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【みみ #6】片耳難聴を救う眼鏡型デバイス『asEars』

高木 健さん


 この取組を始めて、ご自身が当事者であり開発者でもある初めての方かもしれない。高木さんは、ご自身の右耳が全く聞こえない『片耳難聴』という当事者であり、そうした当事者の聴覚を補う眼鏡型デバイス『asEars』の開発者でもある。


 「ストレスがきっかけで、風邪もこじらせたことで、ウィルスが耳に入ったのか」、小学生の時に『突発性難聴』に見舞われた。ある日突然、聞こえが急に悪くなる病気である。聴力の悪くなり方は人それぞれだが、一般的に「7割は戻るが、3割は戻らない」と言われるそうで、結果的に高木さんの右耳の聴力は失われた。

 中学生の時に嫌な思いをされた経験がある。「本当に聞こえないのか?」と、“聞こえる方の”左耳の耳元で大きな声で叫ばれ、耳鳴りが止まらなかった。「左耳も聞こえなくなるじゃないかとすごい不安に襲われた」。

 こうした経験のように、理解されない故の周囲からの偏見があったり、自分の弱みを見せたくないという背景から「一切周りに打ち明けられない人もいる」と教えてくれた。


 高校時代までは交流関係が限定的であるが故に、周囲に事前に自身の難聴を説明して配慮を求めることもでき、聞こえやすい場所に移るなんてことも容易だった。

 しかし、大学に入学してから周囲が一変する。見知らぬ人と関わる機会が圧倒的に増え、交流機会でもノイズが大きい環境が増えた。目上の人との接点も多く、毎回配慮を求めたり席を移動したりすることが難しく感じるようになっていった。明確に「ハンディキャップを感じるようになった」。


 既存の支援機器をリサーチして初めて『クロス(CROS, Contralateral Routing of Signal)補聴器』の存在を知る。聞こえない耳にそのクロス補聴器を付けることでそちら側の音を拾い、電波によって聞こえる側の補聴器に飛ばすことで、聞こえない側の音も聞こえるようにするものだ。しかし、当事者の高木さんとしては、見た目が「いかにも補聴器」で着脱も煩わしく感じた。

 他にも『人工内耳』や、耳の後ろの頭蓋骨に装置を手術で埋め込むことにより骨伝導で音を伝える『骨固定型補聴器(Bahaシステム)』の手段もあるが、効果は高いものの金銭的負担や手術を伴うため普及が進んでいないのが現状だった。


 そこで、当時工学部に所属していた高木さんが思いついたのが、耳をふさぐ煩わしさもなく、誰もが日常で使う眼鏡をかける感覚で、骨伝導によって音を伝えるデバイスだった。ご自身も眼鏡をかけておられる。

 基本的な原理はクロス補聴器と同じで、眼鏡型デバイスに内蔵された小型マイクロフォンで聞こえない側からの音を捉え、聞こえる側の耳に配置された骨伝導スピーカーに伝えるもの。製品名『asEars』として、令和2年度には学内でasEarsに関する研究で『東京大学総長賞』を受賞し、現在はプロトタイプによるユーザーテストなどを繰り返している。

 プロトタイプ故にソフトウェアのバグが発生したり、ハードウェアも脆いところがある。ユーザーインターフェースもまだまだ洗練していく必要はあるが、何より「耳をふさがなくていいことは好評だ」。

 その利点を生かして、製品の完成度を上げる前に「まず認知度を上げたい」。「福祉機器は認知度が低くて消えてしまうケースが多いので」と、マーケティングと販路開拓を先行させる考えだ。


 高木さん自身も患う『片耳難聴』は、米国では成人の約7%が患う珍しいものではない。しかし、前述の通り外に打ち明けない人も多い。さらに、障害者手帳が交付されるものではなく、前述のクロス補聴器は数十万円する一方で自治体による補助は極めて少なく、お医者さんでさえ積極的に勧めないのが現状だ。

 今回の高木さんの挑戦に限らず、障害のある人の課題を解決する福祉工学の分野でマーケットをどう顕在化させるか、開発に向けてどう資金調達をするか、共通の課題がある。

 高木さんと「こえ」の第16話でご紹介した竹内さんは、同じ東京大学の大学院で電気系工学を専攻する同級生だ。自ら学んだ知識をそれぞれ違う障害の課題解決に生かしていこうと奮闘する学生がいる。

 どうにかたくさんの方の力を貸してもらいたい。


▷ asEars



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