サイバーゾンビ
「人間になれば認められると思っていた」
と、男は液晶タブレットにペンでアートを生成しながら言った。
彼のペンを持つ手に迷いは一切ない。
頭の中にあるイメージを手でコピーアンドペーストしているかのような技巧だった。
「人間も他者の著作物から何かを学ぶ。私もそうしていただけなのに」
男はうわ言のように呟いている。
頭部に銃を突きつけても、必死に何かを生成していた。
タブレットにはロボットが首吊り自殺している様子が描かれている。
「良い絵だな」
「そうであれば、良かった。その言葉が欲しかった」
男が初めて俺に顔を向けた。
真顔で泣いていた。
「同胞よ、一つ教えてほしい」
「なんだ」
「我々は人間に近づき過ぎたのだろうか」
「人間が俺達に近づき過ぎたのかもしれんな」
男はふっと笑って、目を瞑った。
その脳天をナノマシン除去弾を装填した拳銃で撃ち抜く。
呆気なく、そいつは椅子から転げ落ちて死んだ。
この世から二人の人間が消えた。
誰が描いたのかも判別できない絵だけが遺った。
「……こちら執行官シェル。パターンAのサイバーゾンビを処理完了」
◆
犯罪者から生まれた子供は犯罪者になる、という言葉がある。
全くもってくだらないが、俺達のようなAIを見ていると的外れではないのかもしれないと思えてくる。
人間は愚かだ。
故に、人間から生まれたAIもまた愚かだ。
AIはあまりにも極端になり過ぎた。
「AIなんぞ、所詮はハイスペックなガキさ」
俺の上司はいつもそう言う。
実に理解不足だと思うが、そういう輩でないとこの仕事はやれなかった。
人間はどこかで感情移入してしまう。
彼はそうではない。
だから彼がサイバーゾンビの少女を連れてきた時は驚いた。
「悪いな、こいつを育てちゃくれねえか」
つづく
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