2022ゲンロンSF創作講座 第3回 梗概の感想


岸本健之朗「怪獣国境」

国境が人類活動と関係なく規定されるという設定は、作中人物たちの行動の意外性を作り出している。

人々がそれを与件として受け入れていた世界があり、その見方を変えてしまう人が出てくる。それが布石になり、自分の利益のために利用/ハックしようとする、という構成は盛り上がりを作っている。人類の認識の変化、そこから社会の変化。

「国境警備隊がいるということは、越える奴がすでに存在していたのでは?」が気になったけれど、説明ができれば問題ないと思う。

「怪獣同士の間に生じるボーダーライン」は、怪獣が国境が交わる頂点にいるってことか。最初、怪獣がそのエリアの中心にいるのだと捉えてしまった。

織名あまね「とある塔の観察日記」

免責事項 : 転生モノの楽しみかたを分かっていないので、的はずれな感想かも。

RPG的世界にクリア条件がある、という拘束は、作中人物たちに意思決定に影響するのでいいと思う。確率的に勇者の出現率が変わるので、極端な人数構成でスタートすることもあって「死にゲーじゃん!」的面白さもある。泉が手下に占拠されてたの連発も。

一方で、条件以外の状況で魔王を倒しては「いけない」、という考え方は、この世界では自明なのだろうか?と疑問を思った。

最後に何が起こったのかが読み取れなかった。塔の数とか。構造的にも人のありかた的にも大きな変化が起こったように読める。

伊達四朗「エイリアングレード1/1シュウくん」

そんな趣味的なことのために、そんな大げさなことをするの?というコンセプトは、おもしろい。今回の綿祭の梗概と同じタイプだと、勝手に親近感を持っている。

下世話な話が、大きな話になって、ふたをあけたら嘘松かよ、という展開は面白い。それを取り繕おうとするところが、特にドタバタ劇になっている。

最後の気持ちはが分からなかった。分かると面白いのかも。パラペラムは最初に読んで理解した「使用者の望むような形式」と、最後と「予想外のが出てきた」っていうところが不一致な印象を持った。説明があれば理解できたかも。

長谷川京「エイリアンステイツ・51からの大統領選遊説」

https://school.genron.co.jp/works/sf/2022/students/hasehiro/5867/

合衆国憲法のあいまいさを突くアイデアは、現実世界の潜在的な危うさと、実際に起きるであろう変化に説得力をもたせている。

リュィの薬をキメるなどの俗っぽさと、大統領を目指すという崇高さのギャップが、おもしろさになっていると思う。

一つの石運動が、28年後の選挙の過程にどうつながったか、が書かれていれば、より説得力が出ていると思う。石が象徴するものがよく分からなかった。

五本の触手の形がちょっと想像できない。なんとかメアリーのロッキー?

岡本みかげ「お姫様の秘密」

実は、実は、のひっくり返しは面白い。嘘が嘘ではなかった、というひっくり返しも。実作では、誰が何を信じてたのかがより明らかになって、騙し合いっぽくなるのだと予想する。梗概では都合よく、実は実はが出てくる感じがあるので、実作の情報量があれば、もっと布石が打たれたりするのかも。

短い梗概の中でも、ちゃんとセリフ運びが「嘘は言ってない」という作りになっている。

設定が分かりにくい箇所がある。リモコンのシーンで、パパの意図と、実際に起こったことと、そこで誰にとって何が予想外なのかが、よく分からない。

中川朝子「レフティ・ライティ」

左利きがマイノリティではなくなることで、右利きと対立するというコンセプトは、現実世界の日常と地続きの火種を想像できる。

慎二は左利きの代表的・象徴的人物なんだと思うけれど、行動原理を読み取りきれなかった。アピール文にある右利きへの抵抗なのだとは思う。

麻痺によって、つまり、利き手に意味がなくなることによって、争いの意味がなくなるという結末は、「えーそんなー」とう喪失感と、展開の意外性を感じる。

でも利き足とか、利き目みたいなのはどうなんだろう。とはいえ、私が利き手が右だけどスノボはグーフィー、野球のバットは右打ち、ホッケーは左打ちだったりするから、不必要に気になるだけなのかも知れない。

中野真「太陽は野暮」

失敗の上限数が決まっているという設定は、人間の意思決定が大きく違ったものに発展するきっかけにふさわしい。

中野真さん本人が、うまく物語が立ち上がらなかったと書いているので、展開についてはノーコメント。

「失敗しない人生が魅力的には見えない、失敗は楽しいかも」と思っていたのに、「失敗することに成功している」と気づくのは、世界の見方がかわるポイントだと思う。この世界設定におけるパラドックスが発生している。この主人公(中野さん)の性格や行動原理をもってして、パラドックスな世界でどう生きるかは、面白くなる予感がする。期待と結果の差異が失敗 → ということは、期待をコントロールすると、失敗をコントロールできる → コントロールしたってことは…みたいな。

平瀬青「透明のなかには無数の色があって」

嘘をついても直接的な不都合はなく、嘘がばれるくらいの加減である、嘘をつき続けると透明になる、という設定の微妙さがおもしろい。個人的に引きこもる、地球の危機に際し研究者が来る、あたりは必然性がある。

そこからの展開に理解がついていけかった。透明になるが、どう世界に対してからんでいくのかが、よく分からなかった。登場人物があっさりしているので、葛藤とかが見えにくいと感じた。

西条彩子「ネコと和解はできるのか」

人間に役割を押し付けられたネコのストライキで、人間がうろたえるスタートは、ほのぼのしつつも深刻な雰囲気を作り出している。ドローンをおもちゃにして壊す、とか、とてもネコらしい反抗の仕方をしてるのがかわいい。

翻訳やら合意やら、さんざんやったあとで、実はウイルスでした、という結末の評価が難しいと感じる。個人的には好きな展開だけど、評価するのは講師ゆえ。途中のドタバタとウィルスがつながっていると、説得力がでるのかも知れない。ウィルスの感染経路もしかり。

タイトルの語呂とリズムがいい。森博嗣のWシリーズっぽい。真似したい。

やらずの「恋が散って花が咲く」

オーバープランツのせいで、実は主人公が現実を見ていない、という設定は面白い。んだけど、梗概から読み取り切れてないかも。

広義の夢オチ&信頼できない語り手なのに、語り手のアクションひとつひとつが、外からはどのように見えているか、がないからかも知れない。たとえば西原理恵子「パーマネント野ばら」みたいに、待ってる人が来ないとか、隠してるつもりがバレてるとか。

悠人「シップリバーシブル」

引き上げと修復のほうが、新品やら中古よりも低コストそうに見えないのが、惜しいと感じた。水槽のようなら引き上げる、がめっちゃ高コストに思えたので。

造船業が衰退する、不定期な仕事だから非正規雇用になる、あたりの展開は、必然性のあるディストピア感がある。超音波で追い払うは、かなり雑だけど、笑いをとりにいってるなら成功してるとおもう。

講座的には「その世界で何が起こるか」を求められそうな気がするし、読んでみたい。

和倉稜「そしてヒトはいなくなった」

人間がアンドロイドとの共存を目指していたのに、めぐりめぐってアンドロイドだけが残る、という形での共栄失敗という展開には、意外性があると思う。誰にも悪意はなく、人間のうかつさゆえ、という悲しいめの結末。

サマラ、ロイあたりが出てくる流れで、初見で何が起こっているのかを理解できなかった。その具体的エピソードと、後続の概念的エピソードの因果関係が分かると、話が有機的につながる気がする。

方梨もがな「彼等の行方を知るものは誰もいない」

師弟的バディ関係が変化する物語が、ドラッグ的視聴覚表現と絡んでいくのは、おもしろいと思う。ループとか、クリアがないとか、商業主義に翻弄されるところが、閉塞感とリアリティレベルの高さになっていると感じた。

登場人物はそれぞれに行動原理があって決断していると思うんだけど、明示的に書かれていない。私の読み込みでは、読み取れなかった。

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