いのちの星屑
第二話 養護施設 一九九一年
なかなか寝つけない蒸し暑い夜、布団の上で天井の木目模様を眺めていた時期があった。木目模様が怪獣の吐く赤い炎に見えてくる。そういった空想遊びに興じていると隣の部屋から母ちゃんの声が聞こえてくる。
「うまなかったら、とっくに、出てんだよ……」
天井にぶら下がっている電球がジージージーと音をたてている。襖のすき間から漏れ出る光に吸い寄せられるように隣の台所を覗きこんでみる。カッコン、カッコン、柱時計の振り子の音。視界に飛び込んでくるのは、ひとり言をいいながら何度も何度もダスターでテーブルを拭いている母ちゃんだった。不吉な電球の明滅と振り子の音に胸がギューッとなってくる。
つづく
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