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あの頃の「プロトタイプする暮らし」#3  ソーシャルバーPORTOオーナー・嶋田 匠さん

日本橋のオフィス街を抜けた場所にあるソーシャルバーPORTO(ポルト)。このバーの店長は日替わり制で、毎日いろいろな店長さんの個性を楽しむことができます。さらにPORTOの上階のシェアハウスでは、住人による楽しいプロジェクトが日々、生まれているそう。今回はそんなソーシャルバーPORTOのオーナーであり、コアキナイ主宰の嶋田匠さんにお話を伺いました。嶋田さんがどうやってお店をつくったのか。ご自身で大切にしていることなどをお話いただきました。


お互いが育み合えるプラットフォームを

ーーまずはこのお店が生まれた経緯を教えてください。

ソーシャルバーPORTO(以下、ポルト)は、日替わり店長のバーです。ぼくを含めて、みんなが気軽に「場」をもてたらいいなと思い、5年前に始めました。当時、ぼくはリクルートという会社に勤めていたので、複業(副業)でスタートしました。

ーーなぜ「場」をもちたいと思ったのでしょうか。

社会とのつながり方を考えたからですね。仕事を捉えたときに、リクルートでの仕事を通して社会や他者とつながることよりも、ポルトという仕事を通してつながるほうが、他者と自然につながれている感覚がありました。

ポルトを営むことで社会や他者とつながり、安心感や豊かさを感じることができて、多くの人がぼくと同じような体験ができたらと思いました。ぼくたちはそのような社会とのつながり方を「コアキナイ」と呼んでいて、お互いがコアキナイを育みあっていくためのプラットフォームづくりをしています。

ーー半年間、複業状態だったのですね。なぜ「日替わり店長制のバー」を開業しようと思ったのですか。

ぼくは、大学2年生から4年生までの3年間、毎週日曜日に原宿のキャットストリートで行き交う人の相談に乗る「無料相談屋」というプロジェクトをやっていました。いろいろな人が訪れるのですが、20時くらいになると「飲みに行こう!」と界隈のお兄さんたちが誘ってくれたり、近くに住む常連の老夫婦が焼き菓子をくれたり、おじいちゃんの「膝が痛い」という話を聞いたり。2000人以上の人の話を聞きました。

ーーすごい人数ですね!

学生のときにこうした「場をもつ」という体験をしてきました。赤の他人だった人と関係が生まれることにロマンを感じていたこともあり、「場をもつ」ことにポジティブなイメージがありましたね。

嶋田 匠(しまだ・たくみ)
ソーシャルバーPORTO(ポルト)のオーナー、コアキナイ主宰
1992年生まれ。学生時代は原宿キャットストリートで「無料相談屋」として2000名を越える通行人の相談に乗る。2015年、リクルートキャリアに入社。2018年、リクルート在職中に日替わり店長のソーシャルバー「PORTO」を喜屋武悠生と開業。

ーーちなみに会社員時代はどのようなことをやられていたのでしょうか。

当時は営業の仕事でした。新卒のぼくは根拠のない自信があって、ものすごくプライドも高かったし、「ぼくが一番売れる!」と無邪気に思っていましたが、初めはびっくりするくらい成果が出せませんでした。熱心に指導してくださる上司の期待に応えられなくて、会社に所属していることに自信がもてない状態でした。

それで「成果を出さなくては」と、平日も土日も働きまくっていたら学生時代の友人や無料相談を通してつながった人たちと会う機会がどんどんなくなり、いよいよどこにも安心できる関係性がなくなり、体調を壊してしまいました。それで体を休めたり、心をゆっくり休めようとして、半年が経ったタイミングでようやく元気が出てきて、友だちにも会いたくなったので、無料相談屋を再開しました。

ーー学生のころに出会った人たちには会えましたか。

そうですね。再開すると、大学のときの友だちや当時来てくれた人たちがたくさん遊びに来てくれました。仕事の相談も聞いてくれて、話しているうちに「会社で居場所を感じられていなくても、社外でこうして居場所を確かめられたら大丈夫だな。また頑張れそうだな」と思えてきました。改めてまた「場をもつ」ことを、社会人になっても続けていきたいと感じましたね。

ーーその後、数年後に退社されるわけですね。

無料相談屋を再開し、社会人1年目の終わりくらいには、「成果を出さなきゃ」という意固地さが取れたようで、結果的に仕事で成果が出せるようになりました。社内で評価をしてもらえることが増えて、大きな仕事ができる部署にも異動させてもらえました。

社会人3年目にはクライアントと組織や事業についてフラットに語れるようになり、「自分で事業をできるかもしれない」、「自分もチャレンジしたい」という考えに変わっていきました。そこで無料相談屋からステップアップした「営み」を複業で始めたいなと思いました。

カウンターにはお酒がずらりとならびます。嶋田さんがつくってくれたお酒。開店早々から店内は和気藹々。
ソーシャルバーPORTO 日本橋店 東京都中央区日本橋蛎殻町1丁目21−6 コアキナイビル 2F

挑戦に必要なのは「安心」

 ーー新しいことを始めるために、どんな準備をしましたか。

一緒に始めた喜屋武(悠生)くんという人がいるのですが、彼はリクルート時代の取引先でした。彼は大学生のときから毎月1回、歌舞伎町のバーで店長をやっていて、そこにぼくが何度か訪れたのがきっかけで、ぼくも月1回お店に立つことになりました。それが楽しくて半年続けていました。

ぼくが勤めていたリクルートはハードワークだけど、月1回なら続けられるという感覚も得られて、「これならいける」という手応えを感じました。それでボーナスを貯めたり、クラウドファウンディングをして、ポルトを始めました。

ーー手応えが自信になったのですね。

ぼくは挑戦に必要なのは、勇気ではなくて「安心」だと思っています。挑戦を自分のものにするためには、安心をどう積み上げていくのかが重要です。

そして安心を得るためには、体験が大事だと思っていて。ぼくは無料相談屋や月1店長をやっていたこともあって、お客さんが常連さんになってくれるような関係性をつくることができる。そういう関係性づくりが自分にできるということには、体験を根拠にした自信があったのだと思います。

ーーお金の面はいかがでしたか。

実を言うと、お金の面はスタート時は結構どんぶり勘定で(笑)。開業2カ月くらいのタイミングで、会計コンサルをしている後輩が遊びにきたときに、お金のことを心配してくれて、「ちょっと会計をみますね」という感じでみてもらったら、3カ月間赤字だったことがわかりました。それで、初めは店長が15人いましたが、営業日数を増やしたり、店長募集を工夫したり。いろいろ考えながらやれることを実装していきました。

現在のポルトの店長たち。まだまだたくさんいます。


ーーでも5年も続けられていてすごいです。現在はどのようなシステムで運営されているのでしょうか。

例えば「毎月第3日曜日は○○さんのバー」という感じで、曜日と週を固定して、月に1回お店に立つ店長が40人くらいいます。別の日の店長が遊びにきてくれることもあるし、店長がハブとなって、みんなが緩やかにつながっています。

ーー店長はどんな人を募集しているのでしょうか。スカウトもされますか。

そうですね。基本はぼくが「会いたい人」です(笑)。毎月、そのお店に行きたいと思えるかどうか。チャーミングな人たちが多いです。

3周年を迎えたときに「ポルトらしさは何か、すなわちポルト店長らしさは何か」を考えるワークショップを開きました。そのときに出てきた答えは、同質だから安心できるということもあるけれど、ポルトには多様だから安心できるという心理的安全性があり、それがあるのは珍しいことかもしれない、という話が出ました。ポルトにはそれぞれがもつ自分らしさを躊躇なく発揮できたり、自分らしさを「場」に出せる安心感があるよねという話になりました。

スパイシーで超絶美味な「PORTO CURRY」。ポークビンダルーがベースになっていて開発したのはPORTO料理長の宇田川さん。3食入りでお土産もOK。 

まずは「スナック」で実験してみて

ーーTHE CAMPUS FLATS TOGOSHIにもStudio07「スナック」という1日単位でオリジナル屋号のお店が開店できるキッチンがあります。他にもラウンジやクッキングスタジオなど、さまざまな場が用意されていますが、どのように活用するのがいいと思いますか?

ぼくたちもTHE CAMPUS FLATS TOGOSHIと同じようにコアキナイをアウトプットする場として、地下のガレージスペースを運営しています。

運営していて思うのは、何かを1回やってみることはできても、継続していくのは難しいということ。何かを続けるためには、商いっぽくしてみたり、プロジェクトから事業っぽくしてみることが大切です。そうやって少しずつ事業も、体制もいい感じにしていくのがいいと思います。

ぼくはそういうお手伝いをすることにすごく興味があります。例えばStudio07「スナック」で1日バー店長をするとき、はじめはドキドキしながらトライしている姿は、すごく尊いです。そんな場に立ち会えたらいいなと思います。

ーーStudio07「スナック」を使ってどんなことができるでしょう。

ポルトは、お酒を出すだけではなく、DJを試したり、食のワークショップをしたり、手相をみる人がいたり、実験の場にもなっています。スナックも、そんなふうにいろいろな使い方を気軽に実験できる場になるといいですね。また、挑戦に必要な安心を担保できるような関係性を、スナックでつくっていけたらいいなと思いますね。

イチからスタートするなら、一緒に何か飲みながら、話しながらがいいですよね。どんなことをしようか迷っている人がいたら、Studio07「スナック」で一度、気軽にお店を開いてみたらいいのではないかなと。何かを始めるときにこういう場があるのは本当にありがたいですよね。挑戦に必要なお店を借りるには大変ですし。

取材をしていると、この日の店長さんが到着。上階のシェアハウスの入居者も遊びにきました。

最初の共犯者をつくる

ーーポルトの上階はシェアハウスにもなっていて、暮らしと仕事が密接に関わっていますよね。

コアキナイをつくるためのゼミをやっていて、そのゼミの卒業生たちがお互いに育みあっていくコミュニティがあります。そのコミュニティの拠点としてビルの3階から上をシェアハウスにしています。そこでは、例えば料理をふるまうことなどの自分とつながった営みを、プロジェクトとして暮らしのなかで試してみたりしながら、信頼できる関係性の中で育てています。

ーー暮らしをともにすることで、より深い関係性になり、そこからプロジェクトが生み出されていくのは素敵ですね。

何かに挑戦するときに最初にハードルになるのは共犯者づくりというか、プロジェクトを一緒に進めていく仲間や、最初に受け取ってフィードバックしてくれるお客さんと出会うことだと思います。シェアハウスのなかに、最初に“受け取ってくれる人”がいるから、続けるモチベーションが湧くし、受け取ってもらえる安心感があるから差し出せる。一緒に暮らすことで深い関係性を育める機能が、プロトタイプする場とつながることには大きなポテンシャルがあると思います。

店内はすべてDIY。換気扇や棚も自分たちでつくったのだそう。

ーー最後にこれから挑戦したい人にアドバイスをお願いします。

ポルトではうまくいっていることが、必ずしも再現できるわけではありません。場に集まる人が変われば、場の性格も変わります。THE CAMPUS FLATS TOGOSHIという場の性格に合わせて地道に文化をつくり、関係性をつくることが大切です。この世に同じ人はいないわけですから、育てていくのも面白い。ぼくはいま子育て中ですが、子育てに似ているなと思います。

そして、「10」の勇気があればできる挑戦を前に、「8」しか勇気がなくて足踏みをする時には、足りない「2」を安心で補えば良い。そのためには「2」の安心を、体験を通してつくっていくことが大切です。そこで得られた安心をもとに挑戦をしていく。THE CAMPUS FLATS TOGOSHIは、戦略的に安心を得るための体験を積むことを考えられる場だと思います。

ーーTHE CAMPUS FLATS TOGOSHIには、まさに体験を積む場がありますので、ぜひトライしてほしいですね。ありがとうございました!

(取材・文:野口理恵/写真:太田太朗)

THE CAMPUS FLATS TOGOSHI インスタグラム
https://www.instagram.com/the_campus_flats/

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