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ピンチをアドリブで乗り越える技 96/100(立場)

自問自答を繰り返しながら、
アドリブと演技の関係を
追求していってみようと思い立ちました。
100回(?!)連載にて、お送りします。


昨日に引き続き、イギリスの演劇学校で行われているエキササイズをもとに、私たちが即興の劇団で、インプロのために独自に開発したものです。

実践するには、2人必要なので難しいとは思いますが、「アドリブで乗り越える」為のヒントが詰まっていると思うので、ご紹介します。

「The Shoe Shop」といいます。

まずは、店番がいます。
そこにお客さんが入ってきます。
自由に会話を行ってもらうんですが、一つだけ大事なルールがあります。

一番最初に「シーンに登場した靴」を必ず購入しなくてはいけない。

その靴を購入した時点で終了です。

ハテナ?ですよね。

ルールはシンプルなのですが、回を重ねるごとに、その深みに驚かされるエキササイズです。

「いらっしゃいませ、今日は何をお探しですか?」
「自分用なんですが、これとかいいな」
「サイズはおいくつですか?」
「26センチです」
「そうしますと、そちら27センチのものになりますので、26センチお持ちしますね」

この場合、なんとかしてこの27センチの靴を購入しないと終われません。

「いらっしゃいませ」
「母のプレゼント用にスニーカーを探してるんですが」
「女性者のスニーカーですとこの辺りですね」
「へええ、カウボーイブーツも売ってるんですか?!」

このカウボーイブーツを買わなくてはいけません。

「いらっしゃいませ」
「ビーチ行くんでサンダルが欲しくて」
「ビーチサンダルですね。まずこちらにお掛けください。あ、すいません、このヒール邪魔でしたね、前のお客様が…」

このヒールを買わなくてはいけません。

「いらっしゃいませ」
「革靴を探してるんですが、あ、ちょうどあなたが履いてるようなやつがいいんです」

いま履いてる靴を売らなくてはいけません。

「いらっしゃいませ」
「ちょっと今履いてる靴が破けちゃったんで、買い換えたいんです」

はい、その破けた靴を自分で購入し直さなくてはいけません。

これらの状況自体がピンチですよね。

でも、ピンチなのは役者という立場上、この共通の目標にどう辿り着くかであって、登場人物のキャラクターたち自体はピンチ下にありません。

ピンチな状況に直面した時、それがどの立場から見てピンチなのか、検証する必要がある時もあるかと思います。

自分はピンチだと感じていても、他の人からはそう思われていない、もしくはピンチなのは、あくまでも自分自身の立場であって、この場はそれを悟られないように振る舞わなくてはいけない、という場合もあるでしょう。

話題は変わりますが、以前、「深化」のお話をしました。

何か面白おかしい、真新しいものを出すことがクリエイティビティーではなく、置かれた状況下の中で、深みを持たせるべきだと考えるのですが、その境界線はなかなか難しいです。

「こちら展示用の象の靴でして」

これは、独創的で面白いですが、アウトかセーフかでいうと、ぎりぎりセーフかと思います。

「こちら、食べることの出来る靴になってます」

はい、これはアウトですね。

面白いことを言ってやろうというエゴが丸見えです。

このエキササイズの醍醐味は、ちょっと難しそうな靴を買う・買わせるという難題があり、その共通の目標に向かって、繰り広げられる人間関係や会話に面白みがあります。

「食べることの出来る靴」は斜め上どころか、なんか全く異質なものを持ち込んできたように感じます。

どうですか?
この違いお分かりになりますか?

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