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これからのタイBLの世界戦略を深読みする

*私はエンタメ業界の人間でもなく、タイドラマのオタク歴も浅いです。事実誤認や間違いがあれば訂正したいので、ご指摘ください。(noteのコメント、もしくはTwitterのDMにお願いします。)

私はこの春からGMMTVのドラマを中心にタイのBLドラマを複数視聴しています。他社については詳しくないため扱いません。このnoteでは、タイBLをめぐる現状を整理しつつ、GMMTVの世界戦略を考えてみたいと思います。

断片的な情報からのオタク特有の深読みですので、大幅に間違っている可能性があることをご了承ください。

『Still2gether』の日本ジオブロック

GMMTVのヒット作『2gether』の続編である『Still2gether』の初回放送後、制作会社/事務所であるGMMTVの公式Twitterアカウントは世界各地でのトレンド入りを祝福する投稿を行い、その画像の中には「Japan」の文字もありました。

しかし、日本ではこの作品はジオブロックされており、通常の方法では視聴できなかったはずです。したがって、日本でのトレンド入りの要因として、 

①放送前の期待の声
②ジオブロックに落胆(または歓迎)する声
③VPNなどの手段で視聴した人の感想

が含まれたツイートがなされたことが考えられます。

しかし想像するに、この時すでにGMMTVは『Still2gether』の版権を日本企業に売っていました。だとすれば、一方では日本企業から収入を得て、他方ではVPNを経由した日本からの視聴(③)を言祝いでいるということになります。

もちろん単にSNS担当者のミスとか「全然何も考えていない」という可能性も大いにあります。
また実際に日本でトレンド入りしていたのは事実であるため、載せなかったとしたらそのことに対して批判があったかもしれません。あるいは放送前の事前期待(①)の高さに対して、喜びを表現しているということもあり得ます。

しかし、ジオブロックしておきながら、VPNを経由した視聴を無邪気に喜んでいるとしたら、日本企業に誠実な対応とは言えず、その方針に疑念を抱かずにいられません。また、もしジオブロックに落胆する反応(②)が多数あると知らずに喜んでいるとしたら、非常に皮肉な事態だと感じます。

ただの考えすぎ・深読みしすぎかもしれません。しかしこのツイートを契機に、私にはGMMTVの戦略への疑問が生まれてしまいました。
とても魅力的なコンテンツを産出・俳優を輩出する素敵な企業ですし、コンテンツのクオリティを信頼しています。でも今は、彼らに今後の方針を問いただしたい気持ちでいっぱいです……。

果たしてGMMTVは、BLを含む自社コンテンツをどう展開していく方針なのでしょうか。

VLIVE+での有料配信イベント

世界戦略を考えるうえでヒントになりそうなのが、VLIVE+で開催された有料オンラインイベント(ファンミーティング・ライブ)です。
5月から6月にかけて4度開催されたその名も "Global LIve Fan Meeting" では、アーカイブ時に日本語字幕つきで配信されました。また8月末の同様のイベント"Sotus The Reunion 4ever More"では、日本語通訳が同席していました。

このように最近では「日本企業を経由せず、制作会社側が直接日本市場向けにコンテンツを展開する」兆しが見えつつあるように思われます。
コロナ禍における対面のファンミーティング開催の代替手段という側面もあるのでしょうが、全世界への配信ライブという方式は、今後も有力な外貨獲得手段であり続けるでしょう。

ただし、日本語字幕・通訳などを付ける動きは、日本でのタイドラマ旋風を受けての一時的なものであるとも考えられます。

9月放送『I'm Tee, Me Too』『My Gear And Your Gown』の2作品

次に、ファン向けのイベントではなく、ドラマの場合を考えてみます。
9月18日から放送予定でGMMTVの3大人気CPが出演することで日本でも話題となっている『I'm Tee, Me Too』(非BL作品)はタイの大手携帯電話キャリアサービスが提供する動画・音楽ストリーミングアプリAISPLAY」とGMM25(タイ国内のTV放送)のみで公開とアナウンスされています。

AISPLAYはアカウント登録にタイ国内の電話番号が必要、かつアプリは日本の公式ストアからダウンロードできません。

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独占配信と銘打たれていたことから、YouTubeにアーカイブが残るかどうかは疑問視されています。

ちなみに、このドラマも後述する『Still2gether』同様にフィリピンで展開される予定です。ABS-CBNが提供するアプリiWantTFCでは、フィリピン国内視聴者向けにフィリピン語(タガログ語)吹き替え版のタイとの同時配信、その1時間後に英語字幕版の配信が予定されています

★2020/9/20追記
iWantにて吹き替え版・英語字幕版の配信を確認。またGMMTVのYouTubeアカウントにも英字幕付きで第一話が投稿・プレミア公開され、視聴者字幕機能も開放されています。なお理由は不明ですがジオブロックされており、日本からはVPNなしでの視聴は不可能です。第二話以降もYouTubeにアップロードされるかは不明です。


同様に、9月14日から放送予定の『My Gear And Your Gown』も、中国のIT企業テンセントが運営する「WeTV」のみで配信されるとアナウンスされています。(テンセントが運営する別のサービスでも配信するらしい)

WeTVはAISPLAYとは異なり、日本からアプリのインストール・登録が可能です。また、WeTVのフィリピン向けTwitterアカウントの投稿から推測するに、英語字幕版の配信はあると考えられます。
しかしこちらも『I'mTee~』同様、YouTubeのアーカイブの有無は不明です。

★2020/9/15追記
WeTV版にて英/繁/簡の字幕を確認、またGMMTVのYouTubeアカウントにも第一話が投稿され、その後すぐに(公式の?)英語字幕が付けられました。視聴者字幕機能も開放されています。第二話以降もYouTubeにアップロードされるかは不明です。


加速しつつある「独占配信」の動き

このように最近になってGMMTVは、従来とは異なるプラットフォームを選択する動きが加速しているように見えます。
というのもこれまでGMMTVは、テレビでの放映後、国内向けアーカイブとしてLINETV、海外向けアーカイブとしてYouTube をプラットフォームとして選択することが多かったからです。
この要因は、主に3つあると考えます。

1.東南アジアの動画配信プラットフォーム戦争

Bloombergの記事に詳しいですが、東南アジアの動画配信市場での企業間競争が激化しているそうです。

東南アジアのストリーミング市場で盤石な地位を築いている企業はまだない。コンサルティング企業メディア・パートナーズ・アジアによると、世界市場でリードするネットフリックスは東南アジアのどの国でも加入者が100万人に届いていない。
(中略)
中国のメディア企業は元々、国外での事業拡大にさほど関心はなかったが、アナリストらによると、ここ数年、エンターテインメントを利用して世界に影響を及ぼすという着想に魅力を覚えつつあるのが中国政府だ。

特にタイでは各国の大手動画配信サービスがしのぎを削っているようで、さながら戦国時代といった様相です。(LINETV(韓)がオリジナルドラマをNETFLIX(米)に提供するなどの動きもあるそう。)

むろんBLドラマも例外ではありません。各配信サービスにとって、固定ファンのいるBL視聴者を引き込む手段と見なされているのでしょう。

2.YouTubeの視聴者への字幕翻訳依頼機能停止
これまでYouTubeの視聴者字幕依頼機能によって国外のファンを獲得してきたGMMTVですが、その機能も9月末での停止が発表されています。
制作各社の今後の対応は現時点では不明です。邪推ですが、巨大プラットフォーム企業の規約変更に振り回されるYouTubeは、GMMTVにとってももはや魅力的な媒体ではないと見なされたのかもしれません。

3.コロナ禍による経営への打撃(?)
おそらく「独占配信」の場合、プラットフォーム企業からプレミアム分が支払われると考えます。経営状況は不明ですが、コロナ禍により打撃を受けているとしたら、長期的な世界のファンダム拡大よりも当座をしのぐことが優先された可能性もあります。

日本で相次ぐジオブロック

「独占配信」以外の場合でも、国内版権買い付けに伴うジオブロックなどにより、YouTubeからの視聴が難しくなる事態が相次いでいます。冒頭で例に出した『Still2gether』の他にも多くの作品が日本のYouTubeから見られなくなっているのです。

そもそもジオブロックは制作会社の側ではなく、日本の配給会社が望んだ措置であるとも考えられますが、権利元も同意していることは確かです。
日本国内のジオブロックの可否については長くなるため割愛しますが、視聴ハードルを下げることによる新たなファン獲得が難しいという点では「独占配信」と同じ構造だと言えます。

本国と同時視聴が可能なフィリピン「公式」

一方、フィリピンの最大手メディア企業ABS-CBNは6月、最も有名なタイBLの制作会社の1つであるGMMTVと強力な提携関係を結んだことを発表しました。

ABS-CBNはその後、『2gether』『Still2gether』のフィリピン語(タガログ語)吹き替えと英語字幕版の放映、主演2人によるフィリピンのファン向けイベント開催などを行っています。

特に『Still2gether』は、タイとフィリピンの二国で同時放映となりました。

この形式にも「吹き替えでなく字幕がいい」とか「配信されるアプリがメジャーではない」等の批判はあったようですが、少なくともこれによりフィリピンでは、世界中で同時に盛り上がる流れからも遮断されず、しかも自国語で『Still2gether』を楽しむことができると考えられます。

このモデルでABS-CBNがどのように収益を得ているのか(アプリの広告収入か、放映時のCMか、アプリのVIP会員への誘導か)は不明ですが、フィリピンの事例は多くのファンにとって理想の形に近いのでは、と思います。

今後の展開を予想する

拡大途上のサービスにありがちな使い勝手の悪さや、タイ国内からしか視聴できないことなどから、「独占配信」の動きは国外ファンからはあまり好ましく捉えられていないと感じます。
もちろん全てのコンテンツが「独占配信」なわけではありませんし、独占配信後、占配信後、一定期間を置いてYouTubeで公開するなどの措置もあり得ると思います。

ただし現実的に考えると、このプラットフォーム戦争とコロナ禍による経済の落ち込みという状況はしばらく続くでしょう。これらに終わりが来るか、制作各社が方針を変え、長期的な世界のファンダム拡大に目を向けない限り、単一プラットフォーム内に閉じた「独占配信」が相次ぐと予想します。

国内向けのみ/世界発信のコンテンツをシビアに切り分けていく方針という可能性もありますが、相変わらずタイ語・英語を中心に単一の公式Twitterアカウントで運用していることなどから、今のところその兆候は見られないというのが私の考えです。

これまでタイBLは「多言語字幕が付く」ことやYouTubeプレミア公開による「全世界同時視聴」という稀有な現象によって、世界トレンド1位などの驚異的な盛り上がりを見せてきました。
しかし、今後はタイBLの楽しみ方も変化せざるを得ないのではないでしょうか。だとすれば、残念なことです。

特に「ジオブロック」が相次ぐ日本で、さらに「独占配信」の動きも加われば、国内企業の版権買い付けを待つ以外、日本から正規版を視聴する手段がなくなってしまうとも考えられます。VPNサービスの使用やリアルタイム視聴が可能なサイトなどの回避手段もありますが、これまでのような低い視聴ハードルは見込めません。

世界で大注目されているタイBLですが、「独占配信」「ジオブロック」が続けば、すぐにマネタイズは可能な一方、新たなファン獲得は難しくなっていくと考えます。フィリピンのような明るいニュースを望みたいところですが、今後はタイBLの人気にも陰りが見えてくるのかもしれません。

かなり悲観的な結論になってしまいましたが、全て素人の邪推です。個人的には、予想が全く外れ、杞憂に終わることを願ってやみません。

最後に、私はエンタメ業界の人間でもなく、タイドラマのオタク歴も浅いです。事実誤認や間違いがあれば訂正したいので、ご指摘ください。(noteのコメント欄、もしくはTwitterのDM等にお願いします。)

余談:YouTube xternalCC

詳細は不明ですが、YouTubeの視聴者字幕機能に代わる機能を持つ(?)外部サイトも既に立ち上がっているそうです。

このサイトがYouTubeの視聴者字幕機能を代替できるかは未知数ですが、今後も注視していきたいと思います。