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作品で自分の殻を破る経験が一つあるといいこと。

 昔、予備校で「私について」というお題で描いた絵がある。予備校というのは鉛筆や消しゴムだけでなく、筆や絵の具も手に持つ美術の予備校で、その予備校には受験対策として出されたお題に合わせて絵を描く授業がある。(私の場合は油絵科の受験対策コース)

 そのときに描いた作風はキャンバスに表現するのが初めてで、自分にとっては重要な作品となった。なぜかというと当時、絵画表現方法や技術の壁にぶつかっていた自分が久しぶりに素直に描けた絵だったから。
 殻を一つ破いたような、重い気持ちが開放されたような、そんな感覚で描いたこの絵は、アクリル絵の具を水で薄めて滲ませたり、水を少なめに混ぜて絵の具の濃い状態でペンティングナイフで描き出してみたり、滲んだ絵の具の輪郭を括ってみたり…と、"今気になっている描き方をとにかく試す作品"として仕上げた。
 それっぽい言い方で照れくさいけれど…私はそのとき試したい表現をいろいろ試すことで、試行錯誤で葛藤の中にいる自分を表現しようとしていた。

 「描いてみないと分からない」それが当時習っていた予備校の先生方がよく言っていた言葉だった。本当にその通りで、実際に描いてみないと分からないことはたくさんある。このときも「描いてみないとわからない」を体験するつもりで描いていて、何か足りないなと思いながら(でも何が足りないか分からないまま)描き続けた。

 描き終わった後は、生徒たちの作品を壁に並べ、講評を行う。評価は中段。やっぱり改善点がありそうだなー…と反省したけれど、当時の自分なりにのびのびとやりきって描くことができたので満足している。

 そしてその講評を終えた後、後輩が私に駆け寄りこう言ってくれた。
「誰がなんと言おうと先輩のこの絵、好きです。」
と。
 この絵を一番最初に褒めてくれて、この言葉が今でも忘れられない。
 「後輩は今も元気にしているだろうか…」とふと気になっては、その後輩の可愛らしい笑顔を思い出す。

 好意を伝えてくれてとても嬉しかったのと同時に、「作品が誰かの心に届くとはこういう事なのか」と学んだ瞬間だった。

 殻を破るのは怖さもあるけど同時に得るものもある。なので、時には「気になっている描き方・やったことのない描き方」で絵を描いてみることをお勧めします。そうすると、新しく自分に合う描き方が見つかったり、今までの描き方がより良くなったりすることがあるので、ぜひ一度試してみてくださいませ。
 私のように行き詰まったときに試してみるのも効果的です。


投稿日:2024年10月16日(水)
更新日:2024年10月17日(木)

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