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【みみ #25】救いたいじゃなく、一緒にできたら楽しい

明石 太陽さん


 明石さんが大企業の広報部隊として、社員の写真を撮って社内限定のWebサイトに掲載する仕事に携わった時のこと。手の指のない方がおられ、その指が写ったところに、会社側から待ったがかかった。本人は気にしていないのにと、自分の中で「もやもやした」。

 そんな時に、社内起業家育成プログラム BOOST CONTESTの存在を知り、テーマを検討していたところふとテレビを観ると、オリンピックとパラリンピックで分かれている。初めて「あれ?」と違和感が芽生えるとともに、「一つになれば素敵」と淡く思った。


 「生まれてから障害との関わりもなく、出会ったこともないし、気に留めたこともなかった」が、グループ会社内で障害のある方に話を聞き始めてみると、200名ほどが所属する聴覚障害者コミュニティの存在を知ることになる。

 「聞こえない人を特別救いたい想いも最初は全然なかった」が、より深く知りたいとコミュニティの運営に携わったことで、「密に触れ合う機会が劇的に増えて、身近な存在になった」と同時に、明石さん自身の中に「聞こえない人と聞こえる人が一緒に○○を楽しめる」世界の実現を目指す思いが育っていった。


 そうした中で出会ったのが、現在共に後述するプロジェクトに取り組む須田 佳子さん。旦那さんとご夫婦そろって“聞こえない”が、お子さん3人は“聞こえる”。「家族全員がバスケットボール好きで皆で観戦に行くが、どうしても一緒に楽しみ切れない」。須田さんが“聞こえる”お子さんと一緒に観戦する姿を見て「実際に話を聞くと、より現実味が増した」。



 「自分も子供がいるし、自分もいつ聞こえなくなってもおかしくない」。そんな親目線になった時、「子供と過ごせる時間は今だけなのに、子供との思い出を目一杯つくれないことを何とかしたい。」と強く思った。

 こうした須田さんの原体験から生まれたのが、バスケットボールの「アリーナ場内の音声をリアルタイムで可視化する」ソリューション。やっとのご紹介になるが、これが、明石さんが現在取り組まれているプロジェクトだ。
こうした明石さんは、須田さんとともに、大企業挑戦者支援プログラム CHANGE by ONE JAPANイノベーターを育成する「始動 Next Innovator 2023」など、社外のビジネスコンテストで、一緒にプロジェクトを推進していった。そしてそこで、多くの“聞こえる”協力者とも出会うことが出来た。


 既に、国内の男子プロバスケットボールリーグ『B.LEAGUE』の、明石さんの地元大阪で行われる『大阪エヴェッサ』の試合で実証が始まっている。具体的には、“聞こえない”観客が字幕閲覧用のQRコードを読み込むと、アリーナ場内の音声が音声認識アプリ『YYProbe』開発者 中村さんのご協力を得て音声が可視化され、Web配信され、観客は手元の自分のスマホで閲覧できる仕掛けだ。



 しかしながら、これはあくまで「有志活動」だ。経済産業省主催の起業家育成・海外派遣プログラム J-STARXに参加して価値検証する機会を得たし、グループ会社内の新規事業プログラムにも採択された。しかし、どうしてもマーケットが小さいため、「意義は理解されても、利益を上げて継続性を担保する事業検証が難しい」ままだ。このまま「ボランティアでもできるが、ビジネスにしないと、活動規模も大きくならず、続けられない」と感じている。

 新しい具体的なソリューションはまだだが、少数の“聞こえない”人向けではなく、「”聞こえる“人にも価値がある形にもっていきたい」。『B.LEAGUE』を観戦されたことがある方はイメージしやすいと思うが、試合会場のアリーナ内はエンタメ性が強く、多くの音声が大音量で飛び交うことになる。「”聞こえる“人であっても、ルールや反則などの解説を文字化するニーズは一定ある」と、明石さんは踏んでいる。


 「今は、須田さんをはじめ少人数で活動している。だから、辞めようと思ったら辞められるのかもしれない。」と前置きしつつ、明石さんが話してくれた。

 「他社でリコーさんも同じ取り組みをしているし、同じ社内でも聴覚障害の他の課題に取り組んでいる人もいる。今回の活動を通じて、多くのスポーツ関係者や、エキマトぺのデザインをご担当された方角さんなど聴覚障害の課題に取り組む他の事業者にもお会いできたことは、自分にとって大きな財産です」。だからこそ、それぞれがまだ小さくても、それらが集まって「一緒に広げていけたら」と願っている。

 さらに、“聞こえない”人と“聞こえる”人が「片側だけで集まっても小さくなってしまう」。“聞こえる”人が入ることで、“聞こえる”仲間が増え、広がりも大きくなる。「スポーツ観戦もお互いに誘い合わないなど壁があるが、そこを乗り越えて一緒に活動することが重要」。明石さんはそれを実践し続けている。


 2025年には聴覚障害者のためのスポーツ競技大会『デフリンピック』が東京にやってくる。明石さんは、そこに向けて「こうした活動を思い出してもらえれば」と、次なる挑戦の糸口を探している。


 “聞こえない”人に知ってもらうことはもちろん、いかに “聞こえない”人と“聞こえる”人が一緒に周囲に広げるかも大事だ。まずそこからでも、みんなで一緒に応援しましょうよ。






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