【あし #14】パラカヌーから学んだアダプテッドスポーツ
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前田 雄一さん
前田さんはある時、息子さんがレスリングをやっていたことから、片足というハンディを克服してレスリングの全米学生王者に輝いたアンソニー・ロブレスという人物を知る。実際の映像、さらには彼の「この世に生を受けた人間は、脚が1本であれ2本であれ、困難と闘わなければならない。どう生まれたかではなく、どれだけ価値のある人間になれるかだ」という言葉に感銘を受けた。
「障害のある人でも、スポーツをやるんだ」と、前田さんがパラスポーツに関心を持ち始めた先に、開催まであと1年に迫った東京パラリンピックを前にして積極的にスタッフ募集するパラスポーツ団体が待っていた。
カヌー競技経験はなかったが、理学療法士として高いレベルの運動選手をサポートしてきたそれまでの経験が買われ、前田さんは『日本障害者カヌー協会』のトレーナーに登録された。
そこから前田さんは、選手のウォーミングアップやストレッチの手伝い、コンディションや体調を整える競技前後のケアといった役割を、国際大会や本番の東京パラリンピックで担っていった。
さらに東京パラリンピック後にチームが新体制になってからは、トレーナーのみならず、「レースの動画を撮影して、映像分析のソフトにかけ、動作やスピードを分析して、練習に活かす」映像分析も兼務している。
そんな前田さんから、『アダプテッドスポーツ』という言葉を教わった。参加する個人の年齢や性別、障害の有無に関わらず、ルールや道具を工夫し、みんなが平等にプレイできるようにしたスポーツ全般を指す言葉である。
「それがカヌーですよ」。日本障害者カヌー協会のHPのトップには夕暮れにカヌーに乗る何人かの写真が掲載されているが、「水上のカヌーの上では、誰が健常か障害か一目ではわからない」。水の上ではすべてが平等なパラカヌーは、『アダプテッドスポーツ』の代名詞とも言える。
そんなパラカヌーから受けた『アダプテッドスポーツ』という刺激は、地元の佐賀県で前田さんが果たす理学療法士の役割にも影響を及ぼしている。
これまで病院などで自宅に戻ってからの運動などを指導してきたが、「継続率が高くない」。高齢者など、「運動する機会が遠ざかることで身体に生まれる弊害を何とかしたい」と思う中で、「日常生活に復帰してから何かしらのコミュニティやサークルに入れる人はQOL(Quality of Life)が高い」ことも分かっていた。
だったら、誰でも気軽に「楽しめる運動で体を動かし、コミュニケーションもとり始める人を増やしていけないか」。前田さんは「競技用車いすを使って、誰もがスポーツを楽しめる環境を提供する」ために、有志とともに地元でのアダプテッドスポーツの普及活動にも尽力している。
前田さんは改めて、「パラカヌーを通じてパラスポーツに出会えてよかった」と振り返る。
パラリンピックで合計14個の金メダルを獲得したハインツ・フライという選手が、「健常者はスポーツをしたほうがよいが、障害者はスポーツをしなければならない」という言葉を残している。これは、身体的な意味以上に、運動することやそれを通じて社会参加することで得られる心理的な効果を強調した発言だ。
前田さんは、そんなパラスポーツの考え方を、パラカヌーとの出会いを通じて、障害に関わらずに地域に広げようとしているのだ。
最後に前田さんから出た言葉は、そんなきっかけをくれたパラカヌーへの愛だった。
「国内でパラカヌーを体験できるスポットは限られているかもしれない。でも逆に言えば、そこに来てくれれば、トップアスリートも環境も揃っているんです。即ち、そこに来てくれれば、世界は夢じゃないんです!」
次世代のアスリートを育成するため、でもそれだけじゃなく、パラスポーツが社会に与える意味を考えるためにも、パラカヌーを応援してみませんか。個人だけでなく、企業も含めて社会全体でどうしたら持続的な支援ができるか、そんなアイデアも募りたい。
ここまで読んでくださった皆さまに‥
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