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絶景×DJ J.A.K.A.M. | 武蔵御嶽神社

8月24日早朝からアーティストのJ.A.K.A.M.さんを迎え、東京都青梅市にある武蔵御嶽神社の滝行の聖地「綾広の滝」で撮影を行いました。
直前の22日~23日に行われた「武蔵國御嶽山おおかみ奉納祭」のご縁で、神社関係者に許可を頂き撮影が実現したものです。

そこで、「武蔵國御嶽山おおかみ奉納祭」の主催者の一人でもある陶芸家の大藪龍二郎さんに、武蔵御嶽神社の由来とおおかみ信仰について、また前日まで行われていた奉納祭の様子についてレポートしてもらいました。

武蔵御嶽神社とおおかみ信仰について

東京都の最西端、御嶽山の山頂(標高929m)に位置し、眼下にはスカイツリーや新宿副都心、遠くは房総半島越しの海までも一望できるまさに「絶景」を味わえる武蔵御嶽神社は、祟神天皇の時代(BC97年~BC30年)に創建されたと伝えられており古くから関東一円の人々より霊山として信仰され続けてきました。

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また神社には「日本武尊(ヤマトタケル)が東征の際、御嶽山から西北に進もうとされた際に深山の邪神が大きな白鹿と化して道を塞いだので尊は山蒜(やまびる=野蒜)で大鹿を退治したがその時、山谷鳴動して雲霧が発生し道に迷われてしまう。そこへ忽然と白い狼が現れ西北へ尊を導いた。尊は白狼に『大口魔神としてこの御嶽山に留まり全ての魔物を退治せよ』と仰られた。。。」と語られる伝説が残っており、武蔵御嶽神社はおおかみを神社の御眷属(ごけんぞく)とし「大口真神」「おおかみさま」「お犬さま」とお呼びしてお祀りしている『おおかみ信仰』の神社としても知られています。

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農家の畑を荒らす害獣を狼が食べてくれるため、神社の発行するお札「おおかみの護符」を盗難除け・魔除け、蔓延したコレラなどの疫病から身を守る疫病除けとして納屋や玄関の軒先に掲げるようになり、江戸時代は天保の頃になると大口真神は広く民衆に親しまれるようになって行きました。

御嶽山には30を超える宿坊があり今も多くの修験者を迎えています。宿坊の主人の多くは神社の神職であり御師(おし・おんし)と呼ばれ、依頼により滝行や祈祷を行う祈祷師で、代々にわたり綾広の瀧や天狗岩など数々の修験場が点在する神奈備の杜を守ってきました。

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左写真) Shinya Ishimatsu  右)大藪龍二郎作陶製「縄文阿吽大口真神像」

おおかみ奉納祭の開催まで

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武蔵國御嶽山「おおかみ奉納祭」を開催するに至ったきっかけは、2019年8月24日。私が製作した陶製「縄文阿吽大口真神像」対二体を御嶽神社参拝殿内大鏡前にご奉納させて頂いたことだった。大口真神像の奉納の儀の際に、橋本薫明御師の笙(しょう)とデビット・ウィラー2世勘輔氏の尺八の奉納演奏を行って頂いた。奏上が始まると天空の拝殿に清らかな風がスッと流れ込み音と共に舞い本殿へと引いていった。

天と地が音楽を介して触れあい喜び合っている様を見つめているような本当に心地の良い感覚は今もまだ私の肌に残っている。
遠くスカイツリー、房総半島、東京湾を望む絶景とそこに流れる気持ちの良い空気を感じた時、様々な美術表現者たちとお山の頂に立ち自分たちの棲む大地を俯瞰から望む。その時おのずと湧き上がる大地への愛と感謝を表現したい!そしてそれらの表現を奉納の儀として「祀る場」を用意できたらと強く思った。

橋本薫明御師に相談したところ御師も長く同じようなことを考えていたと言う。ならばとお願いしたところ快くご理解を頂き一年後の2020年8月22日~23日に「武蔵國御嶽山おおかみ祭」を開催しましょう。となったのだった。この時点ではまさかこのような年になるなど知るよしもなかった。

宇宙と呼ばれる大きな生命体の大切な一部

年が明け2020年。年の初めから少しづつ蔓延し出した新型コロナウィルスの影響でギリギリまで開催か中止かの様子見が続く中、御嶽神社の「おおかみの護符」の御利益の一つ「疫病退散」を今こそ発揮する機会ではないか??との意見から、単なる「お祭り」としてでは無く、大いなる地球とこの宇宙に捧げるご奉納神事として実行委員と奉納出演者のみで「お祀り」として是非とも執り行おうという事となった。開催を結審したのは予定日の一ヶ月前のことだった。主旨はこうである。

武蔵國御嶽山おおかみ奉納祭 開催主旨

我々は、地球という生命体の構成要素の一つに過ぎません。コロナウイルスという存在としてやって来た「地球からの使者」が伝えるメッセージは、人間の存在価値とは何なのかを問いかけています。私たち日本人は縄文時代から近代まで、自然界が作り出す規則性に寄り添い、同調しながら海や山あるいはそこに棲む動物、木や石にいたるまでを大いなる存在として感謝し、祈りを捧げてきました。しかしながら、江戸時代以降の急速な近代化に伴い人間と自然との乖離が進み、それと同調するかのように自然災害や環境問題の深刻化が急加速しています。その動きはまるで地球という生命体が意思を持ち、地球あるいはこの宇宙から我々を振り落とそうと試みているかのように感じてなりません。人類皆一人一人がもう一度、「この宇宙と呼ばれる大きな生命体の大切な一部である」と言う強い自覚と意思を持ち、大いなる宇宙へ愛と感謝をもって祈りを捧げるお祭り(お祀り)。このような事こそが人類にとっていま一番大切な行動ではないかという思いから、「武蔵國御嶽山おおかみ奉納祭」を執り行いたいと思います。

漆黒の杜で舞うおおかみたち

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プロフェッショナルで本気なスタッフ・出演者が続々と集まった。 いわば完全ノーギャラな上に、あご枕(食費・宿泊費)も自腹という条件。にもかかわらず上記の主旨に賛同し自前の機材まで持参して一流のプロスタッフ・アーテストが一人また一人と現れた。それぞれがそれぞれの持ち得る技術と才能を神奈備の深山に御奉納させて頂くのだという熱い思いを感じた。新型コロナの影響で同じスケジュールで開催予定であったフジロックフェスティバルが中止になったことで多くの友人アーティスト達が「おおかみ奉納祭」に参加できる事となったのは、実行委員長の私個人的にはとても幸運でありなんとも不思議な気分であった。

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当日は、快晴とは言えないものの時より雲によって程よく暑さを凌げる好天に恵まれた。本殿前にて演者・スタッフ一同で御奉納の儀を執り行って頂き、続いて地元御岳地区のお囃子連選抜4名による獅子舞の奉納の後、橋本薫明(笙)・浜田武仁(石笛)・ラビラビ・GoRoの奉納演奏に合わせSeiRa・KIKI CAT・Nashaalの3人による奉納の舞が「本殿前奉納演奏」として行われた。奉納の儀が始まるとすぐに雲間から陽が差し風がそよいだ。

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その後、長尾平にて地元有機野菜を使ったプレートディナーを味わいながら眺める東京の夕景とDJ Takulow、DJ Kaz Mashinoのプレイが気分を徐々に上げていった。さらにラビラビのLiveで皆は一体となった。TSUYOSHI SUZUKIとGoRoによるLiveへと続く。注連縄で区切られた結界をくぐり暗闇に浮かぶミラーボウルの銀河を抜ける。幻想的な七色の虹が漆黒の杜で舞うおおかみたちを照らす。SeiRa&KIKI CATによる阿吽のおおかみの舞だ。その先に東京の夜景をバックにTSUYOSHIとGoRoさんが阿吽の呼吸で音を捧げている。ここ長尾平を訪れば誰もが口にする「気持ちいい~!」の聲。皆の表情がそう言っていた。

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                               SeiRa                                       TSUYOSHI SUZUKI

ただ狼を放てばいいんですよ。
私たちは何にもする必要がない。

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天空の奉納演奏に続きトークセッションが行われた。テーマ「太古の聲を聴き共生する力を呼び覚まそう」と題し、事前にオンライン収録した米国イエローストーン国立公園局公認ネイチャーガイドで1995年から現在まで「おおかみ復活プロジェクト」に深く関わったスティーブ・ブラウン氏の話を基に、ただ単に「怖い」「危ない」「わからない」でそれ以上深く考えない思考停止では地球は待ってくれない状況であり、日本の里山がいかに貴重であり森が杜となるためには人間が必要な事、さらにそこには狼(おおかみさま)の協力が必要だと言う事、動物も人間も同列な生き物でありそれぞれの役割を深く担う責任を自覚し行動する必要を確認した。

スティーブさんのお話で、私が最も感嘆したのは「ただ狼を放てばいいんですよ。私たちは何にもする必要がない。日本には狂犬病もありませんからアメリカよりも簡単な事です。」だった。そもそも狼は熊や他の動物と違い事故の数が明らかに少なくその姿を滅多に表さない。更にこれだけ鹿が増えている日本の現状では人を襲うことはほぼ皆無だと言う事だ。明治神宮造園局の「鎮守の杜」プロジェクトの90年以上の知恵とイエローストーンの25年間の実証結果を生かし深く考察すれば今起きている鹿などの獣害はもとより川の氾濫や土砂崩れをも狼と植物たちが防いでくれるはずだ。

人権とは何か?

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トークセッションに続いて「天空の杜の映画鑑賞会」へと移った。狼と同じく現在の日本では完全に思考停止の状態である大麻をテーマにした吉岡敏朗監督のドキュメンタリー作品「麻てらす番外編ーやまさん余命半年の挑戦ー」を上映した。肝臓癌のため余命半年を宣告されたやまさんが抗癌剤の辛さを経て、最後に命を託す治療薬として大麻を育て使用し体調が改善してゆく喜びと幸せを感じていた矢先、逮捕される。命の綱を取り上げられたやまさんの体調は急変、痛みに耐える中、必死の裁判もついにその判決を聞くことも出来ず死に至った。その一部始終が記録されていた。人権とは何か?恐らく観ていた全員の胸に深く刺さったであろう。思考停止の罪は人の命をも奪うという実例であった。

綾広の瀧での奇跡の瞬間

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御嶽神社の境内裏手に広がる修験の修行場には無数のパワースポットが存在する。その一つである天狗岩の頂にてGoRo the Vibrationによる奉納演奏を行った。文字通り天狗の鼻先のように天空へ突き出た大岩。二本の巨木の根がびっしりと絡みつく様は圧巻だ。

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右)画家・装飾家の日下部泰生が制作した絵付け黒染め麻布幟旗

奉納祭のフィナーレはRABIRABIによる綾広の瀧での奉納演奏。ビル4~5階建の高さはある巨石に囲まれる滝壺から見上げる空は、まるで開口されたドーム天井の様。多くの修験者が日々、滝行をする修験場だ。RabiRabiの演奏が瀧の音と絡み合い天へと響き渡った。はじめ曇っていた空が演奏が始まると明るくなり演奏終了間際、一筋の御光が差し込み観衆が一斉に思わず声をあげる。全員が奇跡の様な瞬間に立ち会う素晴らしいフィナーレとなった。

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文/大藪龍二郎・写真/momo yago

大藪龍二郎(やきもの作家・縄文実験考古学者)

大藪さんプロフィール写真-1024x1024

日本の”やきもの”の原点である縄文土器が焼かれた代に使われていた道具・技術やスピリットを探り、得たものを現代の”やきもの”へ再び投影する手法は国内のみならず海外でも広く評価されている。2019年にはコロラド州ボルダー市より縄文造形家の猪風来・村上原野と共に招聘され北米大陸史上初の「縄文の焼き」を行った。


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