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【め #35】視覚障害者の生活全般を支える歩行訓練士


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古橋 友則さん


 『歩行訓練士』という仕事をご存じだろうか?目の見えない人や見えにくい人が白杖を使うなどして安全に歩行できるように指導・支援する専門職である。


 古橋さんは、1996年に静岡県浜松市で全国初の視覚障害者中心の小規模作業所としてスタートした、現NPO法人六星・ウイズに初期から勤め、浜松市で最初の歩行訓練士でもある。


 ウイズが設立された当時、目の見えない人や見えにくい人のため大きな福祉施設として社会福祉法人日本ライトハウスなどが知られていたが、日本の主要都市にしかない。浜松の視覚障害者は東京や大阪まで出ていかなければならず、情報や生活用具へのアクセス機会は極めて限られていた。

 そうした中で、もともと視覚障害者向けの生活用具をつくる家業を営んできたウイズ創設者は、引きこもる障害者を数多く見てきていた。中途で見えなくなった方は、その後に仕事が全くない時代でもあった。「それでも、工夫すれば働ける。白杖など必要な道具も自分達でつくろう」と立ち上げたのが、ウイズだった。

 こうしたウイズの挑戦は、一時期、白杖であれば1日に30~40本、国内シェアで6~7割を供給するまでに大きくなったこともある。見事に、視覚障害者の仕事をつくった。


 また、白杖など、自分でつくることでその構造がわかれば、自分でそれを修理することもできるようになる。そのため、浜松のみならず全国からも視覚障害者が集まり、白杖づくり体験合宿なども開かれた。ちなみに、体験合宿は今でも続いている。

 国内だけではなく、海外からも注目が集まる。JICA(国際協力事業団)の視覚障害者技術支援プログラムなどを通じて、アジアやアフリカから研修生が訪れた。「国に帰ったときに、大きな法人の仕組みを学んでも再現することは難しいが、小さい法人のやり方ならマネできて、かつ自分達で白杖なども作れる」ことが大きかった。研修生の中には、その後「日本語が巧すぎる盲目のスーダン人」として有名になるモハメド・オマル・アブディンさんもいた。


 そうした中で、ウイズに飛び込んだのが、古橋さんだった。

 「海外からの研修生は、障害があっても、国に帰ってリーダーにならなければいけないと、チャレンジすることにハングリーだった。国内の障害者も含めて、自分が関わることで、その人の人生に触れられる。そんな仕事にやりがいを感じた」

 もともと福祉系の大学だが視覚障害との関わりは全くなかった古橋さんが、3年後には歩行訓練士の資格を取得していた。


 歩行訓練士は、別名『視覚障害生活訓練等指導者』とも呼ばれる。すなわち、業務内容は、移動に限らず、読み書きやPCの使い方、料理や整理整頓にまで及び、「生活にかなり近い」。静岡県内には大きな施設がないことから、視覚障害者のご自宅を訪問することも多い。

 しかし、こうした支援や歩行訓練士の存在自体を、当事者が最初に訪れる眼科の医師や支援の窓口となる行政が知らないケースも多い。結果的に、一番便益がある視覚障害者に情報が届かず「知らないままに引きこもりになっているとすれば大問題」だ。

 一方で、支援する側の歩行訓練士も足りていない。静岡県の場合、県内の視覚障害者7000名に対して、活動する歩行訓練士はわずか12名だ。しかし、これは良い方なのだ。静岡県は独自に歩行訓練士の養成予算までつけているが、全国には、予算はないことはもちろん、歩行訓練士が数名や0名の都道府県もあるのが実状だ。


 こうした中で、これまでInclusive Hubの「め」カテゴリーの中で紹介してきた、視覚障害者の移動などを支援する製品やサービスに期待したいところだが、一足飛びにはいかない。

 「スマホやナビアプリなどの登場によって、ここ数十年で圧倒的に変わった」と古橋さんも技術の進展を喜ぶ一方で、「ナビゲーションをされても、最後は、自分で歩く技術が必ず必要になる」と念押しする。

 例えば、「目の前に交差点があるとナビされて、その手前でちゃんと止まれるか」「ナビが5度誤差を生んだだけでも、そのまま進めば数メートルずれてしまう」「ナビの情報が新たに入ることで、それまで五感をフル活用していた注意・意識の分散が起こり、逆に必要な音を聞き逃してしまうかもしれない」

 古橋さんは、決して新しい製品やサービスを否定しているわけではない。それぞれの製品・サービスについて、「どの程度の歩行能力、判断能力があれば有効に使えるのか、もっと言えば機器を安全に効率よく使う上で必要不可欠な能力や技術について丁寧に伝えていく必要があり、そこのサポートをしていくのも歩行訓練士の使命」と考えているのだ。


 古橋さんは、今回の記事をきっかけに「当事者本人はもちろん、ご家族の方でも、一人でも多く、歩行訓練士の存在を知ってほしい」と話してくれた。当事者やご家族のみならず、視覚障害者を支援する製品・サービスを開発する事業者にとっても、歩行訓練士の方々は、適切な結節点を提供してくれそうだ。

 そうした現場から歩行訓練士への多くのニーズがあがり、さらに眼科の医師や行政に認知が広がり、そして歩行訓練士を目指す人が増えて育成環境も整備されていく。今回の記事が、そんな未来に進んでいく一助になれたら嬉しい。
 


 





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