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【みみ #38】「電話の音声を文字で届ける」から広がる未来


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高橋 克己さん


 『TRANSREC(トランスレック)』というサービスをご存じだろうか?留守番電話に残された音声メッセージを音声認識し、その結果をメールで届けてくれる国内初の留守番電話サービス。2014年にリリースされた。

 裏側にある技術は、米国発で、音声通話、メッセージング(SMS/チャット/Eメール)、ビデオなどの様々なコミュニケーションチャネルを統合的に扱えるクラウドAPIサービス「Twilio」。

 この技術に惚れ込んだ高橋さんが、「かかってきた電話の音声を文字で届けるサービス」に仕立て上げた。


 このサービスを聞いて、聴覚障害のある方や電話が苦手な発達障害のある方に嬉しいサービスだ!と思われた方もいるかもしれない。しかし、高橋さんは、当事者でもなければ、そういった方々のために開発したわけでもない。

 まずは自分のためだった。「そもそも電話があんまり好きじゃなくて、ほとんど出ないんですよね。突然かかってくるのが苦手で」


 しかし、「文字と通話でのコミュニケーション」の可能性は、電話を受けることに加えてかけることにも、そして、聴覚障害のある方のニーズにも広がり始める。

 2015年にKDDI Web Communications社が開催した「Smart Communication Award 2015」。このコンテストで、高橋さんが提案した「”自動”電話リレーサービス」が最優秀賞を受賞したのだ。


 当時、聴覚障害のある方向けに、”自動ではない”「電話リレーサービス」は存在した。それは、主に聴覚障害のある方がチャットなどを利用して通訳オペレータに接続し、オペレータが利用者に代わって電話をかけて、同時双方向のコミュニケーションを実現するサービスで、日本財団が提供していた。

 しかし、当然だが、オペレータ(人)を介するため、どうしても通常の通話に比べて利用料が割高になり、365日24時間利用することもできなかった。何より、利用者は「病院に連絡するときなど、プライバシーや個人情報など第三者を介することに抵抗があった」

 高橋さんが提案した「”自動”電話リレーサービス」は、そんな課題をすべて解決するものだ。前述のTRANSRECの技術を背景に、Web(PC、スマホ、タブレット)+電話+音声変換の組み合わせにより、オペレータ(人)不在、365日24時間運用可能なサービスを目指したものであった。


 その当時、高橋さん自身は「プロダクトとして、こんなことができる。だから、聴覚障害のある方に”も”使えそう」という程度の感覚だったが、受賞したことで、聴覚障害関連の団体さんなどともコネクションが広がり、ビジネスとしての可能性についても模索することとなる。


 しかし高橋さんは、こうしたサービスを自ら事業にすることはしなかった。「障害のある方からお金をいただくモデルがなじまず、一企業がビジネスとして取り組むのはかなり難しい」ことが理由だ。「障害の有無にかかわらず広く誰もがお金を払ってでも使えるものをつくっていかないといけない」と、大事な点を指摘する。


 この点で、高橋さんが教えてくれた「今後さらにコミュニケーションのあり方は変わる」という話が頭の片隅からずっと離れない。

 例えば、現在あるコミュニケーション手段は、電話はもちろん、メールにせよ、LINEにせよ、Messengerにせよ、「ツールはたくさんあるが、それぞれが閉鎖的で、同じツールじゃないとコミュニケーションが取れない」。一方で、音声認識技術は大きく進展し、文字起こしのみならず要約のレベルも上がっている。

 そうした中で、かつて高橋さんが「自動電話リレーサービス」を通して文字と通話の壁を越えたように、いま巷にあふれる多くのコミュニケーション手段の壁を越えた「Over the Topで、その人にとって最適なコミュニケーション手段を選んで相互に会話する理想的な形が出てくるのではないか」と高橋さんは期待している。

 それこそ、高橋さんが話された「障害の有無にかかわらず広く誰もがお金を払ってでも使えるもの」であり、ビジネスの可能性が見えてくるのではないか。


 高橋さんは現在、冒頭でご紹介した技術「Twilio」ではなく、同じCPaaSの「Vonage」のエバンジェリストを務めておられる。「この技術を使って、こんなことができないか。こうすれば実現できる。技術を改良してみたら困ったことが起きた」といった相談に乗り、「Vonage」を使った新しい製品・サービスの創出を後押ししている。

 まさに、障害のある方のコミュニケーションという課題を、最先端技術を使って解決したいと考える起業家にとって、最適な方なのだ。

 「エバンジェリストはまず、もう一回話を聞きたいと思ってもらわないといけない」と話す高橋さんは、ピンク色の髪をして軽快な話術を披露する。たった5分のプレゼンは、芸人かと思うほど記憶に残るものだ。

 一度お会いになりたい方は是非ご連絡ください。私ももう一回話を聞きたいと思っているので、機会をつくります。




ここまで読んでくださった皆さまに‥


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