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Cry Baby(トガシ) セルフライナーノーツ#1 -アルバム全体編-

ご挨拶

こんにちは、野口純史です。
昨年11月21日に、シンガーソングライター トガシさんのアルバム「Cry Baby」が発売になりました。自分はこのアルバムの企画の最初の段階から、プロデュース・各楽曲アレンジまで、かなり深く関わらせていただいています。
年が明けてから、アルバムについて様々な場所で話をさせていただく機会が増えたので、今回CDに封入されているセルフライナーノーツを、一部内容を修正して、noteで無料公開させていただくことにしました。ぜひ、他の記事や動画などと合わせて読んでいただけると、よりアルバムの魅力が深く伝わるかと思います。よろしくお願いします。

セルフライナーノーツ#1は全体編です。トガシさんに最初に出会った時から遡り、このアルバムの企画から完成までのエピソードを、自分側の視点から書いていければと思っています。

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経緯⓪ -トガシさんとの出会いまで-

遡ると2016年、ぼくは映画「この世界の片隅に」の解説動画がきっかけで、漫画家山田玲司先生がホストを務めるニコ生番組「山田玲司のヤングサンデー」(以下ヤンサン)を見始めるようになりました。そしてその後有料会員になって過去の放送を見ていくにつれて、「主題歌決定戦」というものが行われていることを知りました。これは視聴者から主題歌を公募し、リアルタイムで見ている視聴者のアンケートをもとに決定するという、1~2年に一度あるヤンサンの人気企画です。そこに応募していた常連組の一人がトガシさんでした。

最初に聴いたのは、第2回主題歌決定戦に応募されていた「君と僕のヤングサンデー」だったと思います。斬新なコーラスワークで始まるイントロから、急な転調で予測できない展開を見せるCメロ。けれどその中にある、熱いメロディーと「君を一人にしない」という普遍的なメッセージ。危ういバランスで成り立ってるのに、なぜか心を惹かれてしまう…「なんてキテレツでかっこいい曲なんだ!」と思いました。

その後も主題歌選手権を会を遡って聴いたり、渋谷HOMEで行われた第1回ヤンサンフェスの映像など、様々な形でトガシさんの曲を追って聴いていきました。

さて、自分も「Sweet Berry」という曲で、2018年の第4回から主題歌決定戦に参加するようになり、より深くヤンサンと関わるようになりました。そして2018年に湘南の海岸で行われたバーベキューオフ会で、初めてトガシさんと会ったのです。

勝手に曲の印象から寡黙な方なんじゃないかと想像していたのですが、思った以上に気さくでびっくりした、というのがトガシさんの第一印象です笑。浜辺で一緒に「愛の途中」を歌ったり、お互いの曲の感想や音楽に対する考えた方などを話すうちに、話はどんどん転がっていきました。オフ会が終わった後も、同じ帰り道の電車に乗ってる約2時間ずっと話し続け、気づいたら当時の僕の最寄り駅で降りて、近くのマクドナルドでさらに1時間くらい話し続けました笑。

そんな風にして出会い、その後も翌年に大阪のヤンサンフェスで一緒にバンドをしたり、中二ナイトというオープンマイクイベントで互いの曲を一緒に歌ったり。様々な形で関わることが多くなりました。

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経緯① -"Cry Baby”の想い出-

さて、ぼく野口純史としては2021年の2月14日にソロアルバム「Sweet Berry Story」を発売しました。ですが、楽曲自体は2020年10月に完成しており、そこからはアートワークの制作や発売に関わる企画の段取りに追われていました。
しかし長く楽曲制作やアレンジに精を出していたため、そこから急に事務作業のモードに切り替えることに頭を悩ませていました。車がブレーキペダルを何度か踏みながら徐々に減速していくように、楽曲制作のモードも段階を踏んで落ち着かせられないかなぁと考えていたのです。そこで少し時を遡り、あることを思い出しました。

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3年前、2019年のある夏の日、休みの日には珍しく朝早く起き、真っ黒なスーツ、真っ暗なネクタイに身を包んで、当時住んでた神奈川県大倉山から、高円寺まで電車で向かっていました。

その前日、仕事から帰って布団に寝っ転がりながらなんとなくTwitterを流し見していたとき。ふいにあるアカウントが目に止まりました。
そのアカウントは、よく知るあるライブハウスの女性スタッフTさんのものでした。自分は大学生のとき、ソロの弾き語りメインで活動していた時期があったのですが、そのときよく出ていたアコースティック専門のライブハウスがあり、そのTさんによくお世話になっていたのです。ですが大学を卒業し就職したあとは疎遠になってしまっていました。

そのアカウントのTwitterの文面には、Tさんが亡くなったこと、明日葬儀を行うので来られる方は来てもらいたいこと、その2つが簡潔に綴られていました。

急いで自分の知り合いで、Tさんとも関わり合いがある友人に連絡を取り、その日は早めに就寝。翌日朝早く起き、葬儀が行われる高円寺の斎場に向かいました。

斎場には本当にたくさんの方が来ていました。同じハコで働いていたスタッフさんたちや、当時ライブを見に行ったり対バンした同年代や先輩のミュージシャンたち。
お酒が好きだったTさんは、よく打ち上げて酔っ払っては上機嫌になっていました。「あの打ち上げでTさん、あの人に絡んでたな、それをあの人が制してたっけ…」。懐かしい顔ぶれを見るに付けて、そんな想い出が痛みと一緒に溢れてきました。

火葬が終わり、遺骨を友人とともに骨壷に収め、集まった皆とも別れ。

全てが終わり、ひとり電車に揺られ帰る中、様々な想いが頭をよぎりました。
Tさんに、結局"Sweet Berry"聴かせられなかったな、「新代田FEVERでリンダ&マーヤも出るイベントに俺も出たんですよ!」とか、嬉しい報告もっとしてあげたかった、もう一度呑んで話がしたかったな…。

なぜあの人がいないのに、電車は普通に動いているのだろう。なぜ、世界はこんなにもいつも通りなんだろう。

そして、まるで昨日のあのツイートを見た瞬間を境に、誰もが日常生活を送っている暖かいオレンジ色の世界から、布一枚隔てた、海の底のように薄暗く青い世界に、自分がフェイドアウトしてしまったように感じました。

その気分はすぐには抜けず、その後数週間は、足下がおぼつかないフラフラとした感触の中を漂いながら、日々を、生活を回していったように思います。

そんな日々の中よく聴いたのが、トガシさんの「Cry Baby」でした。

SoundCloudにアップされた当初から好きだったのですが、斎場から帰る電車の中で聴き、深く心に沁み入ったのです。

「あなたにできることは何だろう 言えないよとても頑張れなんて」
「その色をその香りをその音をその肌を その味を知ってるつもりで何もわからないまま」

歌詞の一つ一つに込められている、目の前の相手を思う慈愛の心。「手を触れないまでも、できるならそっと暖めてあげたい、そばにいることしかできなくても」。そんな優しさが、青暗い世界にフェイドアウトしてしまった剥き身の心に、そっと毛布をかけてくれたように感じました。

そんなことがあって、"Cry Baby"は自分にとってとても大切な曲になりました。

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それからしばらくして、少しずつ立ち直れた頃、この曲のリミックスをしたい、アレンジをもう少し足してより良いものにしたい、そんな風に思うようになりました。
もちろんアップされてる音源のままでも素晴らしいのですが、音数が少なくシンプルだったため、音のレイヤーももう少し重ねれば、より歌や曲の良さが伝わるようにできるのに、と感じていたためです。

そこでアルバム制作後の「楽曲制作ハイ」が残っていた時期に「このタイミングならできるのでは」と思い、トガシさんに「Cry Babyのリミックスをさせてもらえないか」と打診しました。快くOKをいただき、リミックスの制作を開始。
それが一度完成したことで、「制作ハイ」の状態も収まり、アルバムの事務作業に移ることができました。

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経緯② -「アルバムにしちゃおうかな?」-

そして2月にアルバムを発売し、4月にワンマンライブを終えたあと、「折角なら他の曲のアレンジもしてみたいな」と思い、再びトガシさんに打診。こちらもOKをもらい、4月中旬に「才能のない日」と「メリーゴーランド」のリアレンジを完成させました。

さて、この時点で3曲あるわけですが、どうやって発表しようか考えあぐねてました。普通ならSoundCloudにアップするとかだけど、それだけだともったいない。ちゃんと作品の形にして発表したい、それにトガシさんの曲でまだまだアレンジしてみたい曲もあるし…。「いっそのことアルバムにしちゃおうかな?」と思つきました。

それからトガシさんが今まで出した音源をもう一度聞き漁り、その中からアルバムの構成、曲順も込みで候補曲を選び、トガシさんにプレゼン。最初は驚かれましたが、快諾をいただき、それぞれの曲のアレンジに取り掛かりました。

当初は「僕はスーパーマン」や「まるでハーモニー」など、別の候補曲の案もありましたが、「せっかくなら音源になっていない曲も入れたい」と思い、2019年にbar蜜柑で行ったイベント「Orange Night」のライブ映像から「アソウサン」と「またすぐにアンコール」を足して、今のアルバムの形になりました。

4月と5月に、トガシさんとやりとりしながら全12曲のアレンジを行い、約1月半で大枠が完成。リアレンジした曲を聴いたトガシさんから、「どうせなら歌を録り直したい」という話があり、5~6月、アレンジができた曲から順次トガシさんの歌録りを開始。並行してアレンジをさらにブラッシュアップする作業を行なっていきました。

7~8月初旬まではそれぞれの事情もあり、一旦作業全体がストップ。8月中旬に完成向けた打ち合わせをして、そこから音源のミックスダウンやアートワークなども含む完成むけての作業へ動き出しました。

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アルバムの全体像、コンセプトについて

今回のアルバムの全体像を考えたときに、「自分が好きな曲である」ということは大前提として、

①曲順が寄せ集めではなく、一つの流れやストーリーになっていること
②トータルでトガシさんの才能を伝えられるものになっていること

この2つを意識して、収録曲や曲順を考えました。

曲順に関して具体的に言うと
・1~3曲目は(俺が思う)トガシさんの王道の曲、
・4~5曲目は、トガシさんのラウドでやんちゃでユーモラスな側面、
・6~7曲目はシリアスな、現状を良しとしていない側面
・8~9曲目はそこから救いに向かっていく局面、クライマックス
・10~12曲目はエンディング、再び主人公が日常に帰っていく
そんな風にアルバム全体のストーリーをイメージしてます。

一度、トガシさんの歌詞考察をYouTubeでした時にも話したのですが、トガシさんの世界観を構成する大きな要素として
①世界に対する厳しい現状認識
②それでも「あなた」を守りたい、愛したいと言う慈愛の心
の2つがあると考えています。

ここをきちんと流れに沿って感じてもらえるかどうかも意識にあったかと思います。

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アートワークについて

今回アルバム全体のアートワークを、ヤンサン美術部でもお馴染みの加藤オズワルドさんに手掛けていただきました。
確か名前が出たのはトガシさんからだったと思います。以前トガシさんの「愛の途中」が山田玲司のヤングサンデーのオープニングに選ばれた際、そのアニメーション選手権にオズさんが応募されていたことから、せっかくだったらお願いできないか、という話が出ました。
恐る恐るお願いしたところご快諾いただき、ジャケットとアルバム全曲の歌詞カードのイラストを今回のために書き下ろしてくださいました。

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さて、いかがだったでしょうか?
続くセルフライナーノーツ#2は、いよいよアルバム全曲解説編です。
よろしくお願いします!

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