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【こえ #20】声を失った同じ境遇の方々が発声練習に通う「銀鈴会」に入会してわずか2年で初心・初級・中級・上級クラスをすべて卒業し…

斉藤 陽一さん


 斉藤さんは声を失った同じ境遇の方々が発声練習に通う「銀鈴会」に入会してわずか2年で初心・初級・中級・上級クラスをすべて卒業し、今や先生(『喉頭摘出者発声訓練士』)として発声方法を教えておられる。

 まだお若いし、食道の一部を残す皮膚移植だった背景もあるが、それにしても今までお会いした当事者の方々の中では異例の“声を取り戻す”早さである。


 斉藤さんは、42歳で喉頭がんを告知された。「当時は声を失うと普通の生活が失われる、仕事もやめなきゃいけないという不安があった」と振り返る。そのため、最初は放射線と抗がん剤で治療するも数年後に再発、その後も喉頭(声帯)の部分切除を2回繰り返した。しかし、52歳で主治医から「残しても再発を繰り返す」と伝えられる。

 当時は(声を失うこと以前に)がんの再発への不安から“がんの”患者会に入っていた。そこでたまたま知った「銀鈴会」を訪れ、声を失ってから発声訓練に取り組む方々の話しぶりを見た。「そんな風に話せるのであれば大丈夫かと思って不安は消えました」。

 その後、3回目の手術を受けて喉頭(声帯)をすべて摘出し、声を失った。「再発した時に銀鈴会を知っていたら、もしかしたら最初から全摘出したかもしれませんね」と振り返られた。


 摘出した後のことを尋ねると、「術後2か月で会社復帰をしたけれど、メールやチャットで事足りる時代。もちろん部下とかに教育したり講義したりは難しくなったけれど、それは誰かが代わりにやってくれる。声を失う前と仕事はあまり変わらなかったかもですね。」と返ってきた。同じ不安を抱える方にとってどれだけ力になる経験談だろう。


 現在、先生(『喉頭摘出者発声訓練士』)として「銀鈴会」の中級クラスを教えておられる。簡単に言うと、5文字ずつ「今日は、どうも、ありがとう、ございます」と言えて、朗読も始める段階だ。

 生徒さんには「5文字発声できれば社会で通用する」と鼓舞されている。どういうことか?例えば、お店で天ぷらうどんを注文するとする。すべてきれいな文章で注文する必要はない。「てんぷら」と一言言えれば、店員さんが「そば?うどん?」と聞いてくれる。それに答えれば「温かいの?冷たいの?」と聞いてくれる。「こういう喋りになったらなったで、何とかなるんです」と力強くおっしゃった。

 斉藤さんは続ける。「ゴルフで打ちっ放しで練習するだけでコースに出ないと」。教室の中で発声がうまくなるだけではなく、社会に出て話す機会をつくらないと本当には上達しないし、何より自信もつかないという意味だ。


 「先生だからできるんだよ」とおっしゃる生徒さんもおられるかもしれない。でも、先生も失敗している。5文字発声できるようになり「何とかなると思って、駅にある1000円ヘアカットに入った。指さし注文で何とかなる飲食店と違って“髪型”を説明できず、緊張して言葉が出ずにジェスチャーするしかなかった」。でも、そんな経験をしたからこそ「どんどん使わないとうまくならない」とも感じた。


 きっと斉藤“先生”は、誰もが不安に感じること、そして誰もが背中を押されることを経験されている。最高の先生ではないか。


▷ 銀鈴会



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