【こころ #53】障害者が100%製造する高品質コーヒー
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堀合 義弘さん
「横断」カテゴリーの第2話でご紹介した、障害者福祉施設やハンディキャップのある方々が携わっている商品に特化したネット通販サイト『PIPPO』を運営する森井さん。彼女に弊社イベントで来場者にお土産として配れる商品を相談した際にご紹介頂いたのが、堀合さんが運営する障害者就労継続支援B型事業所『叶夢(かなん)』が製造販売するコーヒードリップバッグだった。
私もよくコーヒーを飲むが、一口飲んで「美味いなぁ」と口に出てしまった。聞けば、全粒ハンドピッキングで欠点豆を除去し時間をかけて自家熟成甘味焙煎した、こだわりの珈琲豆だそう。
それ以上に驚いたのは、その珈琲豆の製造工程を、豆の選別・焙煎・ミル・包装など細分化して、障害のある利用者の適正に合わせて「利用者さんが100%」製造しており、さらにその品質が認められ、「一般のスーパーやカフェに製品を卸している」ことだった。
なぜコーヒーなのか。
堀合さんは、元機械エンジニア。取引関係で欧州をよく訪れる中で、現地のコーヒーに魅了されて詳しくなっていた。それが後述するコーヒーを通じた高付加価値化に取り組むきっかけになる。
では、なぜ障害者就労継続支援B型事業所なのか。
堀合さんの息子さんが保育園の年中の頃、障害児保育に関する資格を持つ先生が「(息子の異変に)気付いてくれた」。グレーっぽかったため障害児に関わる保育園にも週1回通い、「小学校は普通級に2年間通った」。しかし、これも先生から「学校も楽しんで友達もいるが、登校拒否になりかけている」との指摘を受け、息子さんは3年生から支援級に転じた。
「その時からがきっかけだった」。全員が何かしらの障害のある児童やその保護者と付き合ううちに、「息子のためではなく、こういった児童が社会に出る前にできることはないか」と考えるようになり、現在の障害福祉の事業所を立ち上げるに至った。
少しでも障害のある利用者の賃金を上げるため、「最初からコーヒーによる付加価値を考えていた」。しかし、生豆から製品化まで全工程を担わないと利益率は高くならない。でも一部工程しかできない利用者もいるし、注文数は変動するし、利用者同士の合う合わないもあるため、シフトを組み替えるスタッフも必要になる。「高品質で美味しい珈琲豆をいかに安定してB型事業所でつくるかに、苦労してきた」。
そうした中で、利用者向けのマニュアルも、元はスタッフが作っていたが、利用者自身が作り変えていくなど、改善を繰り返してきた。その上で、「福祉だから」と甘えず、高品質の製品を対等に売る営業力も身につけてきた。
そうした努力の結果、今では、製品の卸先は20カ所近くに上り、最近では販売代理店の申し出も受けるようになった。さらに、大手企業のお歳暮用の大量発注であっても安定して対応できるようになり、更なる売上を生み始めている。今後は、テイクアウトだけのスタンドアップ店舗も設けて、利用者自身が接客することも検討中だ。
すべては、利用者の賃金を一般の「最低賃金まで上げていく」目標を諦めないために。
コーヒーだけではない。堀合さんが事業所立ち上げの際に思った「社会に出る前にできること」としてもう一つ、元気に笑顔で挨拶をするといった「姿勢」が大事と教えてくれた。
「今できることが多い少ないではなく、結果は別として、チャレンジして一生懸命やる人を積極的に育てたい」。掃除一つ、洗面所の使い方一つとっても、「仕事が早いとかできるとかではなく、次の人のことを考えているか、周囲のことを気遣えているか」を常に見ている。そこに「障害の有無は関係ない。あくまで人として当たり前のこと」なのだ。
こうした取り組みの中から、今年4月から初めて、利用者の中から“障害者枠ではない”スタッフも生まれた。利用者の立場で2年間過ごす中で「支援側もいいなと思ってくれて」、生活保護をやめて社会に飛び出した。
堀合さんが始めた事業所が「社会に出る前にできること」を提供した成果が、着実に広がっている。
現在、国内の障害者数は増加傾向にあり、そうした中で企業に求められる障害者雇用率は引きあがっていく。こうした中で、堀合さんの事業所のように賃金をできるだけ引き上げ、「社会に出る前にできること」を提供してくれる事業所が少しでも増えること、そしてそんな事業所の開設に挑戦する人が増えることを願う。
ここまで読んでくださった皆さまに‥
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