【こえ #40】首に器具があるのって恥ずかしいこと?
今西 恵子さん
今西さんに初めてお会いした時、ステージで司会なんかしたら似合いそうだなと心の中で思う素敵な方だった。聞けば、本当に以前はMCのお仕事や、結婚式で花嫁に寄り添って着付けや日本髪を結うお仕事をされていたと聞いて、驚いた。
いつからか、そんな“声”が大切なお仕事をされていた今西さんの咳が止まらなくなり、近くのクリニックで喘息の診断を受けて服薬するも一向に良くならない。最終的には「夜も体を起こしていないと息ができないレベルまで」悪化した。それで初めて大病院でCTを撮ると、もう少しで呼吸困難になるほどに「気管に丸々とした肉腫がついていた」。
診断は『希少がん』。人口10万人あたり6例未満の“稀ながん”がそのように定義されるが、その中でも、今西さんがかかった『脂肪肉腫』という病気が気管に見られることは世界的に見ても非常に珍しく、今後の医療に役立てるために、医学論文に掲載されたほどだった。
手術で気管の肉腫を切除して楽になるも、その後、「(喉の)さらに深くまで取り切れば、再発の可能性は少ない。ただ、同時に声を失う。」と説明される。「やっと息ができるようになった矢先に、今度は声が失われる」ことに落胆した。
今から4年前、喉頭(空気の通り道であり声帯を振動させて声を出す働きもする)を摘出する手術を行うとともに、併せて一部切除した食道(食べ物の通り道)に対して小腸の一部を採取して補う形で移植する空腸移植再建手術も行った。
私たちは通常、空気の通り道である「気管」と食べ物の通り道である「食道」が途中までつながっている。しかし、癌をきっかけに喉頭(声帯)摘出手術を受けた方は、首に永久気管孔を造設する(穴が開く)ことで新たな「気管」をつくり、そこを通じて呼吸することになる。すなわち「空気」の通り道と「食べ物」の通り道は完全に分かれることになる。
その状況で声を取り戻す方法としては、以下の3つがある。
「食道」に空気を取り込み、喉を手で押さえるなどで、食道入口部の粘膜を新たな声帯として振動させ発声する『食道発声』
電気の振動を発生させる器具を喉に当て、口の中にその振動を響かせ、口(舌や唇、歯など)を動かすことで言葉にする『電気式人工喉頭(EL)』
手術により新たな「気管」と「食道」とをつなぐ器具を挿入するとともに、気管孔を器具で塞ぐことで肺の空気を食道に導き、声を出す『シャント発声』
術後、今西さんは①を選択した。結婚式という「究極のサービス業にもかかわらず、声が出せない」理由から仕事も一切やめた。しかし、その後、花嫁さんの日本髪を結うという特殊技能から「喋れなくてもやってほしい」と依頼が届き始める。
しかし、①の食道発声は、喉を片手で押さえないと声を出せず、両手が使えない。今西さんは、もう一度仕事に復帰するために③の手術を受け直し、両手で作業しながら声を出せる環境を取り戻した。今西さんと話していると、その声には抑揚もあり、コミュニケーションは驚くほどスムーズだ。
今西さんが癌の宣告を受け、喉頭を摘出した時期は、コロナ禍の真っ只中だった。当時、「声を失うと言われても、(①~③のように)色んな形で発声している人たちを知る由もなかった。今、今西さんの前には、愛知県で声帯を摘出し声を失った人に対して発声訓練を通じて社会復帰を支援する『愛友会』の仲間たちがいる。
先に経験した者として今度は自分が、「(喉頭の)摘出手術が決まった人に、心配いらないよ、努力すれば声は出るようになるよ。」と伝えたい。
さらに、今西さんは、首に造設した気管孔を塞いでいる器具を堂々と見せてくれた。「目立つから隠したがる人も多いけど、私は隠さない。恥ずかしいことじゃないから。日本だと、ここから聞こえる声(の違和感)も含めて一歩引かれるけど、外国じゃ気にせず話してくれる。なんでだろうね。」とおどけて話してくれた。
きっと今西さんは、後から同じ経験する人に対して、努力すれば声は出るようになると伝えるだけじゃない。その声や首に見える器具だって恥ずかしいことじゃないと伝えられる世界まで目指している。
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