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オススメシ(1)福岡でがめ煮
全国ツアー「the200」の主な目的は、全国の書店に挨拶して回ることだが、俺は当然、食にも期待する。しかし、前準備なしで美味しいものが食べられるわけもない。だったら、よく知っている人にお勧めしてもらうのがいいのではないか——ということで、ツアーに合わせて企画を立ち上げます。タイトルは「オススメシ」。見ての通りのダジャレです。
さて、ツアー一発目、福岡である。
福岡というと名物だらけ、食のパラダイスであり、多くの食べ物が「全国区」として知られていると言っていいと思う。では、珍しいものは……ということで、角川春樹事務所の担当・Mが、地元九州の作家・愛野史香さんに確認してくれたところ、長大なリストを送っていただいた。
そのリストをつらつら眺めているうちに(大変楽しい作業です)とある店に目が停まった。水炊きの専門店だが、コースの中に「がめ煮」があるではないか。がめ煮って、イコール「筑前煮」だよね? あれって家庭料理で、外で食べるものではないような感じがするが、福岡では一般的に外食で食べるものなのだろうか……。
しかし、本場のがめ煮を食べられるなら、そのチャンスを逃すわけにはいかない。
ということで、ツアー初日の夜、我々は箱崎へ繰り出したのだった。
えらく立派な門構えの店で、門から出入り口まで石畳の上を歩いていく造り——となると妙に緊張するのだが、中に入って一気に緊張が解れた。家族連れが多い、気安い雰囲気だったのだ。ほっとして、コース攻略に取りかかる。
専門店なので、メーンは水炊き。最初からテーブルに鍋がセットされていて、中には既にぶつ切りの鶏肉が入っている。しっかりした鶏の旨みを味わいつつ、濃くかつ上品なスープに感嘆しつつ、野菜のシャキシャキ感も楽しむ——すなわち、本場の水炊きはやはり美味い。合間には、熱々の唐揚げのがっつり感で胃を喜ばせる。
全体にレベルが高いな、と嬉しくなってきた
コース後半、いよいよがめ煮が登場。色は……くすんでいるが、これは我々が知る筑前煮と同じだ。材料も、鶏肉メーンで、あとはごぼう、里芋、レンコンなどお馴染みの根菜類。地味な野菜オールスターズという感じだが、まあ、材料はこんなものだよね。
ごぼうから手をつける。しっかり味はついているが、泥臭さは薄く上品。野菜も鶏もやや甘い味つけなのは、九州の醤油が甘めだからだろうか。焼酎ではなく、甘め、重めの日本酒が合いそうな感じである——酒は一滴も呑まないのに、そんなことを考えさせるのが面白い。
「がめ煮」は、博多の方言「がめくりこむ」(寄せ集めるの意味)が名前の由来とか。他の地域では「筑前煮」とも呼ばれているが、筑前煮は、骨なしの鶏肉も使われるのに対し、がめ煮は骨つきの鶏肉が使われることがあり(*)、がめ煮の方が豪快な感じもある。ただ、両者の関係性についてはよく分からない。
それにしても煮方が丁寧だった。しっかり味がついているのに、野菜がまったく煮崩れていない。どころか、エッジが立ってさえいる。材料別に時間差で煮たのだと思うが、さすが料理屋の上品さでした。
そして今度は、俺も丁寧に筑前煮を作らねば、と反省した。醤油はやっぱり、九州産を使った方がいいんだろうな。刺々しい塩辛さよりも、野菜の甘みを活かす甘口醤油の方が合いそうだ。
*
このお店に同行してくれた、丸善博多店の徳永圭子さんに、福岡のコーヒーについて教えてもらっていた。「ちょっと変わってるから」と。
変わっていると聞くと、行かざるを得ない。変わってるの、大好き。というわけで、この日のランチタイムには、博多駅のすぐ近くにある老舗の喫茶店に繰り出した。
全員、コーヒーを頼む。すると、コーヒーが来る前に、ホイップクリームの入った容器が到着した。これが「変わってるから」の要因らしい。つまり、普通のクリームの代わりにホイップクリームが出てくるのだ。
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ブレンドコーヒーを、まずはブラックで飲む。雑味がなく、すっきりした、いい味わいだ。昔ながらのいい喫茶店のコーヒー。基本はブラック派なので、このまま飲んでしまいたくなるが、せっかくなのでホイップクリームを投入。冷たいクリームは、熱いコーヒーの上でちょっと躊躇った後、さよならも言わずに消えていった。ホイップクリームの加わったコーヒーは、少し濃厚に、少しまろやかになる。
これ、考えてみればウィンナコーヒーである。ウィンナコーヒーの場合、コーヒーにホイップクリームを載せて供されるわけだが、そのホイップクリームが、普通のクリームの代わりについてくるというわけだ。あとでお店の人に話を伺うと、昔はこれが博多流だったという。「ちょっと高級感があるでしょう」(そりゃそうです)というサービスだったのだが、さすがに、ホイップクリームつきで出す店は次第に減ってきたという。手間がかかる割に値段は高くできないわけで、ごもっとも、と思う。
京都では、あらかじめコーヒーに砂糖とミルクを入れて提供する喫茶店があるが、それをふと思い出した。全国の皆様、コーヒーはブラックが当たり前と思っている堂場に、「これは珍しいだろう」というのがあったら、ぜひ教えて下さい。
*
二日目、小倉の書店に挨拶していく中で、地元のパン屋「シロヤ」の話を聞いた。ここの「サニーパン」が名物なのだという。「並びますよ」と説明を受けたが、パンで地元名物というと、やはり要チェックだ。パンはなかなか全国区になりにくく、地元の人だけに愛される存在になっていることも多い。ここでしか食べられない、にも弱いのだ。というわけで、早速行ってみました。
予想以上の行列。回れ右。だってすげえんだよ。写真載せたいぐらいである。
この時点で我々は「オススメシは行列してまで食べない」というルール(ルール1)を作った。この手の企画は、何かしばりがないと詰まらないよね(実際には、直前にうなぎの蒸籠蒸しを食べてお腹がパンパンだったのと、新幹線の時間が迫っていたため、泣く泣く諦めたのでした)。
後でお店のサイトで確認すると、ロールパンのようなパンの中に、練乳がたっぷり入っているのだという。クリームパンのもっと甘いバージョンという感じだろうか。サイトによると「トースターで焼く」のがお勧めとか。中から熱々の練乳が飛び出て口を火傷、まで想像できるのが面白い。
『弾丸メシ』の企画で福島を訪れた時、餃子を大量に食べた後のデザートに楽しんだ「プリンパン」を思い出した。これは、まさに円形のパンにプリンが丸ごと載ったもので、味はパンとプリン、つまりそのままである。いかにも部活帰りの学生が喜びそうな感じ。若い肉体は、カロリーと糖分を求めるよね。
サニーパンは、このプリンパンに匹敵するのではと思ったが、結局未経験のままになってしまった。しかし、次回訪問に楽しみを残したわけで、よしとしよう。
オススメシのルールその2。食べられなくても地団駄踏まずに前向きに考える。大人だからね。
(*)農林水産省ホームページ
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/gameni_gukuoka.html