見出し画像

ピンチをアドリブで乗り越える技 72/100(キレる)

自問自答を繰り返しながら、
アドリブと演技の関係を
追求していってみようと思い立ちました。
100回(?!)連載にて、お送りします。


「ピンチに強い精神力」に関して、もう一つご紹介しておきたいです。

『The Stick』

これは、イギリスの演劇学校で、結構初期に行われる授業なんですが、妙に記憶に焼き付いています。

私たちは輪になって座ります。

そして、一本の長い棒が、一人の前に置かれます。

その人はその棒を持ち上げ、また地面に置きます。
置いたら、その棒は次の人の前に移動させます。

次の人は、その前の人が行ったのと同じ所作で、その棒を持ち上げ、地面に置きます。
そして、自分の方法でまたその棒を持ち上げて、地面に置き、次の人へ送ります。

その人は、一番目の人が行ったのと同じ所作でその棒を持ち上げ、それを置き、つぎは二番目の人が行った所作通りに、その棒を持ち上げて置きます。

この辺になってくると、すでに所作を正確に再現出来なくなってきます。
棒のどのあたりを持ったか、逆手だったか順手だったか、細かなところまで再現しなくてはいけません。

何か間違ったことをしたときは、他の人がそれを教えることが出来ます。
でも、言えるのは

「NO」

だけです。

「そこじゃなくてもっと端だった」
「手つきが違う」
と言ったような具体的なアドバイスは出来ません。

ただ、何度も何度も、その人が自分で正解に辿り着くまで
「NO」
としか言えないのです。

「NO」と言われた当人も、どこが間違っているのか分かりません。

本当は、手に取る位置のことを言われているのに、違うところを指摘されているのかと思い、持ち方を変えてみたりするのですが、そうするとまた、
「NO」
と言われます。

否定が続くと、だんだんと疑心暗鬼になります。
周りも、歯痒くなってきて、
「NO」
の言い方が強くなります。

当人もだんだんと苛立ってきます。

私のクラスはその時12人ほどいたので、最終的には11人の所作を覚えて再現しなくてはいけませんでした。

同級生のTはこれに耐えられず、とうとうキレました。

「こんなことをやる意味はどこにあるんだ?!」

入学して間もない時期でありましたし、彼はみんなよりも少し若く、当時、私と同じ18歳でした。

先生は彼を上手いことなだめて、この拷問のようなエキササイズを続行させました。

今振り返れば、このエキササイズには、3つの意味があったように思います。

当然、当時はその意味を教えてもらうことはありませんでした。

教えてもらってしまうと、脳に定着しません。全ては自ら発見するべきだという校風だったため、ありとあらゆるエキササイズの意味を私たちは教えられていません。

卒業後、さまざまな現場に立ち会った中で思うのは
「キレたら負け」
であるということです。

物事計画通りに上手くいくことは、まずありません。トラブルは付きものなんです。でも、そこでキレてしまったら、そこで終了です。

グループの空気は険悪になり、疑心暗鬼が生まれ、生産的な議論が出来なくなってしまいます。

いかなる状況下においても、キレない。

その精神力が、濃密なグループワークには必要不可欠であると、私は実体験から感じています。

一度キレた人とは、もう二度と仕事をしたくありません。

創作の現場には、その一線を超えない精神力が、求められていると思います。

他にも、このエキササイズの意義は様々あると思います。

模倣の大事さとか、「NO」とだけ言われることへの耐性とか。

明日へ、続く。

いいなと思ったら応援しよう!