【こえ #31】もう一度大工の仕事をしたかったから…
平山 明さん
平山さんに初めてお会いしたとき、雰囲気が歌手の宇崎竜童さんっぽいなと感じた(直接お会いしたことはないが)。カッコいい兄貴という感じ。現在75歳で現役の大工として活躍されている平山さんは、言動もカッコよかった。
喉頭がんが見つかったときはまだステージ1で、放射線治療で完治した。医師にはお酒は絶対にやめるように言われたのに「仕事もバンバンやったから、お酒もバンバンやっちゃった」結果、再発した。
医師に喉頭(声帯)摘出手術をしなかったどれぐらい生きられる?と聞いたら「5年」と返ってきた。「もう一度大工の仕事をしたかったから」手術に踏み切り、退院した日に千葉県で喉頭がんや下咽頭・食道がんなどで声帯を失くされた方々が発声を習得する『京葉喉友会』に電話し、次の日には自分で車を運転して入会した。
発声のビデオを見せてもらい、「他の人も声が出ているんだから、俺もやってやろうじゃねえか」と気持ちが奮い立った。
あれから4年半、毎週1回、車で2時間かけて会に通い続けている。会に来るだけではなく家でも発声練習をし、体力づくりのために毎日1時間歩くことも欠かさなかった。週1回片道2時間の運転も、毎日1時間のウォーキングも、奥様が隣にいてくれた。
平山さんに入会後の発声訓練の上達をお聞きした際の「すぐに妻の名前も子供の名前も言えたんだ」という答えに合点がいった。愛が深いご家族なのだ。
そうした努力の結果、平山さんは喉頭(声帯)を摘出してわずか1年半あまりで「会話ができるようになったから」大工のお仕事に復帰された。
術後に十分に上がらなくなってしまっていた腕は、仕事を続けたせいで上がるようになった。「気持ちが大事だ!」と笑顔で両腕を突き上げてくれた。
お酒も戻ってませんか?と聞くと「毎晩二合までと決めている、女性も二人までだぞ!」と大笑いしておっしゃった。その後に「仕事で普通の人と会話することも多いから冗談も言えないとな」と真剣になった顔をのぞき込むと、「お酒飲めるぐらいかせがねえとさ!」とまた冗談が飛んだ。
仕事で話をする前には、「(ジェスチャー交じりで)これやってから聞きづらいよ」なんて先に説明するそう。そうすれば「向こうも耳を傾けて聞いてくれて会話がスムーズになる」。何より「こっちから話しかける気持ちを持たないとな」。
「それが大事だろ?」平山さんはいま、他の当事者に発声法を教える指導員の手前の指導研修員の立場だが、「それをこれから言おうと思ってんだよ!」と気合が入っている。「まず会話できなきゃよー!それで誰とでも話せればどこにだって行けるだろ」。
平山の兄貴、やっぱりカッコいいっす!
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