【あし #2】パラ陸上日本代表主将の次は次世代育成
松永 仁志さん(後編)
(前編から続く)
無職になって何とか競技で生計を立てるため、自己アピールを作り、3桁以上のアポ電話をかけ、やったこともない営業を続けた。非常勤講師の職や講演活動で生活費を補いながら、「世界で戦う支援をしてほしい、一緒に目指せる夢や目標を背負わせてほしい」と訴え続けた。そして、「1円でももらっている以上は全力で取り組まないといけない」覚悟の結果、ついに2008年の北京と続く2012年のロンドンでのパラリンピックへの出場が叶った。
現在所属する株式会社グロップサンセリテとアスリート契約を結んだ後も、2016年のリオデジャネイロ・パラリンピックではパラ陸上日本代表の主将を務め、続く2017年の世界パラ陸上でも日本代表の主将を務めた。
それと並行して考えてきたことがあった。当時、“岡山からトップアスリートを”を掲げる地元のスポーツクラブ『NPO法人桃太郎夢クラブ』のパラ陸上アドバイザーを務める中で、女子陸上の名門である天満屋女子陸上競技部とも交流があり、選手を育てる環境を身近に見てきた。「選手は実業団という形で責任を担う一方で、引退後も落ち着いて働ける環境があるから、安心して競技に打ち込める」。松永さん自身が無職で競技を続けた経験がしんどかったこともあり、後から続く後輩たちに向けて「不安定な環境でしか強くなれないのは夢がないから、生活の安定を作ってあげたかった」。
その結果、アスリート契約を結んでいた会社を運営母体に、パラスポーツ実業団チーム『WORLD-AC(ワールドアスリートクラブ)』が生まれ、松永さんが選手兼監督を務めることとなった。
松永さんがその立場でよく話すことがある。「不便さは誰にでも当たり前にある。それは健常者でも同じで、挙げれば切りがない。でも、それをそのままできないと思ったら不幸、こうすればできると実行すれば幸せ。要は考え方やマインド次第」。
他方で、「何とかしようとしても何とかできない人のインフラは整えるべき」と補足した。それは障害のある人に限らない。例えば寝たきりとかでなくても自宅に引きこもりがちな人は、外出でも就労でも社会に参画しやすいインフラは用意するべきと例を挙げてくれた。
どちらも、障害の有無が前提にはなっていない。
関連して、「知識の欠如」にも警鐘を鳴らす。障害のある当事者にとっては、自身でも何とかできると気付かないと、「自身のやれることを制限してしまう」。当事者を取り巻く環境にとっては、「東京パラリンピックがあってユニバーサルな世界という言葉ばかりが先行しているが、まだ障害者がデリケートに扱われてはいないか」と話す。CMに障害者を起用したり、子供用の教育番組に障害児も出演するべきと考えるが、そうせずに「うまくきれいに作りこんでしまうから、(環境側も)考えなくなる」。
そういった知識を植え付ける上で「大人になってからでは遅い」ため、小学校などでのイベントに足を運ぶことも欠かさない。1億分の1の子供にでも何かを残すことで、「大人になったときの考え方のヒントになったらいいし、さらに世代を超えてそれを伝える人になってほしい」。自分自身がスポーツで勝ちたいことはもちろんだが、「スポーツはインパクトがあるから、メッセージを残しやすい」こともパラ陸上を続ける理由だ。
例えそれがきれいごとだろうが、「正しいと思ってやり切ることが大事」と、最後に教えてくれた。同時に、やり切ることが「自己犠牲であってはいけない」とも添えられた。「素晴らしいことをする人にはそれなりの対価がある世の中であってほしい。それでお金をもらうことも含めて正しいという認識をもたないといけない」。
きれいごとを正しいと思ってやり切り、そこでお金をもらう。私たちにとって素晴らしい目標を頂いた。
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