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おいしいありか #2 自家栽培野菜を激しく麻辣味に

#2 自家栽培野菜を激しく麻辣味に

苦手な味

誰もが苦手な味というものがありますね。当の僕は子供のころから好き嫌いが少ない子と言われてましたけど、それでもやっぱり苦手なものがわずかにありました。

そのひとつが麻辣味です。中国の味の組合せで、麻は山椒のシビレ、辣は唐辛子の辛み、のこと。

むろん、麻辣味を子供の頃から食べていたわけではなく、そもそも今でいう麻辣味は昔はおそらく存在していなかったと思います。少なくとも日本では。

麻婆豆腐が代表されるそれですが、日本にあるそれは麻辣味はゼロじゃないけどほとんどなかったんじゃないかな。

16歳から裏町の大衆中華で働いてきた身ですが、そこに豆板醤(唐辛子と豆味噌の発酵調味料)やホワジャオ(花椒)といって同じ山椒でも破裂した果実の果皮のみの粉を入れると言っても、ほのかに香る程度、そこそこ辛みが利いている程度です。今時の真っ赤っか&どっさりぶっかけただけの単なる花椒盛りでは決してない。

その今時の麻婆豆腐が僕にはなかなかキビシイものがあります。年々、道路交通や格闘技のみならず、味の世界も極端化・単調化しているだけではっきり言って退化としか思えないのは僕が頑固おじさんになったのか?と思うくらい。

ですが、自分お好みや主観は横に置いておき、客観という目でもって食の世界を取材し続けてきた僕であっても、やはり迷信というか思い込みというものがあるということをついこの間久しぶりに気付かされることがあったのでその話をしたいと思います。


それがマーラージャ~ン

麻辣醤と書いてマーラージャン。こんな過激なだけのシビレと辛みの何がおいしいのか!まったく味もうまみもわかんねー!と憤慨していたのですが、ある日、犬友(近くの公園に集まるペット仲間のお一人)のチョコママ(チョコという名の犬を飼っている奥さんのこと)が「ちょっと私の家まできて」というのでドキドキしながらついて行くと「ちょっと待ってて」となって、うわ~朝からたまんね~と思って待っていたら「はい、これ」といって袋を手渡されたのです。

「これ、私が中国へ留学していた時の中国の友人から送ってもらったんです。カワムラさんがスパイス料理研究家やってるから興味持つかなと思って。最近の中国の若者は手料理するけど、こういう少しインスタントなものもよく使うようで」

トマト火鍋味のペースト

袋の中を見るとレトルトパック状態のペースト2種と、向こうで最もポピュラーなメーカー製の五香粉、十三香、ほか桂枝やビャクシ、山奈などスパイスパーツがわんさかとはいっていました。

粗つぶし唐辛子がわんさか。本場の麻辣味の素。

彼女は中国内陸部の西安に留学していたそうです。「青海(チンハイ)や成都と隣接しているところで、チベットやモンゴル、四川の文化が色濃く入り込んでいる地域」なのだとか。

そこの若者の間で今主流なのがこの「トマト火鍋ペースト」と「麻辣ペースト」。両方ともいわゆるレディトゥイートというやつで、日本のように温めるだけで即食べられるというよりも、調理途中の即席味付けという感覚です。海外のインスタントはこのタイプが殆どですね。

裏の説明書きをチョコママが全部訳してくれて使い方は理解。ちょうどその頃、夏野菜がたくさん収穫できたので、さっそくためしてみたわけです。


マイタケと夏野菜の麻辣炒め。激しくシビカラだがほいほいと箸が進む。


激しさと素朴さと


恐る恐る食べてみると、これが思った通り、ただひたすら辛く、麻辣ペーストにおいてはぶるんぶるんシビレてしょうがない。

トマト火鍋についてはアミノ酸と香料が強く、それ以上も以下もない味わいでしたが、麻辣ペーストがなんだかいいかもって思えてくるのでした。

二口目でなんとなくナスのような甘酸っぱい香りがしてきたのです。そう、トウガラシの香り。唐辛子はナス科ゆえ、ものにもよるけどその多くは完熟期になるとナスを凝縮したような香りが圃場一面に漂います。

そして三口目で今度はシビレの奥から山椒の爽やかな香りがふわふわと。なんだなんだ、こいつらちゃんと素材の風味が生き残っているじゃないのってね。

意外にも、というと失礼ですが、産地が近いからなのか、それとも素材の品質が日本に来ているものと違うからなのか、とにかく質感がちゃんとあるのです。

こうなってくると、もっとモードに入っていく。あの甘い香りをもう一度。あの香りをもう少し。

自家栽培野菜がおいしかったことも功を奏したと思います。肉厚で弾力があって、ありふれた言葉ですがオーガニックは本当に甘い。この野菜の甘みと麻辣ペーストの激しいスパイス+質感、がたまらなくフルオーケストラとなっていったのでした。

おお、なんて賑やかで楽しい味なのだ!

最後はカミさん共々汗をかきながらも目をひん剥いての完食。ちょっとした中距離を走り切った後のような爽快感と満足感がありました。

あれほど苦手と信じていた麻辣味。この歳に来ていきなり反転です。以来、大阪ミナミの中国輸入食料品店へ行って中国人スタッフにあれこれ相談している自分がいる。

ただその店にはチョコママからいただいたものと同じ製品はなく、でも同じ四川省産の麻辣醤を勧められほいほいと購入。今ではこれがすっかり我が家のレギュラー調味料となっています。

思い込みで味を決めつけてはもったいない。食ライターとなって30年。悟ったつもりでいましたが、まだまだやなぁ。

自家栽培オーガニック冬キャベツと豚コマ切れ肉の麻辣炒め

「キャベツと豚肉の麻辣炒め」を作ってみました。レシピはこちらに掲載しています。ご参考に。

●カワムラケンジのインスタ kenji_spice(応援よろしくおねがいします!)

#1 キュウリがおばけになるまで


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