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第二章Tears of The Baddest Man on the Planet.

やがて時は経ち、剣の舞・剣道の型・剣と手の突きをする、古川政成の姿があった

場所は、東京 ホテル ニューオータニ
1泊・40万  ・ スイートルーム

世界チャンプのボディーガードとして、米国シカゴマフィアの代表として来日した、Mr. Elijah


彼から『剣道を観るか?』と、耳打ちされたマイク・タイソンが『観てみたい』と返答し、
顔面にアイ・ライナーの刺青を入れた日本のヤクザは静かに気合込めて舞った。

孤独で培った剣の舞を目の当たりにした
マイク・タイソンは痺れ
文字通り一目惚れしたのであった
その時、日本人でたった一人のマイク・タイソンのボディーガードが誕生した。

しかし、その剣の舞には人を刺したり、片目を失明させた悲しい過去があった
マイク・タイソンが見惚れた剣の突きに何を感じたのか?
そして、Mr. Elijah は悲しき過去を感じ取れていてのだろうか?

一八歳、鑑別所帰りながら4回目の高校生に成ったのも束の間、退学に成り果てた不良少年は、従兄弟の兄ちゃんの
田之上義政とその友人達に連れられて、夜の街に飲みに行くようになった。

場所は日当山温泉街の場末、バー高千穂
マスターはヤクザの顔役で実姉がママであった
ママの夫は戦死した、韓国人 だったという話を聞いた。

場末のバーとはいえ、若い子が7名働いていた
その中に、源氏名 マヤ という二十歳の可愛いホステスが居て、通う度にいつも隣に座ってくれた
マヤ は鹿児島出身でどうもマスターの2号になっているみたいな話も聞いた
祖母に育てられた薄幸な女で、両親は韓国人なのだという話を聞いて
『俺の父も韓国人なんだ。その事を父に聞いた事も無いけど』 と、話して急に親しみが湧いて来た。

4回目だったかバーに行った時、マヤが『北海道に行きたい』と言った。
『北海道、そんなに遠い所に何しに行くんだ? 親が北海道に居る事が分かったのか?』

『いや、そんな事じゃなくて。もう世の中が嫌になったの。死にたの。
死ぬ時、凍死するのが綺麗に見えるらしいと聞いたから、北海道に行って死にたいの』

『そうか。 本当に死にたいのなら俺が北海道に連れていってやろうか』

愚れて世の中を拗ねて見ているからこの様な言葉が飛び出したのだろうか。
    『本当に・・・』   『あぁ、そうたい・・・』
翌日、家のミカン倉庫に行った
そこに父の財布入りのバックを置いてあるのを知っていた
他人の物に手を出した事のない少年が父のバックを無断で開いてみた。

中にはお札がびっしり詰まっていた。 その中から、20万円を盗んだ
心の中で『父ちゃん許してくんない。もう二度と帰って来ないから。それで許してくんない』

その足で、従兄弟の義政ちゃんに頼みに行った

『マヤと北海道に行くから鹿児島市まで送ってくんない?』

『北海道に行くお金はどうするんか?』

『父の金を盗んで来た。もう、後戻りは出来ない』

『そうか。 そんなら、マヤがどんな考えか、とにかくマヤに会いに行ってみようか』

マヤは、意を決したように『車があれば福岡の大牟田市に従姉妹が働いているの、
北海道に行ったら二度と会えないので、祖母の事も頼みたいから車で大牟田に連れて行って』

いよいよ断りきれなくなった兄ちゃんは、『それなら取り敢えずその従姉妹の所まで行ってみよう』
福岡までのドライブの途中、段々と考えが変化したであろうマヤは従姉妹に会いに行って2人で車に戻ってきた
『従姉妹もここから逃げたいというので着のみで一旦、鹿児島に帰ろう。私もやり直してみようと思うので
そしたら服とかも必要になるからやっぱり鹿児島に連れて帰って』

鹿児島に着くとマヤの友達のアパートに寄った。その友達に俺を3日だけ預かってくれと話した
3日の間に従姉妹と祖母と3人で服を取りに日当山に行って来るからここで待っててねと言うので
『待つのは良いけど本当に帰ってこれるのか? 俺も近くまで行くよ』
『いいや貴方はここで待っていて、3日したら必ず帰って来るからお金も全部マヤに預けて、
お金を持っていたら気が変わって1人で何処かに行ってしまったら嫌だからマヤが持ってる』

そして2日目の夜、マヤの友達は夜の天文館で働いていてその日は酔って帰ってきた。
『あんたね、何日待っていてもマヤは帰って来ないと思うよ。あんたは騙されたんだよ
もうマヤの事なんか忘れてこっちの布団に入って来ないね』
『とにかく3日待ってみます』

3日目の夜もマヤは帰って来ず。 4日目の朝、その友達に情けない事にバス代千円を借りて日当山に向かった

途中、加治木町を通る時、一杯飲み屋のマスター提ちゃんを兄さんみたく慕っていたので
思い詰めた気持ちを話す為にバスを降りた』
『名前は言えないけれど20万円持って行ったまま帰って来ない。
今頃はマスター達に監禁されていると思う。取り返しに行きたいので日本刀を貸してくれないな』
少年の真剣な話を聞いて感じるところがあったのか
『どうしてもと言うなら俺の兄貴分が浜の市に居るのよ。日本刀持ってるから一緒に行ってみるか?』
浜の市と言うから一瞬イヤな思いが頭の中をよぎった
と、言うのもバーのある日当山も浜の市も同じ隼人町(現・霧島市)にあったからだ

その兄貴分は眉に刺青を入れた元、神戸で遊んでいたヤクザ者であった
『兄貴、これが日本刀貸してくれと言うのよ。これのことは加治木の学生の頃から可愛がってるけど
剣道も2段だし、やると言ったら一歩も引かない男なんよ。やると言い出したら必ずやる男なんよ。
日本刀を貸してやってくれないな』
『日本刀でやると言って、相手は誰なんよ? 相手も分からなくて簡単に日本刀なんか貸せないよ
おい、兄ちゃん相手は誰な?』
『名前は言えません何も聞かず日本刀を貸してもらえんじゃろうか』
『提一が連れて来てそこまで頼むから貸さない訳じゃない相手の名前を言えば貸してやるから誰な』
『名前を言ったら本当に貸してくれますか?』
『おぉ、貸してやる』
『わかりました。バー高千穂のマスターを殺ろうと思っています』
『何?高千穂のマスターは俺の兄弟分じゃないか』
しまったと思ったが、その時はもう遅い。  名前を言ってしまったあとじゃないか
よりによって相手の兄弟分の所に頼みに来てしまったのだ
じーっとお互いの目を見つめていた。
『よし俺も男だ。 名前を言ったら貸してやると言ったのだから貸してやろう日本刀はそこにあるから持っていけ
しかしな相手が俺の兄弟分であれば黙って貸す訳にはいかない。  俺を傷つけてから行ってくれ』
『わかりました。 今日はすみませんでした。 一晩良く考えてみます。 一旦家に帰らせて下さい』
お願い事にしかも兄さんの紹介によって一緒に連れて来ているのになんで兄貴分を傷つける事が出来ようか
一晩考えてみますはその場の方便であってこうなったら二度と帰らないと決めていた
家の箪笥の中に隠してある手造りのドスに頼る以外に無いと思った
そして、大丈夫か? と気遣ってくれる提一兄さんと別れて福山町行きのバスに乗ったのであった

家に着いた時は夕方になっていた。 どんな顔をして両親に何も言えるはずもなく思い詰めている身にすれば
突き進む以外に方法は考えられないのであった
自分の部屋に入りサラシを巻き締めドスをサラシに差し込み革のジャンバーを着込んだ
そして電話で『板元んとこの息子たい、タクシーを1台頼む』
父はじっとその様子を見つめていたが不思議に何一つ言わず黙っていた
そんな父と目も合わさずタクシーに乗った
『運転手さん日当山温泉のバー高千穂の裏に農家が一軒あるのだけれどそこに行ってくれない』
あとは運転手に話しかけられても返事しないで流れゆく外の景色を見つめていた
バー高千穂の裏に着いた。 マスターのツートンカラーの車が1台止まっていた。
『運転手さん用事はすぐ済むから車をUターンして5分位待っててくれんない』
ところが車はUターンして待ちもせずお金も受け取らずに逃げ去るように走って行った
異様な空気を感じて帰って行ったのであろうか
その農家の牛小屋の2階が下宿しているマヤの部屋であった
軋む板の梯子をそろりと昇って行った。 あと1段か2段で昇り切るところで部屋の中から
マヤの笑い声と男達の大きな笑い声が一緒になって聞こえて来た
監禁させているとは違う。 一瞬で分かった
そしたら不思議なことに張り詰めていた気持ちが緩み膝がガクガクと震えて止まらなくなった
どうにかしなくては、計算が違った以上考え直す時間が必要である
ガクガク震える膝で軋む梯子を降りた。 そしてタクシーの走り去った方に歩るいた

神々の住むと言われる霧島連山から流れ来る天降川のほとりに出た
温泉街から流れてくる湿気の立つ川をしばらく見つめていた
このまま黙って帰れるものか、男が廃る
こうなったらマスターに恨みはないがマスターを殺る
自分にやれると言い聞かせ夜のバーが明かりを灯す頃、バー高千穂に向かった

中に入らずドアを開けたままで『マスターを呼んでくれ』と言い入り口のドアの前でまった
マスターが『何か用か?』 と出てきた。 その時右手にはドスが光っていた
マスターがその場に凍りついたみたいに動かなくなった
『おい、俺を馬鹿にすんなよ』
ドスをマスターの腹に突き刺した。
ドスは僅かしか刺さらず、更に刺そうと引き抜いた時
『助けてくれ、許してくれ』と、悲鳴を上げその場に腰が抜けたのか座り込んで命乞いをしていた
それを見つめていたらそれ以上やる気も起こらず天降川のほとりに戻って川の流れを暫く見つめておった。

もう二度と帰らないからそれで許してくんないと心の中で詫びながら
大金を家の倉庫から持ち去って飛び出した少年は僅か5日で無一文になり皮のジャンバーの内に血で濡れたドスを入れ
お金の代わりにフラフラの姿で仕方なしに家の門を入った。
すでにタクシーの運転手から様子が変であった事を聞いて知っていた父は、息子の姿を見るなり
『帰ってきてくれて良かった』と、迎え入れてくれた
何がったのか話せばいいのに『騙された暫く他所に行きたい』とだけ話すと『分かった。明日姉のところに行け』
姉は名古屋に住んでいて二十四歳で既に結婚をしていて一間のアパートに一人前になったばかりの大工の義兄と生活していた
姉は大工の息子さんが経営する喫茶店で働いていた
ある夕方、狭い台所で姉は俺と立ち話しをしながらパッパと服の着替えをした
その事で義兄が姉を詰り、そんな会話に反応する不良少年は仕事もつまらなかった上につまらぬ会話を聞かされて
壁に掛けてあった皮のジャンバーの内ポケットに忍ばせていたドスを取り出しテーブルの上にドンと突き刺し
『おい、俺を馬鹿にするなよ。もう俺は出て行く』と、俺がいない方が良いと判断して又、鹿児島に舞い戻り
今度こそ国分市(現・霧島市)の街のチンピラとして夜を彷徨う様になった

マスターは腰が抜けた姿を見られた事の恥を最優先したのか腹の傷も大した事も無かったのか、不思議と何の仕返しも無かった
その弟分に当たる幸ちゃんなんかは悦ちゃん、悦ちゃんと呼んで
『何かあったら俺の名前出せよ』とまで言って可愛がってくれた
もしかしたら兄貴分だと言ってたマーちゃんが意見でもしてくれたのかも知れなかった

そんなある日、チンピラ友達の一人が顔面赤く腫れた姿でバッタリと出会った
スナックで飲みながら仕返しの話をしていたその友達は既にヤクザになっていた
そのスナックに運悪く都会のヤクザが明日、隣町の事務所開きに出席する為に帰って来たのだと踏ん反り返って話すのを聞いて
その事務所とは仕返しの相手方である事を知り酒に酔った勢いというものは恐ろしいもので
『おい悦ちゃん、明日事務所開きが出来ない様にしてやろうよ』と言った
『どうすんない』と聞くと、『スナックを出よう』と言うので付き合う事に決めた。

砕石場で働く先輩が居るから、そこでダイナマイトを貰って事務所開きが出来ない様に爆破しよう。と、言うから牛根境まで一緒に行った
牛根境といえば、奇しくもそれから十五年後に悦夫の親分になる方の出身地でもあったのである。
砕石場に連れて行かれ電気雷管を導火線に替えてくれた1本のダイナマイトを持って隣町に行き
事務所開きの組と反目の知り合いの家に行きダイナマイトをこれ見よがしに見せびらかしながらその事務所の場所を教えてもらった

もうこうなったら後戻りは出来ないぞと心配しながら車の運転席で見守っていたが、いざ事務所の前に行ったら
もう深夜の2時というのに中は煌々と灯りのともっておった
入り口のシャッターが下から1メートル位の所で止めてあった
辺りを1周して様子を見て事務所の前に戻って来たところでその友達は
『悦ちゃんどうするか、もう辞めて帰ろうか』
人にダイナマイトまで見せてやると言ったのだからやらないと男が廃るやろうと、言わざるをえなかった
俺がライターで火をつけた。導火線の長さは三〇センチ、車のエンジンを掛けたままギアをセカンドにぶち込み
火が勢いよくシュシュシュと燃え出した。導火線の半分まで燃えた所で助手席の窓からシャッター目掛けて投げつけた
アクセルを思いっきり踏み込んで車を五〇メートル位走らせた辺りでドッカーンっと大きな音と共に車が揺れた後に
振り向くとシャッターが吹き飛ぶのが見えた。あとは夢中で霧島連山の山道の裏道を走って戻って行った
不思議なもので帰り道は2人共無言だった。
殴られた腹いせとはいえ、スナックで会った都会のヤクザが生意気に聞こえよがしに言った言葉に反発しただけの
酔った勢いとは恐れ知らずのまさにチンピラ時代のなせる技だったのだが
そして間も無く、チンピラ時代も終わりを告げる些細な事件が起きた

あと1人のチンピラ仲間が酒の上から6人位の相手から踏んだり蹴ったり殴られたとの事だった
さあ、仕返しだ。相手は? と聞くとなんと俺の住む福山町に来ているトンネル工事の荒くれ男どもだった
俺達3人、俺は長ドスを新聞紙に包んで片手に。 相手方の親玉が頭を下げてとにかく話し合いをしましょうと
俺ら側の話し役は喧嘩していない1人に任せて俺は立会人だ。
話はケジメとしてのお金の方に進んで20万円請求。 相手側の親玉はそばにいる俺の方をチラチラ見ながら
『わかりました、一週間後に払います。 それで勘弁して下さい』
そしてそのあしで警察署に相談に行った訳だ。
そんな事は露知らぬ俺達3人は、知らぬ狸の皮算用。 その20万円で悦ちゃんと親の生まれた韓国に遊びに行こうか、などど、1週間を待った
20万円といえば今の200万円、大金だ。

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