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【しんぞう #5】できない中にある「できる」を楽しむ


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朝美さん


右心室の入り口の弁「三尖弁」が生まれつき閉鎖している「三尖弁閉鎖症」は、先天性心疾患の一種。朝美さんは48年間、この病気と生きている。


「三尖弁閉鎖症」は「単心室症」と同じく、心臓から血液を送り出す主な心室がひとつしかない。朝美さんには肺動脈が狭くなることで右心室から肺に血液が流れにくくなる「肺動脈狭窄症」や心臓のリズムに異常が見られる「不整脈」なども見られる。


1歳9ヶ月の頃、肺血流が少ない疾患に対して肺血流を増やすために行われる「BTシャント術」を受けた。最終的なゴールは、通常とは違う血液循環で心臓に血液を送る「フォンタン手術」。


当時のフォンタン手術は、右心房と肺動脈を直接つなぐAPC法。根治手術ではないが、血液中の酸素量を示す「SpO2」の値が正常値である90%後半に近づくなどし、患者の苦しさが軽減する。


朝美さんは、15歳でフォンタン手術を受けた。血液中の酸素不足が原因で皮膚が変色する「チアノーゼ」がなくなり、水泳などの肺を使う運動以外もできるようになった。


体が動く楽しさを味わった朝美さんは、様々なアルバイトを経験。学校卒業後、縁ある男性と結婚する。




■妊娠7カ月半で出産
結婚後、子どもを望んだ朝美さんは主治医に相談。だが、当時はフォンタン手術後に出産をしたケースはなかった。


子どもがお腹の中で育たない。妊娠中は血液循環が変わるため、心臓が耐えられるか分からない。母子ともに亡くなる危険性もあるなど、医師からは厳しい返答が。遠回しに「諦めて」と言われているのは分かったが、朝美さんはそれでも子どもを持ちたかった。


病院側は院内カンファレンスを実施。賛成する医師はほぼゼロだったが、朝美さんの気持ちを汲み、国立医療センターと連携して妊娠をサポートしてくれることになった。


「かかりつけ医は子ども病院で産婦人科がなかったので、妊娠の経過は国立医療センターで診てもらうことになったんです」


妊娠後はすぐに出血をし、入院。その後も入退院を繰り返し、妊娠6ヶ月目に大出血。絶対安静の入院生活となり、心臓にかかる負担を考慮して妊娠後7ヶ月半の頃に帝王切開で出産した。


当時、27歳だった朝美さんは産後10日で退院。小さく生まれた息子へ面会しに、毎週末NICUへ通った。


早産だったため、医師からは「発達に関する障害が出る可能性があるので、脳にたくさん刺激を与えてほしい」と言われたそう。そこで朝美さんは人と触れ合わせたり、療育を受けたりしてフォロー。そうした配慮もあったからか、息子さんは食物アレルギーがあるのみだという。




■術後に心停止となってペースメーカーの埋め込み
出産後は不整脈が増えたため、29歳の時に現代の主流となっている新しい型のフォンタン手術(TCPC法)を受けた。このフォンタン手術は、上半身の血液がもどってくる「上大静脈」と下半身の血液がもどってくる「下大静脈」を直接、肺動脈につなぐものだ。


しかし、術後に容体が急変。心停止を起こし、ペースメーカーを入れることになった。フォンタン手術で開胸したばかりだったため、医師たちは入れ方に悩んだ。だが偶然、ペースメーカー界で権威がある医師が居合わせたため、朝美さんは鎖骨からペースメーカーを入れ、命を紡げた。


この例があったことから、その後、フォンタン手術の同意書には「心停止時にはペースメーカーを入れる」という注意書きが加えられたという。


その後、30代になった朝美さんは心停止が起きなくなったため、電池交換のタイミングでペースメーカーの本体「発振器」を体内から除去した。


だが、発振器に接続する「リード線」は体内に残ったままであることから、左手の可動域が狭い。洋服の着脱や入浴中に身体を洗うことなどが難しく、身体介護と家事援助、通院介助をホームヘルパーに頼るようになった。


「年を重ねるごとにspO2の値が下がってきているので、在宅酸素も使っています」



■大人の先天性心疾患者だからこそ感じるもどかしさ
通勤が体力的に厳しいため、仕事は就労継続支援A型事業所でのリモートワーク。体調を機にかけてもらえるので、働きやすいと感じている。


「昔、障害者雇用枠で1年間の雇用契約を結び、会社勤めをしたことがありましたが、その時は雇用契約終了後に就活が難航…。心臓病と言うと身構えられ、採用されませんでした」


そう話す朝美さんは、大人の先天性心疾患に対する医療の手薄さにも疑問を持ったことがある。それは、30代半ばで子ども病院から大学病院へ転院した時のこと。定期健診を受けている循環器以外の科を受診した際、持病の説明をしても医師に理解してもらえず、治療に不安を抱いたのだ。


「専門医でないと知識が乏しい場合があるので、大人の先天性心疾患者は個人病院への通院が難しい場合も多いです。だからこそ、診てもらえる医療機関でのカルテ共有やカルテを診ての診察が徹底されてほしい」


近年は心臓外科医を目指す医師が減っていることを主治医から聞くと、未来への不安も募る。医療は技術を使える人がいてこそ、発展するものだ。「未来の子どもたちのためにも頑張ってほしいです」


なお、朝美さんは都道府県によって障害者専用駐車場の数に差があることも社会の課題だと感じている。「障害者専用エレベータも増えてほしい。辛い方がひとりでも多く乗れるよう、お子さんがいる場合はベビーカーを畳むなどして、みんなで上手く譲り合っていきたい」


年を重ねるにつれ、できないことは増えていくけれど、できない中でできることを見つけるのが私は楽しい。誰かのできないことを責めない社会であってほしい。そう話す朝美さんは、「自分がされて傷つくこと」に目を向け、他者を思い遣ってほしいと思っている。


「相手の立場に立って物事を考えるのは難しいけれど、自分がされて嫌なことは何だろうと一呼吸おいて考えることはできる。それは障害の有無に関係なく、人を傷つけないためのマナー」


障害者と健常者ではなく、同じ人間として分かり合うには、どんな想像力が必要なのか。朝美さんの経験は、そう考えるきっかけも授けてくれる。





ここまで読んでくださった皆さまに‥


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