・祈り」が6:4の比率で構成されてる曲とするならば、この「Cry Baby」は、それが4:6に逆転する曲でもあり、それがアルバムのターニングポイントになっている曲です。ここから救いに向かっていく物語にしたかった。
アレンジは、原曲のビートがすごく好きだったので、それをより強調して活かしつつ、音の隙間を空間系のシンセサイザーで満たし、ピアノを重ねていきました。
2番Aメロで音のレイヤーが徐々に増えていく部分はそのまま活かして、要所要所に同様のピアノやシンセを重ねています。その結果楽器が増えすぎて、それぞれのバランスを取るのに一際苦労した曲でもありました。
ですがそのおかげもあって、この曲の持つ普遍的な祈りの力を最大限引き出せたのではないかと思います。
(9)才能のない日
初めて聴いたのは、トガシさんがTwitterに上げていた車の中で歌っている映像だったと思うのですが、その弾き語りの状態から既にハンパないスケール感の曲でした。「何だかうまくいかない日」って誰しも経験があると思うのですが、それを「才能のない日」と名づけるセンス!脱帽です。
アレンジは、原曲よりもスタジアムロックな感じというか、より大きな場所で鳴らされている感じにしたかったので、バッキングのギターを歪んだエフェクトに変えています。また後半のコーラスも全部自分が歌い直して、より壮大さとハーモニーの美しさがが強調されるようにしました。
うまくいこうがいくまいが、結局毎日はただ過ぎていく。毎日がどんなにつまらなく退屈でも、それはただ何かが見えてないだけなんだ。ほんとはそれだけで特別なはずなんだと、そんな風に思わせてくれる曲です。
(10)バカバカしい
ストレートなロックソング。「才能のない日」の後に来ることで、もう一度駆け出す感じとともに、アルバムの終盤に向けて加速していくような、そんな流れを意識しました。demo2の曲順へのオマージュでもあります。
UKロックっぽさを感じる曲でもあったので、リードギターのアルペジオは初期スピッツやThe Cureを意識して作りました。他の楽器は極力足さずに、4ピースバンドで演奏できるシンプルさを目指しています。
この曲がなかったら、アルバム全体がより重たい印象になっていたかもしれません。そういう意味でもここで一息つけるような、そんな隙間をアルバムに与えてくれた曲です。
(11)4つ目のカード
ある意味アルバムの結論のような曲。そしてアルバムへの収録は1番最後に決まった曲でもありました。最初にトガシさんにアルバムの曲順を提案したあと、「何か1ピース足りないな…」とトガシさんのdemo1を聴き返す中で見つけた曲です。
原曲を聴いた時から「絶対ストリングスが合う!」と思っていたので、ギターは曲を通して1本にとどめ、ストリングスとピアノをアレンジの柱に据えました。実はdemo1に入っているのは今より短いバージョンなのですが、自分のアレンジを聴いたトガシさんが「この曲はちゃんと完成させたい」と奮起し、今作への収録にあたり新たにCメロと3番のAメロを書き足した曲でもあります。トガシさんが俺の部屋に来て、一緒に歌詞を考えたのもいい思い出です。
長い旅を経て、人が何かを受け入れ自分の産まれた場所に帰っていくような、そんな場面を思い浮かべる曲です。
(12)またすぐにアンコール
アルバム最後の曲。「4つ目のカード」で旅を終えた主人公が、また生きるために日常という戦場に向かっていくような、そんな曲だと思っています。ここでちょうどループが1周し、街の情景を描いた1曲目の「メリーゴーランド」に繋がっていくような流れを意識しました。
これも「アソウサン」と同じく、弾き語り音源を聴いて、アレンジを一から全て考えた曲です。ギターリフとともに、少しずつ楽器が重なっていき、リズムは一定なのに曲全体が徐々に熱を帯びてゆく。そんなアレンジを目指しました。それにはやはりドラムが重要で、繰り返しても飽きないグルーブにするために苦心しました。参考にしたのは、くるりの「ハイウェイ」。4小説で1ループになっている曲ですが、その締めのドラムのフレーズはそっくりそのまま影響を受けています。
このアルバムの裏テーマとして、「日常という名の地獄」というのがうっすらあるような気がしています。「メリーゴーランド」にも通じますが、目の前の平凡な風景も、一皮をめくると何が現れるかわからない恐ろしさがある。けれどその側面を描き見つめた上で、「またすぐに歩こう」と、聴く人の背中を押して共に歩いてくれるような、そんな曲なんだと思っています。この曲が終わったあとに、それぞれの立ち向かう日常が優しいだけのものでなくても、前を向いて歩いていけるような、そんな作品になっていることを願うばかりです。
さて、以上がアルバム全曲解説でした!いかがだったでしょうか。
このアルバムの制作が本格的にスタートして半年、誠心誠意をこめて作りました。
僕が関わったことで、少しでもトガシさんの世界をより広く伝えることができたなら、こんなに嬉しいことはありません。
ぜひ楽しんで聴いて下さい。
あとがき
「言語化」とは
表現者にとって付いて回るテーマです。
俺がなぜ音楽を作るのかも
「言語化できない」ことがあると
信じているからです。
ただ今回
野口くんによって
その一部が暴かれました。
これからの作品で
彼を煙に巻こうと思います。
そして俺自身も。
(トガシ)