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【しんけい #18】障害関係なく本人主体の人生を送れる社会へ


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西村 理佐さん


 西村さんの娘さんの帆花(ほのか)さんは、分娩中に臍の緒が切れたことで、脳に損傷を負って生まれてきた。脳と脳幹の機能を失って「脳死に近い状態」と言われ、自力での呼吸が難しいため、24時間人工呼吸器が欠かせない。


 「医療・介護依存度が高い子なのに、そこにきちんとアクセスできないことが一番辛い」


 帆花さんは現在、高校生。生まれてから成長する過程で西村さんを悩ませてきたのは常に、帆花さんの個別性の高さ故に「届かない」ことだった。


 病院生活から在宅生活に切り替えるために障害者手帳を取得しようとすれば、最初は「今後どのような回復を見せるかわからない。3歳以上じゃないと難しい」と断られた。

 やっと障害者手帳を取得し、在宅医療に切り替えた。昼夜問わず頻度と個別性の高いケアが必要なため、2歳から『居宅における身体介護』で夜間ヘルパーの利用が認められたのだが、担い手となる夜間ヘルパー自体が見つからなかった。

 その後、「長時間滞在」が可能な『重度訪問介護』の支給を受けることができる15歳になると、今度は、それまでの『居宅における身体介護』に比べて事業所にとっての報酬単価が安く、高頻度の医療的ケアを担えるヘルパーの報酬には到底見合わない状況に直面してしまう。一方で、居宅ではなく病院に移ると、逆に居宅で帆花さんの介護に熟練したヘルパーさんの支援が一切受けられなくなるため、安易に入院治療を選択するわけにもいかなかった。

 就学前のことだが、障害のある子供が支援を受ける『療育センター』にリハビリを受けに行けば、「帆花ちゃんがリハビリで何かを獲得できるとは思えません」と言われたこともある。


 西村さんが「届かない」経験をしたのは、こうした制度やそれに基づくサービスだけではない。身体障害者の日常生活や社会生活の向上を図るために支給される『補装具費支給制度』でも同様に、「届かない」経験をしている。


 長い期間、帆花さんに毎日寄り添って在宅生活を続ける中で、「本人の意思表出の方法がわかってきた。家族の独りよがりではなく、在宅支援いただく方とも意思疎通が取れるようになってきた」

 こうした意思表出をさらにサポートする意思伝達装置がある。例えば、帆花さんは、脳から筋肉へ送られる微弱な生体電位信号を検出することで意思表出を可能にする装置を「使うことができていた」。しかし、実際に費用の支給を申請してみると、もともと意思疎通できていて、その後できなくなった方が対象だとして「申請さえさせてもらえなかった」。すなわち、帆花さんは「意思疎通できる人と認められず」、装置を利用できなかったのだ。


 現在、西村さんと帆花さんは新たに、第12話で紹介した意思伝達装置『ニューロノード』を使って意思表出の訓練をしている。申請し支給を受けるために求められる意思表出に「どこまで近づけるか」に取り組んでいる。将来、ご自身の娘さんのためだけでなく、娘さんが支給を受けることができれば「利用できる人も増えていくと思う」からだ。



 こうした経験をもとに、西村さんは現在、新しい取り組みを始めている。

 例えば、障害のあるお子さんが特別支援学校を卒業した後でも学び続けられるように支援する訪問カレッジ。それをきっかけに地域と連携することで、「こういうお子さんがいることを広く知ってもらい、そのお子さんが地域で暮らしやすいように、人のつながりを増やす」ことも大きな目的だ。

 障害があると、どうしても「制度やサービスに当てはめた人生を歩むしかない状況」がある。それを変え、障害の有無を関係なく「地域で本人主体の人生を送ることができる社会」を広げていくことを西村さんは目指している。


 すべての個別ニーズに合わせた制度は不可能だ。それは西村さんも重々わかっておられる。

 しかし、その中でいかに対応できるようにするか。自治体の柔軟な運用もあれば、制度をその通り利用するための民間サービスの創出もある。逆にご本人のコミュニケーションに必要な製品とその支給制度にギャップがあれば、それも解消される必要もあるだろう。そして、制度でカバーされないものがあれば、それを補う活動が持続的に行えるような環境も必要だ。西村さんの話からは、それらすべてが見える。


 そして、そんな目標に向けたすべての出発点は、まず「こういうお子さんもいる」という個別性を知り、そこに想像力を広げようとすることだろう。西村さんの経験とこれからの取り組みは、その重要性を教えてくれている。まず、無知の知から始めなければいけない。



<参考>
西村さんのブログ 「ほのさんのバラ色在宅生活」
ほのさんのバラ色在宅生活 (exblog.jp)
ブログの書籍化 「ほのさんのいのちを知って」
Amazon.co.jp: 長期脳死の愛娘とのバラ色在宅生活 ほのさんのいのちを知って : 西村理佐: 本





ここまで読んでくださった皆さまに‥


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