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パーボイルドライスとは?本場ウエストベンガルの農村で見る聞く食べる

多くのインド人が家で食べているパーボイルドライス

 インドの多くの庶民が実際に食べている主食、パーボイルドライス。特に東部から南部にかけての地域でよく見かける。最近たまに耳にするポンニライスとは南部のタミルナドゥー州の言葉だ。

 インドでは小麦を使ったパン類も多く食べられているが、家庭ではライスしか食べないという地域や人種が大勢いる。実際、首都デリーや西部のラージャスターン州、中南部のテランガーナ州などの米店へ行くと、米大国と言われる日本も顔負けなほどの数え切れない種類の米が並んでいる。

 それらは長粒のバスマティ系統と短粒の一見ジャポニカ種と大別されるが、よく見ると日本の米よりひとまわり大粒の短粒でジャバニカ種(熱帯ジャポニカ種とも)と言われるものだ。これはスペインでもよく見かけた。

多種多様のジャバニカ種米。ウエストベンガル州農村ゴブラの米屋にて。10数種類がパーボイルドライスで、1,2種類がロウライス(生)

 ジャバニカ種についてはまたの機会に掘り下げたい。

 パーボイルドライスとは品種名ではなく加工法である。
「収穫して天日干しした米を脱穀し、いったんボイルしてからまた天日干しした米のこと」とアリムルさん(以降アリやん)が話してくれた。

 彼はインド料理人として来日して10年以上が経つ。出身はインド随一の米産地ウエストベンガル州。実家は州都コルカタからバスで5時間のベンガル湾沿いの静かな農村にあり、代々農家で家業を手伝いながら育ったが、お父様が他界後、跡を継ぐことなく料理人の道に進んだ。5人兄弟のうち2人の姉と一人の妹は嫁に出て、弟は兄の後を追うように現在ドバイで料理人を務めている。

「我が家のルーツはもっと東方から来たと聞いてます。もしかしたら今のバングラデスゥ(バングラデッシュ)かもしれない。この辺りはバンガル人(ベンガル人)が多く住んでいるし」

 全盛期は1ヘクタール以上の田と二反あまりの敷地に野菜とココナッツなどを栽培していたという。役牛も飼っていたという。かつては神事の一つとして、庭の一角で、イスラム教聖職者によって牛を〆、祈り、自分たちが解体し、親戚や近所にも配って料理していたとも話す。

2024年5月現在のアリムルさんの元畑?庭?ほぼジャングル状態。ヘビや猿がうようよいる

 パーボイルド加工法について、ネットを見るとボイルではなく「蒸す」という表現しか見当たらないが、どちらが本当か?

「1メートル以上もある大きな寸胴鍋みたいな形の鍋に、大量の米を投入するので蒸しているようでもあるけどあくまでボイル。企業なんかの大きな工場では蒸す機械があるのだろうけど、少なくともこの辺りは殆どが中小規模の個人農家でみんな自分の家で作るので、このようにボイルします。というか僕はこの方法しか見たことがない」

 パーボイルドライスの最たる特徴は、水分の多い料理と合わせても、粘ることなく長い時間プリッとした歯応えがあることだ。

写真はアリムルさんの奥様ルミちゃんが作ってくれたウエストベンガルで最も人気の魚の一つパンガス(淡水)とトマトのカレー。水分が多めで、大粒のぷりぷり食感の米に旨みが染み込む

「日本の米ほどじゃないけど、実はこの米は本来粘りがあります。それがボイルして天日干しすることでなくなり、長い時間保管ができるようにもなります。インド人の多くがあのネバネバが苦手。日本に住むとあれがおいしいと思うようになるのだけど。あとパーボイルドによって病害、虫、動物避けにもなります。インドは日本のように冷蔵庫で保管というのはまずないから」

 炊き方は家によって様々。炊飯器で炊く家が増えているが、その場合は少しにおいが残ることが多いように感じる。これは籾のにおいに近い。それが嫌で、あえて多めの湯で炊いて最後に湯をこぼすという、いわゆる湯取り式で炊く家も多く見られる。

 ちなみにアリやんの実家では、奥様のルミちゃんが炊飯用鍋を使い絶妙な水加減と蓋(皿)さばきで炊き上げている。炊きあがれば皿を再び載せて、蒸し、しばらくしたらよそう。

足すことも捨てることもない、ルミちゃんの見事な水加減、蓋加減。炊き上げると真っ白に

 いずれにせよ、シンプルにボイルする場合は、蓋をタイミングよく取ったり載せたりしながら、水分やにおいをコントロールしている。パーボイルドライスの最たる特徴は、この米特有の籾のにおいが染み付いていることだ。

 次は実際にパーボイルド加工を見せてもらうことに。僕がお世話になっている農家から、籾摺り機が壊れてほとんどが籾のまま残ってしまった、という規格外(だけどオーガニック)の米を頂いたのだ。

収獲中の農夫。ウエストベンガル州ベンガル湾まで約3キロの田


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