【あし #19 / て #3 / しんけい #20】重度障害でも、自分で自分の暮らしをつくる
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戸塚 利治さん
脊髄(せきずい)とは、背骨に囲まれた、脳と手足(全身)の間の運動や感覚の情報を結ぶ役目を果たす中枢神経を指す。即ち、そこを損傷すると、運動機能や感覚機能が失われてしまう。そんな脊髄損傷患者は国内で毎年、約5000人も生まれている。
さらに、脊髄は、首から下に向かって頚髄(けいずい)・胸髄(きょうずい)・腰髄(ようずい)・仙髄(せんずい)と分かれており、『脊髄損傷』と一言で言っても、損傷部位が頭に近いほど障害の範囲が大きくなる。
戸塚さんは社会人1年目の頃、頭に最も近い『頚髄損傷』を負い、それから20年以上、下半身のみならず、上半身の腹筋が効かずに体幹が保持できなかったり、手の指も動かない状態で暮らしてきた。移動には、ヘルパーさんに車椅子を押してもらうことが必須だ。
そんな移動について、昔に比べて「がっかりすることは、だいぶなくなった」と、戸塚さんは振り返る。かつては「駅にあったりなかったりした」エレベーターも、「今はどこでも」設置されるようになり、スポーツ施設などもバリアフリー化が進んだ。
一方で、バス・タクシー移動となると、未だ残念なこともある。東京オリンピックを機に広まった天井高が高いタクシーには、そのまま車椅子ごと乗れるようになった一方で、車椅子を固定するのに10分程度はかかる。「それを嫌がるタクシー運転手さんがまだ多い」という印象もあるそう。地方では、バスに乗車拒否されたという悲しいニュースが今でも流れることがある。
ただ、頚髄損傷者として一番困ることは、介助してくれる「ヘルパー探し」だ。そんな課題を自ら解決するため、同じ損傷者の方が自分に適したヘルパーさんをスタッフとして雇う形で立ち上げた会社があると教えてくれた。
その名も、株式会社障碍社。北欧には、重度な障害があっても自分で自分の暮らしをつくるために、障害者がヘルパー・スタッフを直接雇用し、人事管理まで自ら行う『パーソナルアシスタント』という仕組みがある。日本では制度としては未整備だが、株式会社障碍社は、それになぞらえた重度訪問介護事業を展開している。立ち上げたのは重度障害のある当事者であり、その取り組みに厚生労働大臣も視察に訪れる。
戸塚さんも、その会社の重度訪問介護サービスを利用し、9人のヘルパーさんのシフトを自ら管理して日常生活を送っている。驚いたことに、9人のうち8人が大学生なのだ。
一般的に夜間対応してくれるヘルパーさんが見つけづらいように思うが、「大学生は昼間が学業で難しく、逆に夜の時間が取れるので、マッチする」のだそうで、大学生からしても一晩泊まればまとまったお給料が手に入る利点がある。
その結果、給料がよければ「必ずしも福祉に関心がなくても来てくれる」。さらに、未経験でも「長く一緒に過ごせば、自分(戸塚さん)の生活パターンや体の使い方のパターンもわかってくるので、自分にとってより良い介護が実現できるようになる」のだそう。
こうした自分にとって良い環境をつくるために、戸塚さんは自ら、大学の前に赴いてヘルパー募集のチラシを配ったこともあり、面接も採用も労務管理もしている。
こうした重度訪問介護サービスを提供する株式会社障碍社は現在、4か所に事業所を展開しており、どこも重度障害のある当事者が所長を務める。
戸塚さんも「(戸塚さんの)地元で事業所を開所したらどうか?」と声をかけられたこともあり、将来は「大学生がたくさんヘルパーをやっている会社とかもやってみたい」と話してくれた。
一般的に、介護サービスの担い手が事業所としても人材としても足りていないと言われる。その中でも、重度訪問介護となれば、なおさらだろう。
一方で、最近、「であれば、自ら事業所をつくり人材を集めて提供できる体制を作ってしまおう」と活動される方が増えているようにも感じる。
そこには福祉に加えて、経済や自立といったキーワードが見える。もちろん、そう簡単にはいかない要介護者の方やそのご家族も数多くおられるだろうが、自立の新しい形として、そうした「起業」も選択肢の一つとして広がってほしい。
障害や高齢の分野で新しい挑戦者を応援するInclusive Hubとして、戸塚さんの生活シーンをお聞きしながら、そんな取り組みも応援できたらと感じた。
ここまで読んでくださった皆さまに‥
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