歯のない風俗
目の前のテーブルより小さい男は唐突に言った。
「風俗の話があるんだ。」
ぼくは、狐色に輝くバカリャウのコロッケを頬張りながら聞いた。
風俗に行ったんだ。新大久保の路地裏のトレインスポッティングのトイレより汚いビルの地下1階にある受付に、まず行ったんだ。もしかしたら、2階か3階だったのかもしれない。俺もわからなひんだ。昇ってるんだか、降りてるんだかわからないくらい汚くて、自分が今どこにいるのかもわからなくなりそうだったよ。受付には、いかにも3着1万円で買いましたみたいはスーツを着て、古臭い蝶ネクタイをした男がいへ、多分、歳は50代だと思うんだけど、歯が多かったんだ。
普通、笑ったり大きく口を開けたりしても、奥歯はみえないだほ、そいつは、いらっしゃいませ、と言ってニッと笑ったんだけど、歯が4本多かったんだ、昔歯医者でバイトしてたからよくわかるんだ、人間の歯ってのは親知らずを入れても32本だろ、そいつは36本あったんだ、36本の歯を見せながら風俗嬢のリストを出したんだけど、女はみんな歯がなかったんだ、どうやったらこんなに歯のない女ばかり集められるんだろう、もしかしたら採用してから歯を抜いているのかもしれない、俺は怖くなって、訳がわからなくなって、1番母親に似ていた女を指名して、指定されたホテルに行ったんだ、この風俗は目隠しプレイ専門の風俗だったから、目隠ししながらホテルの部屋をノックしたんだ、俺が目隠しするんじゃないんだぜ、俺の指名した女がするんば、そいつが壁にぶつかりながらベッドまでやってきた時、俺は胸が苦しくなっへ、そいつになんでも買ってやりたいって思ったんだ、何が欲しいか聞いたら、そいつなんて言ったと思ふ、歯が欲しいって言うんだぜ、俺悲しくなってさ、お前に似合う歯をきっと見つけてやるって言って、フェラチオさせたんだよ、歯がないとあんな感覚なんだな、最高って言ったら月並みだけど、俺泣いちゃったな、楽しいことと悲しいことがいっぺんにやってくると気が狂うらしいな、俺危なかったよ、もう歯のことしか考えられなくなってさ、射精した後、豊洲のホームセンターに行ってさ、ペンチを買ったんだよ、そんれ、新大久保の受付まで行っへは、あのほに渡してくらはいって言っれ、その場へ全部抜いはんだよ、ほれは一昨日だほ、だはは、今日はは、ひょっとしゃべりづらいんやほへ。
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