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【こころ #29】精神障害を隠さず、社会の理解を広める
小川 貴之さん
小川さんの最初の一言は、予想外のものだった。「小学校高学年から、鏡を見ることが怖くなったんです」。学校で見た目のことを揶揄されて精神的に嫌になった。
「普通の人ではわからないぐらい、コンプレックスが異常になった」。そのまま中高大と鏡を見れないままに過ごし、大学3年生で就活を意識するまで再び鏡を見れるようにはならなかった。
後に調べると、「醜形恐怖症」。実際には存在しない外見上の欠点やささいな外見上の欠点にとらわれることで、多大な苦痛が生じたり、日常生活に支障をきたすと言われる。
鏡を見れないままに「身だしなみを整えることもままならず、そのせいで周囲とうまくいかなくなった」。中学校時代はストレスに耐えていたが、高校生から「(醜形恐怖症に紐づく)幻聴が極めて強くなり」、高校3年生のときに「学校に通うのもしんどく、ひきこもって、初めて病院に行った」。その後、統合失調症と診断され、投薬治療を開始した。
精神障害の診断を受けると差別を恐れてオープンにしない方もいると思うが、小川さんは違った。むしろ「隠して怯えるストレスに耐えられず、言われた方がマシ」ぐらいに、アルバイト先の同世代や大学のサークル仲間にも開示した。と同時に、同じ状況の仲間とも知り合っていく。
当時は「今ほど障害者雇用も一般的ではなく、シビアな状況」で、大学卒業時の就職が叶わなかった。そんなときにたまたまネットで見つけて参加したのが、脳や心に起因する疾患及びメンタルヘルスへの理解を深め促進する『シルバーリボンジャパン』のイベントだった。 小川さんはそれをきっかけに運営側にも加わることになる。「それまで人間関係でシビアな想いをしてきたけれど、理解してくれる相手に囲まれて、人間関係で初めて安心できた。」と振り返った。
その後、離れた時期もあったが、正社員での就職が決まったことを契機に、再び『シルバーリボンジャパン』の活動に参画し、現在は理事も務めておられる。「建前として“障害者差別はいけない”は広がったけれど、本音の部分でのアンコンシャスバイアス(無意識の偏ったモノの見方)を何とかしたい」。
その例を聞いてみた。現在勤める会社での話だ。障害者っぽくないのになんで障害者手帳を取ったの?と同僚に聞かれたことに対して、「障害者っぽくないイコール誉め言葉のように言うけれど、障害者っぽいとは何か?それが差別だと思う。」と教えてくれた。
不満を主張したわけではない。だからこそ、「対話を通じて、リアルな障害者が何かを知ってもらいたい」。“陽性”と言われる幻聴や妄想といった激しい症状ばかりが精神障害ではない。むしろ“陰性”と言われるひきこもったり活動性が落ちるといった目立たない症状に対して「理解が圧倒的にない。全く動けないことを怠けていると思われてしまう」。
振れ幅は小さいかもしれないが、こういったこころの浮き沈みは誰にでも起こる。精神障害にとって「日記をつけることはやっぱりいいとされている」そうで、そうした経験も活かして、誰もが日常に溶け込む形でメンタルの日々の揺れ動きを記録していけるようなサービスがあればいいのでは、といったアドバイスも頂いた。
なお、これまで事業者による障害のある人への合理的配慮の提供は努力義務とされていたが、今年4月1日から義務化される。今後、事業者には障害のあるお客様や従業員への配慮が一層求められる。そうした中で、障害者雇用の立場で特例子会社ではなく一般の職場で働き、『シルバーリボンジャパン』の活動にも取り組んでおられる小川さんの助言は事業者にとって貴重なものになるはずだ。
「企業にも是非、当事者としてリアルな声を届けたい」と話された小川さんと企業を是非お繋ぎしていきたい。
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