かゆみ学#9 〜アトピー性皮膚炎へのガバペンチノイドの適用について〜
僕は普段、かゆみの慢性化について、代表的な慢性掻痒疾患としてアトピー性皮膚炎に注目し、研究を行っています。
その中でも、現在の重大な研究課題の一つに、
慢性掻痒疾患に対するガバペンチノイドの適用の検討
があります。
ガバペンチノイドに分類される薬には、
ガバペン(ガバペンチン)やリリカ(プレガバリン)が存在します。
今回はアトピー性皮膚炎に対するそれらの適用について個人的な見解をまとめていきたいなと思います。
※僕は普段から研究しているとはいえ、あくまでもいち学生であり、医師免許および薬剤師免許を有してはいません。
誤った情報を提示しないよう、細心の注意を払いますが、あくまでも一意見として参考にしていただければ幸いです。
📍ガバペンチノイドとは
ガバペンチノイドとはα2δリガンドのことを指します。
電位依存性Ca2+チャネルのα2δサブユニットに結合することで、Ca2+の流入を抑制し、神経伝達物質の放出を抑制することで作用発現します。
最初のガバペンチノイドとして1973年に開発されたのが抗けいれん薬であるガバペンチンです。
その後ガバペンチンは抗けいれん作用の他に帯状疱疹後神経痛などの痛みにも有効性があることが判明してきました。
そういった背景もあったことから続いてのガバペンチノイドとして、2004年に線維筋痛症に伴う疼痛、神経障害性疼痛を適応症としたプレガバリンが開発されました。
よってガバペンチノイドは鎮痛作用を示す薬(例外もある)ということが分かっていただけたかと思いますが、実は、痛みとかゆみの伝達メカニズムというのは類似点が多いことが知られているため、これらガバペンチノイドは慢性掻痒疾患にも用いられる場合があります。
具体的には、主に欧州において、尿毒症性掻痒や神経障害性掻痒に用いられています。ただし、日本においては保険適用外であります。
📍モデルマウスを用いた鎮痒作用の検討
我々の研究室では、NC/Nga マウスを用いて自然発症アトピー性皮膚炎モデルマウスを作製し、ガバペンチンおよびプレガバリンのアトピー性皮膚炎の慢性掻痒に対する鎮痒作用の検討を行ってきました。
モデルマウスにガバペンチンを100 mg/kg、プレガバリンを30 mg/kg経口投与した場合にモデルマウスの自発的掻き動作は溶媒投与群(コントロール)に対して有意に抑制されることが分かっています。
よって人間においてもこれらガバペンチノイドがアトピー性皮膚炎による痒みに対して鎮痒作用を有する可能性があるかもしれません。
📍臨床におけるこれらの副作用
ただし、これらの問題点として副作用にめまい・傾眠があることが言われています。つまり鎮静性抗ヒスタミン薬と同様に鎮静作用を有するということです。
めまい・傾眠は思っている以上にQOLが低下する、厄介な副作用です。
(眠くて普段通りの生活が送れないことを想像してみると分かるかと思います。)
現にリリカ(プレガバリン)は成人に対して150 mgを一日2回服用することが理想用量でありますが、そこまで用量を増やせる患者はほんの一部だそうです。
保険適応外であることを鑑みても、慢性掻痒に対する第一選択薬にはなりずらいというのが現状かと思います。
📍タリージェについて
余談になります。
2019年には、新規ガバペンチノイドとして第一三共がタリージェ(ミロガバリンベシル酸塩)を開発しました。
今までのガバペンチノイドの問題点であった副作用の鎮静を軽減するように設計されています。
α2δはさらにいくつかのサブユニットに分けられますが、疼痛に関与しているとされるα2δ-1に選択的に結合することによって、鎮静に関与しているα2δ-2に対する親和性を低くすることにより実現されました。
もしかすれば、ミロガバリンも欧州で用いられているように尿毒症性掻痒、神経障害性掻痒にも有効性を示すかもしれません。
📍まとめ
以上をまとめると、
・ガバペン・リリカは慢性掻痒疾患にも用いられる場合がある
・アトピー性皮膚炎への効果はマウスレベルでは示されているものの、臨床では不明
・日本では保険適応外であり、副作用も強い
慢性掻痒疾患には現状有効な薬がありませんので、最終手段として用いるのがいいのではないかというのが今のところの個人的な考えです。
📍参考文献
・ガバペンインタビューフォーム
・リリカカプセルインタビューホーム
僕の研究を応援して頂ければ幸いです!