【こえ #16】次世代の電気式人工喉頭(EL)を開発しているSyrinxの創始者が東京大学大学院博士課程に在籍する…
竹内 雅樹さん
第7話でご紹介した伊藤孝子さんが待ち望む次世代の電気式人工喉頭(EL)を開発しているSyrinxの創始者が東京大学大学院博士課程に在籍する竹内さんだ。電気式人工喉頭(EL)とは、あご下周辺に当てて振動を口の中へ響かせ、口や舌の動きで振動音を言葉にして発声することを補助する器具である。
なぜ竹内さんがこの開発に取り組み始めたのか。
最初のきっかけは大学の学部時代に遡る。ALSなど、徐々に筋肉が動かなくなり病状が進行すると自分の声で話せなくなる進行性神経難病。そんな患者さんがまだ声を出せるうちに自分の声を録音し、その声を使ってパソコンに入力された文章を読み上げるコミュニケーション・ツール「マイボイス」の取組を知り、手伝ったことがあった。
そんな課題感を胸に頂いていたある日、一本のYoutube動画を目にする。がんで声帯を摘出し声を失った人の社会復帰を支援する「銀鈴会」で発声訓練に取り組まれる方々の練習映像。「これだけ音声合成の技術が発達しているのに、どうしてこんなロボットみたいな声しか出せないのか」と驚いた。
そんな折、学内で学生が主体となる技術プロジェクトや製品開発への支援を行う「東京大学Summer Founders Program」への参加募集を目にした。すぐに「このロボットみたいな声を解決する製品開発に取り組もう」とプログラムに応募し、「銀鈴会」を訪ねてヒアリングを重ねた。
最初の試作品は「スピーカーむき出しでいかにも組み立てたって感じでした」。まずは使ってもらいたかったが、「これじゃ街中で付けられないよね」と、音質のみならず見た目の課題感も大きかった。さらに、それまでの電気式人工喉頭(EL)は片手でもってあご下周辺に当てる使い方で必ず片手が塞がってしまう。日常生活における「ハンズフリー」への要望も大きかった。
そこから当事者の方に繰り返し相談して試行錯誤を重ねてきた。最新のバージョンでは、首に巻くバンドの形で付属のスピーカーは小型化され、デザインも洗練された。でも「まだまだ首につけるには重く、もっと薄型にしたい。バンドも首に巻くのではなく、首に掛けたり貼ったりできないか。振動を口の中に響かすための押し込みとも両立しないといけない」、「音声自体も振動音の漏れが大きく、抑揚の改善も必要」と更なる改善に意欲が溢れる。
しかし、やはりモノづくりとしては学生レベル。「経験豊富な音響エンジニアや回路エンジニアの方に是非手伝ってほしいんです。首に当てる際の振動音漏れが大きいから振動子をどうするか回路を一つにするか。そういった課題を解決できればもっと良い製品になる。モノをちゃんと作れる方に設計も手伝っていただきたい」と協力者を熱望されている。
なぜ、そこまで。
例え改善余地が大きい製品であってもこれまで数多くの期待をもらっているからだ。
生まれつき小児慢性肺疾患を患う12歳の子のお母さんから問合せをもらったことがあった。お子さんは気管切開をしている上に肺が悪いため、声を出すことができない。でも、小学校6年生になり卒業式で名前を呼ばれたときに「はい!」と返事をさせてあげたい。そんな願いだった。卒業式の日、お子さんがファンである広島東洋カープのイメージカラーに塗られた、竹内さんの電気式人工喉頭(EL)がその夢を叶えた。(詳細はこちら)
竹内さんは「世の中に必要なことだと確信してます、そしてやり遂げたいと思っています。社会課題を放っておけないです。」と力強く話された。
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