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【め #11】iPhone「VoiceOver」の衝撃

水本 剛志さん(前編)


 人の目の内側には「網膜」という薄い膜組織があり、それが光を感じて電気信号に変え、目に映し出された画像を視神経から脳に伝達する重要な役割を担う。この網膜には血管が分布しており、それは母親の妊娠36~42週で完成すると言われるが、まだ十分に伸びきらないうちに生まれてきてしまうと、出産後に異常な発育をしてしまい、網膜が剥がれてしまうことにつながる。この病気を『未熟児網膜症』と呼び、小児の失明原因の第一位と言われている。

 水本さんは、1400グラムの未熟児で生まれ、小さい頃から「ぼわっと見える」視力0.02程度の弱視で幼稚園時代を過ごし、5歳の時に網膜の剥離を抑える手術を受けるもうまくいかず、全盲になった。まだ子供だったからか「見えなくなってもショックは受けなかった」。


 人間が五感で受け取る情報の比率は、視覚を通じてが83%と圧倒的で、続く聴覚が11%、嗅覚が3.5%と言われている。水本さんは、視覚を失ったことで「その他の知覚が優れるわけじゃないが、研ぎ澄まされる」と表現され、「音と匂いにはすごく敏感になる」そう。

 例えば、「変態だって言われるんだけど」と前置きしつつ、「知り合いであれば柔軟剤を変えたり靴を変えたりすればわかる」上に、「足音で慌てているな、考えごとをしているな」と相手の状況もくみ取ることができる。「会話の糸口に、それをあえて口にすると面白い」とおっしゃり、視覚を補完するコミュニケーションの手法に驚いた。

 とは言っても、コミュニケーションの核は「言葉」になるのだが、近年、人が文字ベースで伝える「“言語化”が弱くなり、言葉によるコミュニケーションが減っているように感じて寂しい」とも話された。


 水本さんは高校までずっと盲学校に通われ、現在も盲学校の教員として勤められている。教育現場としての変化を聞くと、「今はPCもタブレットもスマホも使えるようにならないといけない」と返ってきた。

 かつて「視覚障害者用の機器と言えば、“視覚障害者だけ”のために開発されていた」。しかし、画面を見ずともタップした場所の文字を読み上げてくる『VoiceOver』機能を標準搭載したiPhoneの登場が、“視覚障害者も含めたすべての人”のために開発される概念を広めた。いわゆる『ユニバーサルデザイン』という考え方である。

 視覚障害のありなしに関わらず、同じ土俵に立つ。テクノロジーがそれを実現する。それは日常生活を変えていく。

 今や「スマホのカメラは目の代わりになった」。水本さんは視覚情報を音声に変換するOCRアプリ『Envision AI』を使って、例えば家族がいない時でもレトルト食品を確認して一人で食事を準備する。「昔だったら、ご飯にパスタソースかけちゃったりしていたけどね」と笑われた。


 そんなテクノロジーやデザインがさらに広がってほしいと願う一方で、水本さんからは「本来であればどんな製品も“障害の有無に関わらず利用しやすく”あってほしいが、一部配慮してはいても、本来の意味でユニバーサルデザインではない製品も多い」という言葉も聞かれた。例えば、

後編に続く)


▷ Envision AI




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