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④ ザ・コンサルタント

前回の記事はこちら(会社やめるってよ)

こうして僕は新卒で入社した会社を辞めた。
最終出社日は3月中旬であり、新しい職場は4月からだったので、少し時間ができた。その間、今回のブログの投稿と同じように新卒から社会人4年目までの振り返りの記事を書いたりしていたら、あっという間に入社日を迎えた。

僕の転職先は世間ではプロフェッショナルファームと呼ばれている。

プロフェッショナルファームとは、弁護士事務所・会計事務所・税理士法人・コンサルティング会社など専門的なサービスを提供する組織のことだ。

僕の転職先は、プロフェッショナルファームの中でもM&Aや財務に関連した課題解決に特化した財務コンサルティングファームのようなものであった。


入社当日。
会社は中途採用しか行っておらず、自分以外に同じタイミングで入社した人がグループで研修室に集められた。年齢は20代~30代、前職は金融機関、事業会社、商社、コンサルなどバラバラだった。

正直、僕は彼らに会うまでは自分にそれなりに自信があった。
新卒4年目で国内外のM&Aの経験をしており、前職の他の同期でも経験できない貴重な経験をしていたからだ。

しかし、そんな自信はすぐに消え去った。
彼らも自分と同じような経験をしていたからだ。
結局、自分は井の中の蛙だったのだ。世界は広い。

そんな彼らと数週間の研修を受けた後、所属する部署に配属された。

僕が配属されたのは、主に以下の2つを行うチームであった。
・M&A戦略策定 / 市場調査
企業がM&Aをする時にどういう会社を買収したら良いか
・ビジネスデューデリジェンス
買収を検討する際に買収先の会社の事業について調査

配属と言っても、空いている席に案内されただけだった。
事業会社のように課毎にまとまって座っているというわけではない。
本当にただ空いている席であった。

しかし、席に着くなり、すぐにマネージャーに会議室に呼ばれて、
進行しているプロジェクトの説明をされ、プロジェクトにアサインされ、チームに入れられた。

あまりの急さに戸惑った。

事業会社であれば、慣れるために少しずつ業務を引き継いだり、少しずつ同じ部署の人と関係を築いていく。

しかし、プロフェッショナルファームではそういったものはなく、
すぐにプロジェクトにアサインされて、タスクを割り振られる。
戦場にすぐに出されるような感じである。

そしてパフォーマンスが良くないと、プロジェクトから外されたりすることもある。お客様商売なので、お客様を満足させることができなければ仕方がない。

パフォーマンスのみで評価される上に、パフォーマンスを上げるために上司が面倒を見て丁寧に育ててくれることもない。
なぜなら事業会社のように固定の上司はおらず、プロジェクトによって上司は変わるからだ。プロジェクト毎に最高のパフォーマンスを出せるよう、自分で成長していくしかない。受け身のスタイルでは生き残るのが難しい世界だ。
別に特別なことではなく、どの分野のプロフェッショナルもそうだと思う。

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入社する前にコンサルティングはサービス業であると聞いたことがあった。

コンサルティングはサービス業?

僕のイメージでは、コンサルはホワイトボードを使って、かっこよく経営課題を整理して、経営陣にプレゼンするそういうものであった。

一方で、サービス業というはマッサージや飲食だったりで、
コンサルティングとは全然違うイメージだった。

しかし、入社して仕事に取り掛かると、たしかにコンサルティングはサービス業だった。

もともと、サービス業とはサービスによる効用や効果、または満足感や感動といった「形の無い財」を提供することで対価を得ることを指す。

つまり、サービス業とは「クライアント(客)に満足するものを提供する」ということだ。
シンプルだが、実際にやってみるとなかなか難しい。

まず、コンサルティング会社では”クライアント(客)”は毎回異なる。

メーカー、インフラ、商社、ファンドだったりで、プロジェクトによって毎回異なる。そして、客ごとによって、こだわりポイントが異なる。例えば、○○業界は○○を気にするなど(例:インフラでは安定性など)

さらに同じ業界でも、会社によって気にするポイントが異なったりする。
そのため、毎回クライアントのこだわりポイントを特定する必要がある。 

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続いて、「クライアント(客)に満足するものを提供する」の”満足するもの”というのは何か。

コンサルティング会社がクライアントに提供するものは報告書というである。コンサルタントの”考え”が凝縮された紙(報告書)である。
事業会社のように電子部品、食品、ソフトウェアを提供するわけではない。

では、自分たちが思ったことをただ報告書に書けばよいか。
上記にも記載したように、ただの紙ではダメで、満足させる紙(報告書)が必要がある。

満足させるとはどういう状況か。
それは相手の期待を超えた時である。

これは我々の普段の生活でもそうだ。

例えば、ドーナツを買って、自分の期待以上に美味しかった時に、満足して感動する。逆に自分の期待以下だった場合は二度と買わない。
この場合における期待の基準というは、値段や自分が行列に並んで費やした時間だ。値段が高ければ高いほど味への期待が高まる。

同じように、クライアントがコンサルタントに仕事を依頼する場合も、支払うお金は決して安くないので、報告書への期待値はかなり上がっている。

さらに厄介なのが、報告書というのは紙に記載した”考え”であり、抽象度が高いということだ。

”考え”というのは、物理的には存在しないので、クライアントの期待は無制限に膨らんでいくことになる。
「きっとコンサルタントはとてつもない良い考えを提供してくれるに違いない」と。

クライアントの期待値が無制限に上がっていくと、コンサルタントがどんなに良いレポートを作成しても、期待値を超えない限りはクライアントを満足させることができない。

そこで必要になるのが、期待値コントロールである。
期待値コントロールとはその名の通り、クライアントの期待値をコントロールするということである。

期待値というのは、満足してもらうハードルを下げるために下げたほうが良い。しかし、下げ過ぎると、相手は何も期待しなくなり、そもそもの関係が破綻するので注意が必要である。

なので、期待値を上げさせ過ぎず、下げ過ぎないのが期待値コントロールのコツである。

できるコンサルタントとは期待値コントロールがうまく、
クライアントの期待値がどれくらいかを見抜くのがうまい。

話をまとめると、
コンサルティングにおける良いサービスとは
「毎回異なるクライアントに対して、期待値をコントロールして、満足するものを提供する」だ。

この学びは今の仕事でも活きている。
結局のところ、どのような仕事でも相手の期待値を見て、満足するものを提供することが重要だ。大体、トラブルになるのは期待値を読み誤って、期待値以下のものを提供した時だ。

僕もクライアントの期待値を超えるために夜遅くまで働くこともしばしばあった。

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昼間は情報収集時間で、様々な人にインタビューなどを行い、夕方あたりから資料作成を始める。

チーム内の資料レビュー会は19時 ~ 20時から始まり、そこからああでもない、こうでもないとホワイドボードを使いながら議論し、会議が終わったらそこから資料を修正する。

仕事が終わるころには終電がないのでタクシーで帰る。

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深夜の1時にタクシーに乗って、タクシーの中でラインを開いて、NPO活動のライングループに一つずつ返信をしていく。
そして、家に帰ったら、シャワーを浴びてすぐに寝る。

こういった生活だったので、徹夜の時もあり、会社で寝るために会議室の椅子を何個も並べて寝たこともある。椅子にはローラーがついているので、少し動いただけで、椅子がバラバラになって床に落ちたことも今では良い思い出である。

毎回のプロジェクトの期間は大体2か月 ~ 3か月程度であり、
その期間は集中的にその業界や会社についてインプットし、アウトプットを出す。
終わったら、また次は全く違う業界のプロジェクトに移る。
頭に大量の情報をインプットして、それをまたリセットして、繰り返す。

1年も在籍していると、様々な業界の案件を何件も経験することができる。体力的にハードであるが、耐えることができれば大きく成長ができる環境だと思う。

プロフェッショナルファームでは事業会社と流れている時間が違うと言うが、本当にそうだった。
それは経験の種類の豊富さや働いている時間の長さだと思う。


こうして僕は忙しい日々を過ごしていた。
そんな中、結婚という人生の一大プロジェクトに着手した。


つづく

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